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トレンド守備【5-2-3】

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雨空の中で行われた横浜FC対浦和の試合はスコアレスドローに終わった。両者互いに勝点1を分け合った訳だが、首位を追走する浦和と、残留に向け勝点が欲しい横浜との間では勝点の意味合いが変わってくるものだった。

試合の構図を振り返ると浦和がボールを握り、横浜が5-2-3の守備から攻撃に出ていくような展開が多かった。今回の試合で改めて5-2-3の守備力の高さと浦和のアタッキングサードでの乏しさが顕著に現れていた。

機能性に優れた5-2-3

横浜の守備時は3-4-2-1から両WBが最終ラインに加わる5-2-3へと変形する。前からハメられそうな時には積極的に前から人を捕まえに行き、相手に余裕がある時には撤退してミドルブロックで構える使い分けが徹底されていた。

横浜のハイプレス

前半の立ち上がりから横浜は5-2-3のプレスで良い流れを作った。下の図のようにCFのマルセロヒアンが岩尾を消しながらGK西川までプレス。それに連動してカプリーニがサイドへと誘導するようにプレスをかけて、LSBの明本にはRWBの近藤が飛び出してハメに行く。最終的にホイブラーテンのパスミスを誘うことができた。

2:35の横浜FCのプレス

4:30も同様に横浜FCはハイプレスから浦和のミスを誘った。先程と同様に片方のサイドへと誘導し、マルセロヒアンは背後の岩尾を消しながら西川まで飛び出していき、山下と林が連動して前に飛び出して圧力を強めた。横浜FCはハーフコートマンツーマンのように人をしっかりと捕まえて縦パスに対しては強い圧力をかけて浦和に自由を与えなかった。

4:30の横浜FCのハイプレス

横浜のミドルブロック

ミドルブロック時には5バックで5レーンを埋め、ゾーンディフェンスと人を捕まえるディフェンスのハイブリッドディフェンスへと移行する。

下の図のように横浜は5-2-3で構えたところから前線3枚で中央を閉じて、中盤の2枚はボールサイドへと圧縮、縦パスに対しては5バックが厳しくチェックして浦和に自由を与えなかった。

12:27の岩尾から明本への縦パスを吉野が厳しく対応してパスミスを誘った場面

90:17でも同様にホイブラーテンからハーフレーンにいる明本に対して吉野が強く前に出てボールを奪うと、そこから横浜FCはカウンターに繋いだ。

90:17の横浜FCのミドルブロック

横浜FCの5-2-3は非常に機能性に優れていた。ワイドの選手に対してははWBが真っ直ぐ飛び出して追い出し、ハーフレーンにいる選手にはワイドCBが真っ直ぐ出ていって対応。中盤の2枚は縦パスのインターセプトを狙いながらもボールサイドに圧縮して展開させない守備をこなす。前線3枚で中央を消しながらサイドへと誘導してトラップをしかけ、ハイプレスのスイッチを入れたり、カウンター時には前線の起点になる役割を果たした。

CLの決勝戦、マンチェスターシティ対インテルの試合でもインテルが5-3-2から5-2-3に変形してシティの攻撃をかなり制限していた。5-2-3というシステムは仕掛ける守備(ハイプレス)と守る守備(ミドルブロック、ローブロック)の両方を行えるので、汎用性が高い。また、ハーフレーンをワイドCBが飛び出すことで迎撃し、幅を使ってくる相手にはWBで対応できる。またボールホルダーにも前線3枚で圧力をかけやすく、カウンターも打ちやすいという現状では最も守備力のあるシステムかもしれない。

対5-2-3

浦和サイドからこの試合を見た時に機能性に優れた5-2-3を攻略することに非常に手こずった印象だ。

まず、ビルドアップでハーフコートマンツーマンのような形で来る横浜に対して配置的優位性を取って攻略する場面はあまり多く見られなかった。

それでも浦和が攻略方を見出したのは動き出しで瞬間的にフリーな選手を作り、3人目の動きで横浜のDFを振り切るやり方だった。下の図のようにボランチの伊藤が瞬間的にユーリララから離れて西川からボールを引き出して、大外から内側のレーンに入ってきたRWGの大久保へとパス。大久保はダイレクトで3人目のサポートに入った興梠へと繋ぎ、浦和は局面を打開した。

