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同じ土俵に立ってはいけない【Jリーグ】アビスパ福岡vs浦和レッズ

前節、大分の5バックに苦しみながらも逆転勝利を収めたレッズはアウェイでアビスパ福岡と対戦しました。

福岡はシーズン前の下馬評を覆す大躍進を見せており、現在2連勝中と調子の良さを維持しています。福岡に勝って連勝と行きたいレッズとレッズに勝って3連勝としたい福岡の1戦でした。

また両チームの指揮官(リカルド監督と長谷部監督)は昨シーズンJ2で対戦しておりお互いどのような戦い方を挑むのか注目でした。


スタメン

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ホームの福岡は前節の広島戦からメンバーを1人変更。右SHにクルークスが入った。

対するレッズは前節の大分戦からメンバーを2人変更。山中に代わって伊藤(敦)が入り明本が左SB、伊藤(敦)がボランチ、小泉が左SHに入った。そしてトップは杉本に代わって興梠が先発起用となった。


試合内容

立ち上がりの前半8分に志知のクロスを西川がボールをキャッチできずにB.メンデスの前にボールがこぼれる。冷静ゴールに流し込まれて福岡が先制。レッズがボール保持し福岡陣内でプレーする時間が長くなるがなかなかシュートまで持っていけずに前半終了。1-0でホームの福岡がリード。

後半から負傷した柴戸に代わり山中を投入。小泉をボランチ、明本を左SH、山中が左SBに入った。後半は柴戸がいなくなった影響もありビルドアップでも上手くいかない場面が増える。なかなかチャンスを作れないまま試合は進み、86分には途中出場のジョアンマリに豪快なボレーシュートを決められてしまい点差が2点に拡がる。結局福岡の堅守の前になかなかシュートまで結びつけないまま試合は終了。2-0で福岡が勝利した。


試合スタッツ

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試合ハイライト動画


同じ土俵での勝負

この試合では今シーズンの中で1番ボールを保持することができた試合でした。この試合の約7割をレッズがボールを握っていましたが、ゴールは遠くシュートまで持っていくことに苦労しました。

その一番の原因として相手の土俵で勝負してしまったことです。福岡は高さがあり、球際に激しくくるような強みがあります。逆にレッズの攻撃は選手の連動コンビネーションで崩すことに取り組んできました。その分、高さや強さでは劣りますが足下の技術やテクニックは長けている選手が福岡よりも多いです。

レッズとしては『高さ』や『強さ』よりは『技術』や『連携』で勝負するべきだったと思いますし、それが1番ゴールの可能性を高める方法だと思います。

・クロス攻勢
レッズはこの試合で上げたクロスは20本以上(データ元によって多少異なります)。クロスが悪いというわけではありませんが、高さで勝負になるような単調なクロスが多くなりました。

下の図のような福岡の4バックが揃っている状態でクロスを上げることが多く、ピンポイントで合わせないと厳しい状況だったので簡単に跳ね返されてしまいました。

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特に後半は山中を投入したこともありレッズはクロス攻勢に出ましたが、クロスを上げては跳ね返される展開が続きました。前半は背後を狙ったり、中央で起点を作ってからサイドに展開など手の込んだ攻撃がありましたが、後半は単調なクロス攻撃になってしまいました。

右側がレッズのデータですが、前半はクロスが7本(成功1本)でした。

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後半はレッズのクロスが20本(成功2本)と圧倒的にクロスが増えましたがなかなかクロスから決定機を作ることができませんでした。

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・食いつかせる
じゃあどうやってアタッキングサードを攻略すれば良かったのかということになります。個人的には「食いつかせる」ことが欠けていたかなと感じています。

相手のDF(特にCB)を食いつかせて引き出すことで背後にスペースを作ることができます。

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また引き出すことで空いたスペースをカバーする為にDFがスライドが必要になりマークにズレができる可能性があります。

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そしてカバーするためにスライドさせることでスペースを作り出すことができます。

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またCBを引き出せればヘディングの強い選手がいなくなるので、クロスを上げた時にチャンスに繋がる可能性も高くなります。

最初からサイド攻撃をするのではなく1度中央で食いつかせるプレーを挟むことで攻撃にバリエーションを出すことができます。ですがこの試合のレッズは中央からサイドという展開を多く作れませんでした。


12:24のシーンでは中央で相手を引き出してからサイドへ展開して最後は関根が合わせるという良い攻撃がありました。

関根から斜めのパスが興梠に入り中央で起点を作ることができ、奈良を食いつかせて引き出すことができました。

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興梠から大外でフリーの小泉へパスが渡り

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小泉がダイレクトでファーサイドにクロス、走りこんできた関根がシュートしました。

