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『恐れ』が招く恐れていた結果【J1第4節】サガン鳥栖vs浦和レッズ

前節の湘南戦で今季リーグ戦初勝利をあげたレッズはアウェイでサガン鳥栖と対戦しました。

鳥栖は昨シーズンから多くの選手の入れ替えがあり、新たな選手たちを迎えながら昨シーズンのサッカーを継続し、ここまでリーグ戦3分けという結果です。レッズはアウェイ鳥栖戦は相性が悪く、鬼門での試合となりました。

マッチレポート

スタメン

鳥栖: 3-4-2-1
浦和: 4-2-3-1

ホームの鳥栖は前節の名古屋戦からメンバーを3人変更。最終ラインに離脱者が多い鳥栖はジエゴ、田代、原田の3バック。トップには宮代が入った。

レッズは前節の湘南戦からメンバーを2人変更。小泉と伊藤が先発に復帰。明本は左SHでのスタートとなった。


試合内容

15分に鳥栖は右サイドへのサイドチェンジから飯野がペナルティエリアに侵入しラストパス、原田が左足でゴールを狙うも枠を捉えられない。26分にレッズはFKで上がっていた岩波のクロスに伊藤がボレーシュート放つもゴール右に外れる。28分にレッズは江坂の落としに関根が左足でミドルシュートを放つが枠の上に外れる。35分に鳥栖は右サイドで飯野がドリブルでボールを運びクロス、岩崎が走り込みながらヘディングシュートを放つがゴール左に外れる。36分に鳥栖は高い位置でボールを奪い、最後は堀米がシュートを打つとポストに当たり、得点には至らず。39分にも鳥栖は宮代が反転からシュートを放つが僅かにゴール上に外れる。40分にレッズは明本の落としに江坂がコントロールシュートでゴールを狙うが枠の右に外れる。43分に鳥栖はCKのこぼれ球を福田がミドルシュートを放つも西川がセーブ。前半は両チーム得点無く、0-0で折り返す。

ハーフタイムに両チーム選手交代は無く同じメンバーで後半に臨む。46分にレッズはカウンターから関根がグラウンダーで折り返し、明本がゴールエリア内でシュートを放つもジエゴがブロック、こぼれ球を岩尾が狙うもゴール左に外れる。52分にレッズは高い位置でボールを奪い酒井がミドルシュートを狙うがゴール左に外れる。53分に鳥栖は飯野のクロスに堀米が西川と1対1になるが堀米のシュートを戻ってきた酒井がブロックし得点には繋がらず。57分に鳥栖はレッズ陣内でボールを奪うと左サイドに展開、堀米のクロスに宮代がニアに飛び込み合わせるがゴールの上に外れる。71分に鳥栖は高い位置でボールを奪い、左サイドの堀米のクロスに途中出場の垣田が頭で合わせて鳥栖が先制。75分には鳥栖の小野が左足を振り抜くもゴールを捉えられない。1点を追うレッズは86分に岩波のロングフィードを江坂がダイレクトでゴール前に流し込むと伊藤が飛び込むがボールに触れられず。後半アディショナルタイムには鳥栖のDFが目測を誤り浮き球をクリアできずにユンカーが反応しシュートを放つも朴がセーブし試合終了。1-0でホームの鳥栖が勝利した。

試合結果

明治安田生命J1リーグ 第4節
2022年3月13日(日) 15:03キックオフ・駅前不動産スタジアム
サガン鳥栖 1-0(前半0-0) 浦和レッズ
得点者 71分 垣田裕暉(鳥栖)
入場者数 9,627人


マッチレビュー

正常な判断

レッズは1試合を通して短いパスを繋ぎながら前進することに非常に苦戦しました。鳥栖は下の図のようにほぼマンツーマン気味に守備をしてきました。プレス時にはレッズのシステムに合わせるために堀米が宮代と並ぶ形で前に出て2トップの振る舞いでプレスをかけました。レッズは岩尾を最終ラインに下ろして、ボランチの位置まで小泉が下りてくるようなビルドアップの形を構築しましたが、人に対して守備をしてくる鳥栖に対してはあまり形の変化は効果的ではありませんでした。

レッズのビルドアップと鳥栖のハイプレス


鳥栖のマンツーマンハイプレスによって、レッズはロングボールで逃げる場面が増えました。32:59のようにいつもなら繋いでいるような場面でもロングボールを選択してしまうシーンがいくつかありました。

40:45の岩波が酒井の背後にロングボールを送った場面がレッズの心理状態を表していたような気がします。下の図のようにショルツから岩波へ展開し、その瞬間に小泉が上手くフリーになりました。しかし、岩波は酒井の走力を使った背後へのロングボールを選択しました。

40:45の岩波のプレイ


試合前のスカウティングで鳥栖が人に喰いつくこと(マンツーマン気味の守備をしてくること)がわかっていたと思うので3バックの左右を引き出した時の背後に出来たスペースを使うという狙いはあったと思います。

しかし、レッズの攻撃のコンセプト的にはこの場面で明らかにフリーになっていた小泉を使う方が通常の戦い方ですし、岩波がパニック気味にロングボールを選択したのだとすれば大きな課題だと思います。鳥栖のようなハイプレスをかけてくる相手に対してボールを保持しながら前進すること、プレスを剥がしながら前進することに『恐れ』を感じてしまってロングボールを多用した結果、レッズは自分達の土俵でプレイすることが困難になります。

