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東南アジアのチームが勝てない理由【ACL準々決勝】浦和レッズvsBGパトゥム

ラウンド16でマレーシアのJDTに快勝したレッズは準々決勝でタイのBGパトゥムと対戦しました。

BGパトゥムはリカルド監督がタイで指導をしていた時に監督を務めていたチームで、現在は手倉森監督が指揮をとっています。パトゥムはラウンド16で香港の傑志に4-0で快勝して勝ち上がってきました。

マッチレポート

スタメン

浦和:4-2-3-1
パトゥム: 4-4-2

試合内容

試合開始直後の50秒に松尾が岩波のロングフィードから背後に抜け出し鮮やかなゴールを決めるがVARでハンドというジャッジになり、得点は認められず。10分には再び松尾が背後に抜け出し、CBトゥニェスにPA内で倒されるが笛は吹かれず。13分にパトゥムは右からのCKからニアで23番が合わせるがゴールを捉えられず。24分に関根がカットインから右足で放ったミドルシュートがゴールに吸い込まれたが、シュートコースに居た松尾のオフサイド判定となり、またまた得点ならず。32分にレッズは関根のパスからモーベルグがコントロールから強烈なシュートを左足で振り抜き、GKの手を弾いてゴール。レッズが先制に成功する。42分にレッズは左からのCKのチャンス。岩尾が蹴ったボールをニアで岩波が頭で合わせたシュートはゴール右隅に吸い込まれ、レッズに2点目が入る。前半は2-0でレッズのリードで折り返す。

後半からパトゥムは10番のティーラシンを下げて7番を投入し、フォーメーションを3-4-2-1に変更。50分にパトゥムは右サイドからのクロスを大畑が頭でクリア、こぼれ球を22番がボレーシュートを放つがゴール右に外れる。54分にもパトゥムは99番がDFラインの背後に流れたボールに反応してシュートを放つが西川が落ち着いてセーブ。56分にレッズはカウンターから関根がシュートを放つが17番がブロック。60分にも関根が左サイドからカットインしてシュートを打つがGKがセーブ。62分にパトゥムは左からのクロスに99番が戻りながら頭で合わせるが西川がしっかりとキャッチ。65分にレッズは伊藤のインターセプトでショートカウンター、最後は小泉が左足でゴール右隅にミドルシュートを流し込みレッズに3点目が入る。71分にはレッズはビルドアップからパトゥムのプレスを剥がすと、最後は途中出場の江坂のパスから同じく途中出場の明本が左足でゴールに突き刺してこの試合4点目が入る。試合はこのまま終了し4-0でレッズが勝利。準決勝進出を決めた。

試合結果

AFCチャンピオンズリーグ2022 ノックアウトステージ 準々決勝
2022年8月22日(月)20:00・埼玉スタジアム2〇〇2
浦和レッズ 4-0(前半2-0) BGパトゥム ユナイテッドFC
得点者 32分 ダヴィド モーベルグ、42分 岩波拓也、65分 小泉佳穂、72分 明本考浩
入場者数 16,210人


マッチレビュー

オールドファッション

BGパトゥムを一言で表すと『オールドファッション』と形容できるようなチームだった。モダンフットボールではポジショナルプレイと呼ばれる位置的優位や数的優位を活かして、相手を上回ろうとするのがトレンドになったが、パトゥムはコンパクトに守って、ロングボールで相手陣内に押し込んで行くようなスタイルだった。

・奪えないプレス
試合を通してビルドアップで前進することに苦戦することが少なかったが、前半に関してはレッズのビルドアップで不安を感じる場面が全くなかった。

4-4-2で圧力をかけようとするパトゥムに対してレッズは自陣からしっかりと数的優位を使いながらビルドアップ。21:53ではレッズのゴールキックから始まり、西川+2CB+岩尾のダイヤモンドでボールを回した。

レッズのビルドアップ

4vs2のロンドですらボールをある程度保持することができるのに、ペナルティエリアほどの大きさでの4vs2はミスをしない限り、ボールを取られることはまずない。

その結果、パトゥムの2トップは撤退。レッズは容易に前進することができた。そしてミドルサードでは岩尾がサリーダで最終ラインに加わり、小泉や伊藤が2トップの背後でリンクマンになることがこの試合は多かった。

