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経験不足な2チーム【カタールW杯: Bグループ】アメリカvsウェールズ

1-1。若手を多く揃えるアメリカと64年ぶりにW杯の舞台に戻ってきた2チムの対戦は引き分けに終わった。勝点2を失ったと見るか勝点1を拾ったとみるか。両チームのパフォーマンスを見ると引き分けが妥当だったように思うが、アメリカからするとやや勝点2を失った感が強い結果となったはずだ。

ウェールズの奇策

まず、この試合でウェールズが5-3-2のシステムで臨んだことが意外だった。これまでは3-4-2-1(5-4-1)や4-2-3-1を採用することが多かったウェールズだが、この試合はベイルとダン・ジェームズの2トップ。H.ウィルソン、アンパドゥ、ラムジーという3人で中盤を構成した。

それに対してアメリカは4-3-3でプリシッチ、サージェント、ウェアの3トップ。ムサ、アダムズ、マッケニーという若手中心のメンバーが並んだ。

前半の主導権を握ったのはアメリカ。最初は4-1-5ベースでのボール保持だったが、ウェールズの守備陣形を見て、RSBのデストが3バックの一角に入り、LSBのロビンソンがかなり高い位置に張ることが多くなった。アメリカが3バックでウェールズのミドルブロックに対応してきたことはウェールズにとって試合を厳しいものにした。

下の図のようにアメリカがウェールズのブロックの外回りで右から左へと展開した時にはウェールズはWBで蓋をすることができるのであまり問題はなかった。ロビンソンが大外に張りプリシッチが内側に入ることが多く、アメリカはそこまでプリシッチにボールを集めることができていなかった。

ウェールズの狙い

しかし、ウェールズはベイルの所でプレスが効かなくなり始めてから問題が発生した。ウィルソンが圧力をかけてアメリカの左サイドへと展開させた時にベイルのプレスが緩いためリームに自由にプレーさせる機会が多くなっていった。こうなるとラムジーがカバーで対応する必要ごあるのでウェールズの右サイドでは人手不足になる。

アメリカのビルドアップ

アメリカはリームがボールを運んで左サイドで4vs3の状況を作れば良かったのだが、LIHのムサがリームの横に下りてくることが多く、リーム+ムサvsラムジーという構造はあまりなかった。しかしながら、ムサの前には広大なスペースがあったのでムサがゴリゴリとドリブルで持ち運びラムジーを抜き去る場面もいくつかあった。

ムサのサポート

ウェールズは簡単に1列目を剥がされて後手に回った状態で2列目が対応することになることが多く、後退をせざるを得なくなり徐々に全体の重心が後ろへと下がっていった。ボールを奪ってからの鋭いカウンターをウェールズは狙っていたはずだが、アメリカのリームとジマーマンの対人守備によってダン・ジェームズとベイルの2トップはロングボールを収めることができなかった。ダン・ジェームズの足をもっと使いたかったがベイルのカバーをするためにプレスを行って疲弊が顕著であり、トランジションで鋭さ見せることはできなかった。

ウェールズは全くボールを持ちたがらなかった訳ではないがアメリカの4-3-3のプレスに苦しんだ。ウェールズはゴールキック時に下から繋ぐ意欲を見せたが、下の図のようにWBにボールを運んだ際にアメリカのSBが勢いよく飛び出してきたので、圧力を受けて上手く打開することができなかった。本来はアンパドゥを使いながらビルドアップをしたいところだったが、CFのサージェントがアンパドゥへよパスコースを上手く消していたので、中央を使っての前進がほとんどできなかった。

ウェールズのビルドアップとアメリカのプレス

アメリカの得点の場面はウェールズがゴールキック時にロングボールを選択したところから始まった。セカンドボールをアメリカが拾い、ロビンソンにボールが渡った時にウェールズは前線(ダン・ジェームズ、ベイル、ラムジー、ウィルソン)とアンパドゥ+5バックの間にギャップがあり、ロビンソンからの中途半端なボールへの反応が遅れしまった。ムサ→サージェント→プリシッチとボールが繋がり、大外からダイアゴナルな動きで背後を取ったウェアがゴールに流し込んだ。

