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守備戦術の落とし込み【コーチングログ#18】UEFA Bライセンス③

UEFA Bライセンスを取得するためには3つの実技試験をクリアする必要があります。

以前の記事では1回目の実技試験の内容と、2回目の実技試験前に行われた模擬試験の内容をまとめました。

そして、今回はUEFA Bライセンス取得するための最後の実技試験の前に行われた模擬試験の様子を振り返っていきます。


実技試験の内容

本番の実技試験と練習である模擬試験の内容は全く同じです。模擬試験では『メンター』と呼ばれるアドバイスやフィードバックをくれる方が採点を行い、本番に向けて良かった点や改善点を共有してくれます。本番ではFAW(ウェールズサッカー協会)のコーチエデュケーターが評価をします。

実技試験の内容は以下の画像の内容とほぼ同じです。

実技試験の内容

上の画像は2回目の実技試験のものですが、3回目の実技試験では多少内容が異なります。ペアで指導するのではなく、1人で指導します。更に、時間も25分となり、より長い時間の指導となるため内容を充実させる必要があります。

そして8個のテーマの中から1つ選んで指導を行います。今回、私は『Defending Switiching Play(サイドチェンジを防ぐ)』をテーマにしました。

セッションプラン

2回目の実技試験ではペアで指導することができたので、それぞれボール保持と非保持というふうに担当分けをすることができましたが、3回目の実技試験では1人なので2つのチームを指導する必要があります。しかし、あくまでもメインで指導するのはディフェンス側となります(テーマがDefending Switching Playなので。)

ゲームの文脈

フレーミング

まずはゲームの文脈を取り入れる必要があります。どのようなフォーメーションで、どのようなシステムの噛み合わせがあり、どのような目的でこの練習をするのかということです。また、UEFA Bライセンスでは9vs9で指導する必要があるので、「どのように11人制のゲーム文脈を9人制に反映させるか」ということも重要になってきます。

ゲームの文脈
今回は私のメインチームは4-3-1-2のフォーメーション。対戦相手は4-2-3-1という仮定のもと指導を行いました。

4-3-1-2vs4-2-3-1

そこから9vs9の状況にしていきます。今回は「どのようにプレスをかけてサイドチェンジを防ぐか」という狙いがあったので、攻撃側の両WGと守備側の両SBを削りました。

黄色のマッチアップしているポジションを取り除く

そして、WGとSBがゲームからいなくなったため、守備側のハーフコートのコーナーをカットすることで、そのポジションがいない影響を減らします。また9人制のためピッチのサイズもPA-PAのサイズに狭めます。

Specific Training

まず最初の10分はSpecific Trainingと呼ばれる、より細かな戦術練習を行います。このSpecific Trainingではテーマの中でも強調したい現象や戦術的アクションを落とし込んでいくため、9vs9のゲームから更に人数を減らして重要なポジションに対してタスクの確認を行います。

Specific Training セッションプラン

練習内容
・6vs8
・攻撃チーム(オレンジ)は3つのミニゴールのどれかにシュート
・守備チーム(緑)がボールを奪うと10秒以内にビックゴールにシュート
・攻撃チームがシュートを外したら、守備チームボールから再開して、10秒以内に攻撃を完結させる
・ボールがサイドラインを割ったら攻撃チームのゴールキックから再開

Specific Training(黄色のエリアがピッチ)

Specific Trainingではより中盤から前線にかけてのプレス方法とブロックの作り方にフォーカスするために、守備チーム(緑)のGKと両CB、攻撃チームのCFを取り除きます。

9vs9 SSG

Specific Trainingが終わると9vs9のSSGへと移行します。Specific Trainingで落とし込んだ内容が実際のゲーム形式のトレーニングで発揮されているかを確認し、もし必要であれば更にコーチングをして改善していきます。

SSGセッションプラン

練習内容
・9vs9ゲーム形式
・守備チーム(緑)がボールを奪うと10秒以内にビックゴールにシュート
・攻撃チームがシュートを外したら、守備チームボールから再開して、10秒以内に攻撃を完結させる
・スローインは無しで、該当チームのゴールキックからプレー再開

9vs9 SSG(黄色のエリアがピッチ)

先程のSpecific Trainingでは参加していなった選手たちをピッチに入れて9vs9でSSGを行います。3つのミニゴールの代わりに、普通のゴールを使いよりゲームに近い形でのトレーニングです。

指導の様子

Specific Training

まず最初にゲームの文脈の説明を行います。これは練習の目的やフォーメーションを確認する程度なので、約1分くらいで簡潔に済ませます。

文脈の説明

そして、選手が配置に着いたところで、『ウォークスルー』と呼ばれる歩きながら動作確認を行い、練習のルールを選手たちと確認します。

ウォークスルー

そして、ウォークスルーが終わると練習開始です。

事象①
2トップのプレスをかける方向が悪くLCBからRSBへサイドチェンジをされてしまった場面。

GKからLCBへボールが渡る
RCFがLCBへプレスをかけたが外側から内側へとプレスをかけたため、サイドチェンジされてしまった
事象①

25分という決められた時間の中で改善を図る必要があるので、こういった1つひとつの事象を見落とさないことが実技試験では大切です。

そして重要なのが、ただ改善するだけでなく(この場面では2トップのプレスのかけ方の改善)、"もし"という仮定を取り入れることも大切です。この局面で言うと、「もし相手がサイドチェンジを成功した場合にどうするか」ということも同時に落とし込んでいきます。