レッズのビルドアップとパトゥムの撤退

そもそもパトゥムがゴールキックから奪いに来ていたかは微妙だが、パトゥムは明らかにプレスをかける人数が足りてなかった。これではボールを奪えるわけがない。

・コンパクトだけでは守れない
自陣で守る時も前半のパトゥムは4-4-2を採用。レッズは2CB+岩尾+小泉(伊藤)のダイヤモンドを維持しつつボール保持。タイミングを見て2トップの脇から前進して崩しにかかった。

24:13ではショルツのサイドチェンジから右サイドに展開すると右サイドの連動を活かしてPA内に侵入した。酒井が勢いよくオーバーラップしたタイミングでモーベルグが下りてきてボールを受ける。相手のLSHが引き出されるのでハーフスペースにギャップが生まれて、伊藤がモーベルグからパスを受けることができた。結果的に関根の幻のゴールまで繋がる綺麗な崩しだった。

24:13のレッズの崩し

31:01も同様に2トップの脇からショルツがボールを運んで前進。この時点でショルツ、関根、大畑のトライアングルができていて、パトゥムはなかなかボールにチャレンジができずに後手の対応になる。

関根が強引にカットインした後にモーベルグへラストパスが通った。関根が強引にカットインしなくてもライン間へのパスは通せたようにも思うので、崩しの土台は既に完成していた。関根のカットインの際に大畑が内から外へ流れてスペースを作り、関根が侵入。関根のパスを松尾がニアで潰れてモーベルグまでパスが通った。

31:01のレッズの崩し

モーベルグのワントラップからの強烈なシュートは見事でシュートまで全く無駄がなかった。とは言え、ゴールまでのプロセスを見てみると、前進→侵入→崩し→シュートとチームの構造的に相手を上回ることができたシーンだった。もう『コンパクト』さだけで守ることはできない時代になっていて、どこかでボールにチャレンジできる構造にしておかないとサンドバッグになるだけだ。

・縦ポンサッカー
特に前半は『縦ポンサッカー』と呼ばれるロングボールを使って前進を試みるサッカーをパトゥムは多用してきた。

下の図のように2トップの高さと強さを活かしてCBからロングボールを送り込み、こぼれ球(セカンドボール)を内側に絞らせた両SHやボランチが回収するという戦略だ。レッズのプレスが良いことはスカウティングで知っていたと思うので、自陣でボールを失うリスクを排除したかったのかもしれない。しかし、空中戦でレッズの2CBが勝てていたことと、セカンドボールを伊藤や岩尾がしっかり回収できていたので、レッズにとってあまり脅威ではなかった。

パトゥムの縦ポン

パトゥムとしては27:13のようなロングボールからセカンドボール争いに持っていき、ボールが落ち着かない状況を作り、中盤で相手のミスを奪って、ショートカウンターという場面を狙っていたはずだろう。

相手に付き合うことなく、レッズがしっかりとボールを繋いで試合のリズムをコントロールできたのでほとんどパトゥムの狙い通りになる場面がなかったことだろう。

当然、個人の能力の差はあるにせよ、チームの構造的にもパトゥムは古くささがあり、戦術のアップデートは必須のように思う。東南アジアはサッカーの発展が著しい一方で、国内リーグでは一強他弱のところが多く、戦術のアップデートをしなくても勝ててしまうのではないかと推測する。きっとACLでの経験が彼らに「アジアの舞台で勝つには」というテーマを与えて、東南アジアのレベルを更に引き上げる刺激になっていくことだろう。

経験がものを言う

パトゥムは後半からフォーメーションを3-4-2-1に変更しレッズ対策を行ってきた。レッズはこの変化に対して、後半の開始から10分は苦戦したがそれ以降は適応した。

・マンツーマンプレスと2つのソリューション
50:58でショルツが自陣でドリブルをして奪われそうになった場面があった。間一髪で小泉に繋がったから事なきを得たが、奪われていてもおかしくない場面だった。2点のビハインドだったパトゥムはマンツーマンでハイプレスをかけて、よりリスクをかけてボールを奪おうとしてきた。