ずっとスペースを埋めながら中央を固くしていたウェールズだが、自らのゴールキックから隙を作る形となり、アメリカがその隙を見逃さなかった。

前半のウェールズは攻守において5-3-2が上手くいっておらず、上手くビルドアップできた場面はWBから前線にボールを当てて落としたところから中盤が前向きの状態を作れた時と、下の図のようにアメリカのWGのパスコースの消し方が甘く、WBがフリーで前にボールを運べる時のみだった。

ウェールズの前進

"元祖ウェールズサッカー"

前半を優位に進めたアメリカだったが、ウェールズがダン・ジェームズに代えてムーアを投入したことで試合の流れが変わった。

196cmの長身であるムーアはユーロでもウェールズの攻撃を牽引した存在で、この日もロングボールを度々収めてウェールズ全体が押し上げる時間を確保。ウェールズが後半から下の図のように4バックにしてビルドアップをした際にC.ロバーツから繰り出されるのロビンソンの背後へのボールは非常に有効だった。アメリカからすると中盤の運動量の低下やWGvsCB+SBの1vs2の状況を作られたことでプレスが効かなくなってしまった。

ウェールズの4バックのビルドアップ

後半からウェールズは中央のアンパドゥとラムジーを使いながらビルドアップする意欲も高めてボール保持の時間を前半よりも作れたらことで前に人数をかけることもでき始めた。

試合終盤に近づくにつれて1点ビハインドのウェールズはムーア目掛けてロングボールを入れてセカンドボールを気合いと根性で拾うような"元祖ウェールズサッカー"を展開。ウェールズリーグではよく見かける光景だが、大きく強い選手をターゲットにボールを蹴り、こぼれ球を球際の強さで勝負するようなフィジカルサッカーだ。現代サッカーにおいて立ち位置やスペースを使いながら相手を攻略するやり方とは180度違うサッカースタイルだ。基本的に欧州の中では弱小国のウェールズだが、近年急激にサッカーが発展していて立ち位置やスペースといったことも浸透し始めた。しかし、技術的な部分でやや見劣りする現状のウェールズの選手たちが1番発揮を発揮できるスタイルはこのサッカーなのかもしれない。

同じグループで同じイギリスであるイングランドの選手ではまずミスしないようなプレーで、ウェールズの選手がミスするような場面がこの試合でも目立った。皮肉にも現代的なサッカーを志しているものの、古典的なサッカーの方が最大限のパフォーマンスを出せるというところにウェールズのジレンマがある。個人的にはイングランドがイラン戦で見せたような相手を圧倒するパフォーマンスを出すには、あと10年はかかると推測している。

『若さ』ゆえの『粗さ』

後半はかなりオープンな展開になっていった。ウェールズがビハインドで前に人数をかけていたので、アメリカがボールを奪った時にはカウンターのチャンスがあったのだがアメリカの『粗さ』が目立った。

4vs4や5vs5というような状況で味方にフリーな選手がいるのにも関わらずドリブルで目の前の選手を抜きにかかったり、ボールを奪った時に丁寧に繋げば良いもののウェールズの圧力を感じてかセーフティーにクリアしてボールを失ったりする場面が多く見られた。

アメリカ代表の平均年齢は25歳と若手が多く揃うチームなのでゲームマネジメントや試合の進め方という点では冷静さを欠いていた。PKを献上した場面でもラムジーの折り返しを受けた後ろ向きのベイルに対してジマーマンがタックルしたことでファールとなった。あのベイルの体勢からシュートを打つことは難しかったと思うので過剰に反応する必要はなかったように思う。あの時間帯までにアメリカがピンチを迎えた場面はFKからのB.デイビスとCKからのムーアのヘディングシュートのみで、守備で多くの問題を抱えていた訳ではなかった。しかし、あの局面では慌てて対応したことでPK献上という最悪の結果に繋がってしまった。

このグループはイングランドが突出していて、2位の座をウェールズとアメリカが争うような構造に見られている。この引き分けがどのように今後影響するのか興味深い。


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