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シュートがヒットせずにゴールとはなりませんでしたが、中央で食いつかせたところで相手のマークにズレが生じ最後はフリーで関根がシュートすることができました。

似たようなシーンが82:52にもありました。サイドから斜めのパスで中央で起点を作ることができれば相手を食いつかせることができるので、周りが空いてきます。レッズとしてはこういったシーンをより多く作れれば、もっとチャンスを作ることができたと思います。



失ったレッズの心臓

前半に柴戸がボールキープの際に負傷し、ハーフタイムで無念の交代となってしまいました。この柴戸の負傷交代によってレッズはプランの変更を余儀なくされました。

そして柴戸不在の影響は大きく、明らかに後半の方が苦戦を強いられました。

・ビルドアップ
まず明らかに影響が出たのがビルドアップです。柴戸がいなくなったことで、ビルドアップの形も変化させました。

<前半>
前半は2-3-5の形でビルドアップしました。

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福岡は陣形を変えずに4-4-2で守備をします。

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すると左右のボランチから前進することができます。例えば伊藤(敦)がボールを持った時に前が寄せてくると小泉が空きます。

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福岡の右SHクルークスが寄せてくれば大外の明本がフリーになります。

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このようなビルドアップを左右両サイドで展開することができていました。福岡の2トップもそこまでレッズのビルドアップに対して制限をかけて来たわけではなかったので、ハメられることもなく前半は上手く前進することができました。

<後半>
後半柴戸が負傷交代したことやビハインドということもあり、ビルドアップの形を3-1-6(2-2-6)に変更。ビルドアップの人数を減らして前線を厚くした形にしました。

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ここで問題だったのが最終ラインを3枚にした時のサイド(伊藤(敦)と岩波)の立ち位置が低いことです。福岡の一列目を超えて前進するには2トップよりも高い位置でボールを受けないといけませんが、2人の立ち位置が低く前進しづらい状況を作ってしまいました。

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後ろ3枚のサイドにパスが出ると福岡の2トップが寄せることができます。

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レッズとしては後ろ3人のサイドがボールを持った時に福岡のSHあるいはボランチを引き出して福岡の二列目に穴をあけたかったのですが、FWのプレスが間に合うような立ち位置だったのでなかなか福岡の4-4のブロックを壊すことができずにビルドアップに苦戦しました。


・ハーフスペース
小泉が前半は左SHに入りましたが柴戸の負傷によって後半からボランチにポジションを移しました。そして明本が1つ前に上がり左SHでプレーしました。

前半は小泉がハーフスペースでボールを受けれていて福岡も対応に困っていました。小泉のポジションが絶妙で福岡のボランチとディフェンスラインの間であり、そしてハーフスペースでボールを受けれていたので相手が寄せられない立ち位置を取ることが出いていました。

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しかし、明本が左SHになってからハーフスペースでボールを受けることが少なくなりました。ビルドアップの形の変化もあり、出し手(伊藤敦)との距離が長くなったので明本が福岡のボランチの脇に下りて受けることが多くなりました。

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すると明本がボールを受け場所はボランチの横なのでラインを超えることができませんし、前も迷わず明本に対して寄せることができます。

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もちろんビルドアップが上手くいかなくなって縦パス自体なかなか入らなくなったことや出し手との距離が遠いかったことがありますが、明本は我慢してあまり下りてこない方が良かったと思います。どちらかと言うと明本が下りるのではなく、伊藤(敦)が高い位置を取るべきでした。

明本はどちらかというとスペースがあるところで馬力を活かすようなプレーが特長的で、あまり狭いスペースでボールを受けるのが上手くないです。なので後半の途中から汰木を左SHに投入して明本のポジションをFW気味に変更したのだと思います。明本がハーフスペースでボールを受けるようになると更に一皮向けたプレイヤーになるのかなと感じました。

柴戸が交代したことで小泉のポジションを下げざるを得ない状況になったことはレッズとしては痛かったです。


・データ
この試合の柴戸のスタッツは驚異的でした。パス成功率は98%(SofaScoreより)でチームトップを記録。

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また注目すべきは前方パス成功率。88.4%とこれまたチームトップの記録でした。

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この画像には載っていませんが他にも敵陣パス成功率も96.8%とチームトップでしたし、前線にパスを供給する核だったことが分かります。