21:07の浦和のビルドアップ

横浜も全ての時間帯でハイプレスをかけ続けられる訳ではないのでミドルブロックを作った時にはDFラインでは余裕が生まれる。59:45では横浜の前線3枚の脇からラインを越えた浦和だったが、RSB酒井の大久保へのパスはLWB林にカットされた。

59:45の浦和の攻撃

横浜のように特に前線の選手に対して捕まえてくる守備を行う相手に対しては、もう少しネガティブトランジション込みの攻撃を仕掛けても良いのではないかと思う。例えば、上記の酒井のパスも相手を後ろ向きにするようなボールを送り、相手がボールの処理に困る中でボールを奪ってニ次攻撃に繋げるといった気概があっても良かったかもしれない。特に5-2-3で穴が少ない横浜の守備に対してはそういったやり方も一つの手だったのではないだろうか。

ボールを持たされるのであれば、「ボールを手放してから攻める」ことも必要になってくるのかもしれない。少なくとも今シーズンの浦和はボール保持が絶対のチームではないはずなので、ネガティブトランジションまでデザインした攻撃とは相性が良さそうだ。

浦和の攻撃停滞の理由

オフザボールの活動量

この試合は浦和にとって7連戦目の最後の試合ということでコンディション的に難しいところはあったことは確かだ。技術的なミスも目立ちアタッキングサードでの質の低さは得点力不足の大きな原因の一つだろう。技術的な要素は練習で向上させるしかないのでここでは割愛。

戦術的な面で言うと、浦和はサイドで起点を作ったところから後ろからのチャンネルランを得意としているが、そのチャンネルランができる選手が限られているということが浦和の抱える悩みだ。右サイドであれば、酒井や伊藤、左サイドでは関根や明本がチャンネルランを見せるが、この試合に関してチャンネルランの回数は多くなかった。

横浜のワイドCBは人に食いつくのでポケットにスペースはあったのだが、そのスペースを使う選手が浦和はいなかった。例えば15:45の場面。サイドチェンジから右サイドで2vs2の局面を作ったのだが、3人目の選手が出てくることができずにボールを失った。横浜のLCBのマテウス・モラエスはかなり飛び出して守備する傾向にあったのだが、彼の背後に走り込む場面が浦和は少なかった。

15:45の浦和の攻撃

37:37はこの試合で数少ない浦和の良い攻撃があった場面。下の図のように、右サイドでRWGの大久保がボールを持つと、RSBの酒井がオーバーラップ、ボランチの伊藤がPAのポケットへとランニングしたことでバイタルエリアが空き、大久保から安居へとパスが渡って最後はシュートで終えた。

37:37の浦和の攻撃

前述したように、横浜のダブルボランチはボールサイドに圧縮するので、この場面では伊藤がチャンネルランをしたことでユーリララがボールサイドにいた伊藤のケアのために付いていくので、バイタルエリアが空く傾向にあった。

67:33も同様に右サイドから大久保がカットインしてバイタルエリアの小泉へとパスが繋がり、3人目の動きで背後を取った伊藤がシュートを打った。

67:33の浦和の攻撃

浦和の選手の中で1手前、2手前から3人目の動きでアクションを起こせる選手は限られている。そして、その頻度が多いのが伊藤と明本だ。彼らがどれだけオフザボールの動きでプレーに関われるかが浦和の攻撃の厚みを握っている。しかし、この試合では普段のようなダイナミックな飛び出しは多くなかった。無論、彼ら以外の選手のオフザボールの無さは浦和の点が取れない原因であるのは明確であるのだが。

またゴール前での動きの質の低さもこの試合では顕著になった。例えば、52:50の大久保が右足でシュートを放った場面でも大久保から見て左側には安居、明本、興梠の3人の選手が走り込んでいたが3人とも同じ動きをしていて選択肢が限られていた。大久保のシュートを打ちに行くという状況判断もこの状況ではミスジャッジ感があり、1番ゴールから可能性の低い決断になってしまったように感じられた。ゴール前でのボールホルダーと受け手の両方で問題を抱えているが故に浦和は得点力不足に苦しんでいるのではないだろうか。

前線のキャラクターと配置

浦和の前線のキャラクターと各選手の配置が浦和の攻撃力を最大限まで引き上げているかというとクエスチェンマークが浮かび上がってくる。

例えば、安居はボランチを本職としながらもトップ下での起用が多い。安居の守備力と狭いエリアやプレッシャー耐性が高いという点ではトップ下をこなせることが伺えるが、彼の最大限の力が出ているかというと微妙である。この試合で言えば、67分の背後からプレスを受けても確かな技術と判断で回避する力は持っている。しかし、「どれだけクリエイティブなプレーができるか」、「どれだけの展開力があるか」と聞かれると彼の弱点になるのかもしれない。

