『あと1点』【J1第14節】浦和レッズvs鹿島アントラーズ
レッズは前節の横浜F・マリノス戦で前半を終えて0-3としながらも、後半にユンカーのハットトリックで同点に追いつき引き分けに持ち込むことができました。しかし、リーグ戦6試合連続のドローとなっており、思い通りに勝点を上積みできていないのが現状です。
一方の鹿島はリーグ戦でここまで9勝1分3敗で2位につけており、開幕から好調を維持しています。
広島、マリノス、鹿島と続いた上位とのホーム3連戦。レッズは勝利で煮えきらないチーム状況を変えたい一戦でした。
マッチレポート
スタメン
試合内容
試合結果
明治安田生命J1リーグ 第14節
2022年5月21日(土) 17:04キックオフ・埼玉スタジアム
浦和レッズ 1-1(前半1-1) 鹿島アントラーズ
得点者 6分 アルトゥール カイキ(鹿島)、44分 アレクサンダーショルツ
入場者数 37,144人
・試合ハイライト動画
・試合スタッツ
マッチレビュー
失敗策
レッズはこの試合でボール保持時は3-5-1-1のような中盤を菱形にした陣形でボールを保持しました。守備では宮本と関根がWB気味に振る舞い、5-3-1-1の陣形ね守備をしていました。攻守ともにこのシステムにした狙いがあったと思いますが、攻守ともにぎこちなさが目立ち、機能不全となる失敗策だったように感じました。
・明本の左CB
ボール保持時に明本が3バックの一角に入ることが多くありましたが、明本に対して下の図のように鹿島が和泉を前に出す形でプレスをかけてきました。明本は器用な選手ではないので体の向きによってパスコースが限定されてしまうことが多く、2:00のシーンでは柴戸のところに縦スライドしてきた常本によって潰される形となりました。
そして2:48では西川からボールを受けた明本が和泉に左足を消されて体の向きが内側になったところを和泉に潰されて、最後は上田がシュートという場面がありました。
もちろん明本の役割が普段とは違っていたので明本の判断が遅かったり適切ではない場面がありました。しかし、それに加えて特に前半は菱形の中盤のサポート(パスをもらう角度)が悪く、明本がボールを持った時に選択肢が少ない状況がかなりありました。
12:16ではハーフスペース(和泉の背後)にレッズの選手がおらず関根が明本からボールを受けた時にダイレクトでパスを出せない状況+明本の体が外側に向いているので関根にしかパスを出せない状況となりボールロストしてしまいました。
レッズとしては25:00のような関根に当てた時にダイレクトで内側へパスを入れられる角度にサポートに入って逆サイドに展開するような形を作りたかったのだと思います。ですが、鹿島のプレスも前半は速さと強度が非常に高かったのでボール保持者に余裕がない状況が続きました。
PKを獲得した場面くらいからようやくレッズはビルドアップが上手くいくようになりましたが、この試合の入りは選手達もどうやって立ち位置を取れば良いか混乱している印象を受けました。
・予想通りと想定外
レッズは守備には5-3-1-1(5-3-2)のような陣形で守ることが多かったです。WB気味にプレイした宮本と関根は常に最終ラインに入る訳ではなく、相手の幅を取っている選手が低い立ち位置であれば、柔軟に前に飛び出していたので必ずしも5バックということではなかったと思います。しかし、この5バックでの守備が混乱を生み、失点に繋がることとなりました。
失点のシーンでは関根が鈴木のサイドチェンジのボールの目測を誤って常本の方まで飛び出してしまい、手前の和泉をフリーにさせてしまいました。その結果、明本と岩波が和泉に喰いついてしまい、中央でフリーになった上田がフェイントを入れる余裕を与えて強烈なシュートをお見舞いされてしまいました。ショルツも3CBsの右にいたのでスライドが遅れてシュートを打たせてしまいました。西川が弾きはしたもののカイキに詰められて失点し苦しい立ち上がりになりました。
15分あたりからようやく前に出てプレスに行く人、最終ラインに入る人、選手達の距離感が明確になり始めてレッズの守備がハマりだしますが開始からすぐでの失点はもったいないものでした。
レッズが守備で狙いとしていたのは18:47のような場面だったと思います。下の図のように、宮本を前に出した右肩上がりでボールホルダーにアプローチをかけてパスコースを限定、この時に関根が最終ラインに加わってクロスやサイドチェンジへの対応に備えます。そして、この時はカイキが大外で幅を取ってきましたが、伊藤とショルツがサイドでロックする形で3vs2の局面を作ることができました。残念ながらカイキが素晴らしいファーストタッチで伊藤を剥がしたので、ここで奪うことはできませんでした。ですが、もし仮にここでボールを奪えると前線で2vs2(ユンカー+江坂vs関川+三竿)の局面になっているので十分にカウンターで得点を狙える状況でした。
鹿島は中盤が菱形になることが多いので、幅を取る選手がSBになることが多いです(この試合では鈴木が外側に流れることもありました)。そして中央に人数をかけているので、レッズも柴戸、岩尾、伊藤の3枚で中央を厚くして、奪ったら縦に速いカウンターを意図していたと思います。
レッズの予想通り鹿島は上田のポストプレイやピトゥカのキープから中央で起点を作って、大外で幅を取っている安西や常本に展開してクロスという攻撃が多かったです。
しかし、想定外だった部分は鹿島が1vs1の局面で質的優位を発揮する場面が多く、鹿島の選手が体勢が悪い状況でもキープされてしまったり、良い形でボールを奪う場面が少なかったことです。
また、18:57のようにボールを奪った際にユンカーの動き出しを見れていなかったり、前線に素早くボールを供給することができないこと多く、レッズとしては「奪ってからカウンター」が発揮できない想定外の状況でした。
システムの欠陥