ここ数試合での柴戸のビルドアップ力の高さについて面白いニュースがありましたのでご紹介しておきます。

柴戸の運動量やボール奪取力、そして出し手としての働きを使えなくなってしまったレッズはまさに『心臓』を失いました

リカルド監督も試合後の記者会見で柴戸について言及しています。

(柴戸 海選手をハーフタイムで交代させたが、交代させたくはなかったと思う。彼の負傷の状態については?)
「まず、彼は痛みがあって、大事に至らないようにということで交代をしました。彼自身はすごくチームの助けになっていて、今日の試合で言うと相手のカウンターの芽を摘む、そういう潰しができている選手だったので、チームとしてはボールを持って試合をコントロールする上で大事な役割を今日もできていたと思っています。

後半に関しては彼を代えて前線の枚数を増やしましたが、そうすることによってもちろんメリットとデメリット、やれることとどうしても薄くなってしまうことが出てきてしまいます。ハーフタイムに交代するかどうかというところもあったので、そういった決断をして、まずは1点を取って同点に追いつこうという考えの下、交代をしました」

引用:リカルド ロドリゲス監督 福岡戦試合後会見(浦和レッズオフィシャル)

やはり柴戸の負傷交代は痛かったですが大事には至らずに良かったです。


狙いと見込み違い

レッズは柴戸の負傷でプランを変更しましたが、リカルド監督は柴戸の代わりに山中をピッチに送り出しました。そしてビルドアップの形も変更し前により迫力を出そうという狙いが伺えました。

しかし、結果的にこの狙いがレッズの勢いを弱め見込み違いの現象が生まれました。

・ビルドアップの変化
先程にもあったようにビルドアップの形を2-3-5から3-1-6(2-2-6)に変更。推測になりますが福岡の2トップのプレスがそこまで激しく来ないことを考慮して前線に人数を増やしゴール前に迫力を出す狙いがあったと思います。。

ですが、この変更によって逆にビルドアップから前進する際のスムーズさが失われてしまいました。特に岩波が3バックの右でプレーすると上手くいかないことが多く、なるべく岩波ではなく他の選手が持ち運ぶ役割をした方が今のところ上手くいっている印象です。

結果論ですが、形を変えずに西もビルドアップのサポート役としてボランチの横に並んだ方が上手く前進することができたと思います。

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この形であれば基本的に伊藤(敦)、小泉、西が前進する(縦パスやドリブルで持ち運ぶ)役割になるのでよりスムーズに前線までボールを運べたと思います。


・山中の悪魔の左足
もう一つの見込み違いは投入した山中のクロスです。先程も言いましたが高さや強さで勝る福岡を相手にクロスを上げる場合には、ピンポイントでのクロスが必要になります。そこでより精度の高いクロスを上げることができる山中を投入しピンポイントで中の選手に合わせるという狙いがあったと思います。そのために前線も1人人数を増やしたのではないかなと思います。

しかし、この試合の山中はボールフィーリングが合っておらず珍しくキックミスが多くありました。見た感じだとボールが足に乗りすぎているようなキックだったので、芝の長さが影響したのではないかなと感じました。山中だけでなく他の選手のパススピードも遅いことが多々あり、芝が他のピッチよりも長かったのではないかなと思いました。

スタッツを見ても山中は後半のみの出場ながらクロス数は14本ありましたが、成功は0本と悪魔の左足が影を潜める結果となりました。(データ元によって数字は異なります)

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リカルド監督の狙いと見込み違いの結果が出てしまい後半の方がゴールから遠ざかってしまった印象を受けました。

ヒートマップでも前半に比べて後半の方が全体的に色の濃い部分が後ろに下がっていて、なかなか前線までボール届けることができなかったことがわかります。

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最後に

レッズに近い順位にいた福岡には勝っておきたいところでしたが痛い敗戦となりました。ボールを握りながらも攻めあぐねて失点し、まさに福岡の術中にハマってしまいました。その背景にはレッズが福岡の土俵で勝負してしまったことが影響していると思います。

特に後半はクロスを多用した攻撃を展開してしまい上手く攻められない時間が続きました。柴戸不在も影響し終わってみればボールを7割握りながらシュート数では福岡の方が上回る結果に。レッズの最後の質という課題も露呈し結果と内容ともに完敗でした。

ですがここで落ち込んではいられません。連戦が続きますしユンカーの合流や武田とデンの復帰など明るい材料もあります。そして何よりまだまだ成長途中のチームです。1つずつ課題を乗り越えてきた姿を見ているのでここからの奮起してくれるはずです。

次節はホームで相性の良いベガルタ仙台との一戦です。攻撃陣の爆発に期待しましょう。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


出典:


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