50:58のレッズのビルドアップ

もし仮にこの場面でボールを失い失点していればまたゲームの展開が変わっていたであろう。しかし、レッズも10分程度でパトゥムのマンツーマンプレスへのソリューションを見出した。

1つは酒井が低い立ち位置を取ることで相手を前に引き出して、背後を使うやり方。マンツーマンでプレスをかけてくるということは前線も数的同数になっているので、段差を作ればスペースを生み出すことができる。55:01ではモーベルグと松尾が下りてDFを食いつかせて、小泉が背後に抜け出した。

55:01の小泉の抜け出し

以前は前線の選手が下りてきて、背後に飛び出す選手がいなかったが、この場面では小泉がしっかりと周りのアクションに連動して背後に飛び出した。背後への選択肢を常に作れるようになったことがレッズの成長を感じさせる。

2つ目のソリューションが中盤のフリープレイヤー(スペース)を使う方法。相手が前から来るなら相手の前線と最終ラインのギャップを使うやり方は、キックの精度とフリーの選手を認識するスキャニングスキルが必要となるが、60:54では西川から伊藤へとボールが渡り、擬似カウンターに繋がった。残念ながら関根のシュートはブロックされたが相手のプレスをひっくり返した良い攻撃だった。

60:54のレッズの擬似カウンター

・3バックへのプレスの方法
パトゥムがフォーメーションを変えてきたので、パトゥムのビルドアップでも変化があった。前半は4バック+ダブルボランチでボール保持していたパトゥムだが、後半は3バック+ダブルボランチとなり形が変わった。するとレッズのプレスが効かなくなる場面があった。

50:01ではレッズの2トップの間に縦パスを通されたところからパトゥムにアタッキングサードへの侵入を許した。これは相手が3バックになったことで小泉と松尾のプレスの角度が変わったために、間を割られるということが起きた。

50:01のパトゥムの攻撃

最終的にこの攻撃によって、この試合の1番のピンチだったかもしれない22番のボレーシュートまで持っていかれてしまった。

また51:55にも先程の図と似たような形でCBから縦パスを通されてアタッキングサードへの侵入を許した。

しかし、この試合でレッズが凄かったことが修正の速さである。54:24の場面では既に相手の3バックのボール保持に対して、RCBに関根を縦スライドさせて圧力をかけた場面があった。伊藤のスライディングでクリアしたこぼれ球が99番に渡りピンチとなったが、盤面をハメることができていた。

レッズは3バックでボール保持してくる相手に対してSHを縦スライドさせて、DFラインをスライドさせるというケーススタディを持っているので、この試合でも迅速に対応することができた。こういう一発勝負の試合では経験がものを言うことは間違いない。

そして、レッズの3点目は相手のビルドアップからボールを奪ってのショートカウンターだった。モーベルグがLCBにプレスに出る姿勢を見せておいて牽制、ボールを持っていたCBの30番へは松尾がプレスをかけてボールホルダーへの圧力を強めることができたので、縦パスのミスを誘発させて伊藤がインターセプトすることができた。小泉のシュートも見事であったが、3バックに対するプレスの方法をピッチ内で統一できたことはチームの成熟度の高さを感じさせられる。

アジアの舞台で戦うことは様々な戦術へのケーススタディを持っているかが問われるということを、実感させてられた試合だった。

手倉森監督の裏技

最後に推測だが手倉森監督の裏技について。

ただのダジャレかもしれないが一応この試合の裏技としてセットプレーは仕込んできたように思う。前半のパトゥムのキックオフはデザインされたものであり、先日PSGが得点したものと同じやり方であった。

また、7:20にロングスローを行うと見せかけて、ショートスローを行い、30番のクロスから99番にヘディングシュートを許した場面があった。短期決戦となっているので、あまり準備する時間はなかったと思うが、裏技(セットプレー)を仕込んでいたかもしれない。



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