レッズは前半のPKに繋がった場面まではビルドアップに苦労してアタッキングサードまでボールを運ぶことにとても苦労しました。しかし、レッズは徐々に鹿島の強度の高いハイプレスの攻略の糸口を見つけていきました。
PK獲得に繋がった38:56のシーンでは柴戸が岩波の左脇に下りてきて、明本が左ワイドの高い位置を取ることができました。これによってこれまで和泉が前に飛び出して3バックにプレスをかけていましたが、和泉が明本のケアで最終ラインに吸収される形となり、柴戸がドリブルで前に運ぶスペース作ることに成功しました。
実は28:46あたりで流れの中で柴戸が下りて、明本が高い位置を取れた場面がありました。そこからリカルド監督とショルツが話している場面がありましたし、鹿島のプレスの攻略方法が疑心暗鬼から確信へと変わっていったように伺えます。その場面以降、レッズは徐々に鹿島の守備システムの欠陥となるような付け入る隙を探していき、最終的に同点ゴールが生まれたこのビルドアップにつながりました。
得点以降、46:21にも柴戸が岩波の左脇に下りて左サイドから持ち運び、前進することができた場面がありました。この時はハーフスペースにポジショニングしていた明本へのパスがズレて繋がりませんでしたがこれまでになかったプレイが立て続けに起こりました。
・従来のレッズのサッカー
後半に入るとレッズは前半に掴んだ鹿島の攻略方法をベースに更に改良を加えました。
前半、鹿島は菱形にしてアンカーの岩尾に対してピトゥカを当ててきました。そうすると柴戸と伊藤がそれぞれ樋口とカイキに捕まり、明本のところで詰まる場面が多々ありました。ですので、レッズは後半から3-2-5の形でビルドアップを行うようになりました。65:09では下の図のように鹿島の中盤がレッズの中盤を捕まえることに苦戦し、プレスが遅れたので、レッズは明本→柴戸→宮本とパスを繋ぎ前進に成功。宮本からユンカーへスルーパスが通り、ユンカーが右足でシュートまで持って行くことができました。
後半から鹿島も運動量が落ち、プレスの強度が下がっていったことも影響してレッズが落ち着いてボールを保持しながら前進していく従来のサッカーを展開することができました。
柔軟性と完成度
レッズはマリノス戦で効果的だった縦に速い攻撃をこの試合でも狙いとして持っていましたが、ユンカーが鹿島のDFラインの背後に抜け出すような場面はほとんどありませんでしたし、素早いカウンターも少なかったと思います。
試合後の会見でリカルド監督は
と前節のマリノス戦からの継続した結果、今日のシステムになったと述べていました。
マリノス戦から中2日でコンディション的にも厳しい日程だったことや、ユンカーが活きるやり方を模索した際にこの試合のような作戦になったことは理にかなっていると思います。実際にここまでアタッキングサードの質(パスの精度、パススピード、タイミング、ファーストタッチ、動き出し)が低く、得点力不足に苦しんでいたレッズがマリノス戦では3得点を挙げました。相手を自陣に引き込んで置いて縦に速い攻撃を仕掛ければ、相手の守備が整わないうちにフィニッシュまで持って行くことができるのでレッズのアタッキングサードの質の低さを補うことができます。そういった要素を考えても、堅守速攻のようなサッカースタイルをこの試合でも継続する決断は1つのオプションだったと思います。
その一方で、「5-3-2の可変守備から縦に速い攻撃」という作戦はチームとしてどれくらいの完成度だったのかという視点も大切だと思います。守備の部分では人数が足りているのにWBが最終ラインに吸収されていて、鹿島のSBにアプローチをかけられない場面がありました。また、攻撃でもWBが低い位置からのスタートになるので深さを出せなかったり、IH(3ボランチの左右)が鹿島の2列目の背後を取ることができずに鹿島がプレスをかけやすい状況を作ってしまったりと『付け焼き刃』の印象を受けました。
個人的にはこの試合のような「堅守速攻ベース+ポゼッション」と従来の「ポゼッションベース+ポジティブ/ネガティブトランジション」を相手によって柔軟に使い分けていければ良いと思っていますが、完成度が伴わないと勝利を手にすることは難しいと感じています。今後、リカルド監督が柔軟性と完成度を天秤にかけた時にどういった采配を振るうのか注目です。
最後に
前半は自分達が戦い方を定めるまでに時間がかかってしまい鹿島の勢いに押される形となりましたが、1回の攻撃からヒントを得て上手く修正することができた試合でした。スタジアムの雰囲気も後押ししてATの猛攻は見応えがありましたし、途中出場の選手達も上手く試合に入ってプレイの強度を維持していたと思います。
しかし、あと1点が決まらずに結局引き分けに終わりました。『あと1点』を取ることの難しさを痛感させられるここ数試合となっており、またそれがレッズの現状の実力を表しているのかなとも思います。時に、あっさりと得点が生まれることもありますが、基本的に細部を極めて積み上げたものが得点という形になるので、あと1点が決まらないという現状の結果がレッズに足りないものを表しているのかなと感じました。
しかし、ネガティブなことばかりではなくポジティブな要素も沢山生まれていることも事実です。この試合で言えば、失点以降の守備は概ね安定していたと思いますし、後半は鹿島のアンカーの脇を取るところがチームとして狙い通り行えていたと思います。途中出場の選手達もチームに勢いをもたらしました。勝ちがないというのは苦しいですが、負けていないこともクローズアップする必要があります。
次節はアウェイでセレッソ大阪と一戦です。ここで勝利してリーグ戦9戦負けなしと行きましょう。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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