そして、ロングボールを多用することでレッズの攻撃は簡素なものになり連続性に欠ける結果となりました。またロングボールを多用すると中盤から後ろの押し上げが難しくなるので、選手の距離間が広がりボールを失った時にすぐに奪い返すこともできなくなります。中盤の省略化はレッズにとってはメリットが少ないので、ショートパスを繋ぐ中で「ボールを失いたくない」という消極的思考から、ロングボールを使った攻撃を多用することは課題だと思います。


評価基準

レッズは鳥栖のビルドアップに対して前から積極的にプレスをかける姿勢を見せました。鳥栖はリーグの中で最も積極的にGKを含めたビルドアップをしてくるチームだと思います。その鳥栖のビルドアップに対して積極的に前からプレスをかけて、相手のビルドアップを阻止しに行きました。概ねレッズのハイプレスは上手く追い込むことが出来ましたが、下の図のようにボールホルダーに対して強く圧力をかけられずに剥がされる場面もいくつかありました。

レッズのハイプレスと鳥栖のビルドアップ

このようにGKを含めたビルドアップをさせるとどうしてもボランチを消しながら前に出て行くレッズの2トップのプレスは初動が遅くなり、ボールホルダーにプレスがかからない場面もありました。

とは言え、レッズは上手くプレスをかけることが多くの場面でできていていたと思います。下の図のように朴にボールが渡った際に選択肢を無くして蹴らせる場面を多く作ることができました。

レッズの追い込みと朴のロングフィード

ただ、この時のポイントはプレスの評価基準だと思います。朴にボールを蹴らせるまでは上手くいしましたが、蹴らせたボールが最終的に鳥栖に転がる場面が多く、ファーストコンタクトで鳥栖に競り負けるシーンやセカンドボールを拾えずに結局撤退守備をせざるを得ない場面がありました。

「プレスで追い込み蹴らせればOK」なのか「最終的にレッズボールに持っていかなければいけない」のかで大きくレッズのプレスの評価基準が変わってくるなと思いました。


『動く』と『留まる』

後半はビルドアップの部分でかなり改善された部分がありました。基本的にレッズのビルドアップは選手たちがビルドアップの配置につき、各々の立ち位置に留まることで優位性を出しています。ですが、鳥栖のような人を捕まえてくる守備に対して全員がそれぞれの立ち位置に留まっていると強い圧力を受けてしまいます。そこで後半はビルドアップ中に立ち位置に留まるだけでなく、立ち位置から動くことも取り入れたことでビルドアップを改善しました。

56:55では下の図のように伊藤が最終ラインに下りて3バックを作り、2トップの脇から前進しました。この時に中盤の岩尾、江坂、小泉は中央に留まり、ドリブルで運び上がるショルツに対して鳥栖の中盤がプレスに出れないようにピン留めします。そしてショルツが運び上がると左サイドの大畑と関根は背後を取る動きを見せました。この時には既に左サイドで3vs2の局面ができているので、飯野と原田はショルツにプレスに行くのかそれともマークを維持するのかで迷いが生まれました。

56:55のレッズのビルドアップ

ショルツから背後へのパスが上手く背後に抜けなかったので、チャンスにはなりませんでしたが、上手く前進することができた場面でした。

また、63:45の場面では下の図よつに西川を含めたビルドアップで数的優位を作りつつ、最終的に岩尾がサイドに流れて作った中央のスペースを使って前進しました。

63:45のレッズのビルドアップ

西川が余裕を持って江坂へフィードを送り、江坂が頭で中央のスペースにボールを落とし、小泉が受けて展開することができました。この場面でも明本と関根が最前線に留まり鳥栖の3バックを固定することでプレス出てくるのを防ぎ、最終ラインから中盤にかけて数的優位を作りました。そして岩尾がサイドに流れる動きでスペースを作って上手くそのスペースを利用しました。

『動く』と『留まる』を同時に行うのはチームとして連動していないと上手くいかずにバランスを崩してしまうのでとても難易度の高い作業になります。しかし、今後鳥栖のような人を捕まえる守備で立ち位置の優位性を消してくる相手に対しては動くことと留まることを行わないとレッズのサッカーは機能しなくなってしまいます。

仮に1対1の局面でキープすることができる、剥がすことができる絶対的な選手がいれば話は変わってきますが、現状そういった選手はレッズにはいないのでチームのクオリティーを上げることが必要となってくると思います。


最後に

1対1の強度で相手を上回れなかったり、チームの特長を消されてしまうなど厳しい内容の試合となりました。レッズのサッカーは人に対して守備をする相手との相性が悪い傾向にあるので、そういった相手に対してどうやって攻略していくかは今後の課題だと感じました。

コンディション面でも難しい選手が多く、選手を入れ替えながらなんとかやり繰りして状態なので我慢の時期かなと思います。もうすぐ代表ウィークがあり、リーグが中断になるのでこの期間にレッズの課題やコンディション面など改善していって欲しいと思います。リーグ戦はまだまだ長いので辛抱強く戦っていきましょう。

ここまで読んでいただきありがとうございました。



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