29:16のようなアタッキングサードでボールを受けた時に明本へのパスをチョイスしたが、「点を取る」ということを考えた時にDFラインの背後や中央に上がってきた伊藤という選択肢の方がベストだったかもしれない。確実な選択肢を選べることが長所でもあり短所にもなることを痛感させられる。

29:16の浦和の攻撃

安居に限った話ではなく、例えばリンセン。彼はスペースを見つけて動くということができるので80:04のように背後に抜け出して明本からのパスを受けてシュートというような形を持っている。しかし、動き出しの頻度はあまり多くないので、1つタイミングが合わないとオフサイドになってしまったり、ボールが出てこないといった課題も抱えてる。

途中出場となった小泉はゲームに勢いをもたらすことはできなかった。先程紹介した67:33のようなバイタルエリアやPAの周りでボールを受けると、両足蹴れる特長を活かして高精度のパスやパンチのあるシュートを持っている。しかし、彼自身が活かされるプレーというのは得意としていないので、前線のキャラクターによっては存在感が薄くなってしまう。

今シーズン浦和に復帰した興梠も中盤に下りてきてプレス回避の逃げ道を作ったり、前線で起点になる動きでチームに貢献しているが、トレードオフとしてPA内での仕事量は減っている傾向にある。その分、伊藤や酒井、明本といった2、3列目からの飛び出しによってバランスを取っているが、組み合わせ次第では後ろに重いだけになってしまいがちだ。

浦和の攻撃停滞はパズルのピースがハマりきっておらず全体としてどうやって点を奪うかという全体像が見えてこないことは大きな原因ではないかと考えられる。

最適なバランス

この試合の横浜の守備は終始安定していた。何回かチャンスを作られたものの、決定機と呼べるようなチャンスを浦和に与えなかった。

この先、横浜が追究すべき点は攻撃と守備の最適なバランスだろう。現状は守備を最優先にしっかりと守ってからのカウンターというものをベースに取り組んでいるような印象を受けた。

しかし、守備以外の部分での要素はもう少しグレードアップしたいところだ。例えば、この試合ではビルドアップにあまりこだわりを見せず、前進できないので、ブローダーセンのロングキックやDFラインからのワイドへのロングボールが目立った。

下の図のように、何度かボランチの井上が気を利かせて下りてきてボールを捌いていたのだが、それに連動してライン間で縦パスを受けたり、リンクマンの働きをする選手は見られなかった。そのため、ボール保持の終わり方が雑なロングボールで相手に渡ってしまうというような場面も少なくなかった。

52:19の横浜のビルドアップ

リスクを最小限にという心掛けは感じられた。しかし、残留に向けて勝点3が必要になった時にどうやって主体的に攻めるかというアイデアは持っておきたい。

そして、横浜の最大の課題はカウンターアタックの精度だろう。この試合で多く見られたのは良い形でボールを奪ってから、スピードダウンしてしまいシュートまで持っていけない場面だ。59分のカウンターや後半アディショナルタイムでアタッキングサードまでボールを運んでから落ち着かせてしまうのはもったいなく感じられた。ボール保持しながら相手を敵陣に押し込んで、崩して点取るということに取り組んでいるのであれば良いのだが、現状は相手の守備が整う前に攻撃を仕掛けてしまった方が効率が良さそうな印象を受けた。

61:55はボール奪取から良い流れでフィニッシュまで持っていった場面だった。LWBの林がボールを運び、中央のマルセロ・ヒアンへパス。後方から上がってきた井上へマルセロ・ヒアンが落として井上が強烈なミドルシュートを放った。

61:55の横浜の攻撃

この場面は浦和の選手が戻り切る前に素早く攻め切ったことで、チャンスに繋がった。この試合で横浜が1番ゴールへ迫った場面だったように思う。素早く攻め切るのか相手の守備が整った中で人数をかけて崩し切るのか中途半端な舵取りは今後の成績に響く可能性がある。いずれにしても守備が安定してきた中でどれだけ攻撃に注力できるかは横浜FCの挑戦になるだろう。攻守のバランスを失う可能性もあるので、シーズンの残り半分で最適なバランスを見つけると安定した結果が出始めるのではないだろうか。

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