サイドチェンジした後の守備の仕方を落とし込んでいる場面
LCMが飛び出して遅らせ、全体がスライドして穴を埋める

そして、フリーズして介入した後は同じシチュエーションからプレーを再開させること(リクリエイト)で選手の動きを確認していきます。そして、リクリエイトした後は内側を消しながらプレスをかけることができたので、下の画像のわうにサイドで同数を作り上手くハメることができました。

サイドで同数を作りハメる

今回の記事では紹介しませんが、他のポジションのタスクの確認であったり、改善が必要な事象or上手くいった事象に関しても介入して、戦術の落とし込みを図ります。

そして10分のSpecific Trainingを終えると、1〜2分程度チームトークを行い、守備チームと一緒に戦術の確認や改善点を共有していきました。

チームトークの様子

チームトークが終わると、9vs9のSSGへと移行します。

9vs9 SSG

SSGではゲーム形式のトレーニングの中でプレーの改善を行っていきます。Specific Trainingでは守備チームにフォーカスするために、攻撃チームのゴールキックからプレーが始められていましたが、SSGではそういった要素もなく実践に近い内容でトレーニングを行います。

事象②
4-3-1-2では「相手のSBに対してどのように制御をかけるか」、また「SBに運ばれた際にどのように対応するか」が重要となってきます。

SSGの中でもSBのところでは余裕が場面が多く、その中で下の画像のようにRSBが高い位置でボールを保持する場面が出てきました。

RSBからの攻撃に対する守備

この場面ではLCBが飛び出して相手のRSBに対応しようとしましたが、個人的にCBにはクロス対応をして欲しいのでフリーズをかけました。

LCBが飛び出した際にゴール前でRCBと相手のCFで1vs1の状況が発生してしまい、下の画像のようにシュートを打たれてしまいました。

クロス時のRCBvsCFの局面

この場面は下の画像のように相手がピッチを広く使い、RSBへの対応でLCBが飛び出したことで発生した現象です。

LCBの飛び出し

フリーズでは起こった場面をリクリエイトして、選手の立ち位置や「このような場面が起こった時にどう対応するか」という原則を落とし込んでいきます。この場面ではLCBをニアポストの位置に立たせて、LCMにRSBへと対応するように指導。そして「もしLCMのスライドが間に合わない場合は、、」などといった"もし"の局面も伝えていきます。

フリーズ指導

そして、その後似たような場面が起こりましたが、下の画像のようにCMがポケットを埋めて対応、2CBvsCFの局面をゴール前で維持できていました。

フリーズ後のサイドでの攻防

LCBにはもう少し中央へ寄って欲しいところですが、実技指導で重要なことは「コーチングによって改善が見られるかどうか」ということです。

事象③
更にゲームの進めていく中で、中央を経由されてサイドチェンジされてしまい、相手に突破を許す場面が発生しました。

相手RCBからRSBへのパス
RSBにボールが渡った時にボランチがサイドに抜けて中央へのスペースを作る
RSBから中央のスペースに降りてきたCAMに横パスが通り、逆サイドへとサイドチェンジを許す
全体でスライドして対応するが後手に周る
相手のボランチがサイドに流れてボールを受けた時にRCBが対応するために釣り出させる
ゴール前でLCBvs相手CFの局面が生じて失点

この局面を図に起こすと下のようになります。

中央を経由されてサイドチェンジされる
スライドして対応したが空けた穴を使われてしまい失点

テーマはサイドチェンジを防ぐことだったのですが、相手をボールサイドへと誘導した後にプレスの方向や選手1人ひとりの距離や場所が良くなかったために、相手にサイドチェンジされてしまいました。従って、フリーズをかけてプレスのかけ方を再確認しました。

特に2トップのところで1度プレスをかけて1つのサイドへと誘導した後にボールサイドへ圧縮することを伝えました。更には、ボールサイドへ圧縮した時には人を捕まえてボール周辺で囲いこむことも徹底。そして、サイドチェンジされた際にはスライドして、1stDFが相手のプレーを遅らせつつ、それ以外の選手は穴を埋めてオーガナイズされて守備組織を再構築するように、サイドチェンジされた後の役割も確認しました。

振り返り

この記事の中では練習中に起こったいくつかの事象について紹介しましたが、ピッチ内ではもっと様々な事象や要素に触れながら指導していました。特にフリーズして1人ひとりによりディテールが詰まっている情報を伝えていました。しかし、まだまだ個人戦術や技術的な部分でのディテールは足りないかなというのが率直な感想で、もう少し解像度が高く、具体的な指導をする必要があると感じています。

例えば、RCFの選手に「相手RCBがボールを保持している場合には中央までtuck inして(絞って)サイドチェンジをブロックして」というコーチングをした際に、『tuck in』というワードが非常に曖昧な表現で、選手からするとどのくらいまで絞れば良いのかがわかりません。プレーの意図(why)といつ(when)、どのように(how)、どの程度(how much)が抜けてしまうと抽象的な表現になってしまうので、日頃からコーチングの解像度を上げるように心掛けていく必要があると感じました。

模擬試験後にはメンターの方からいくつかフィードバックも貰いながら、私の練習や指導についても振り返っていきました。メンターの方から言われたのはピッチのオーガナイズの部分で、「Specific Trainingの際に相手SBが簡単にワイドレーンに置かれたミニゴールに得点することができているので、コンディションを付けた方がいいかもしれない」とアドバイスをいただきました。ワイドレーンのミニゴールは11人制のゲームにおけるWGを表現するために起きましたが、そこへパスが通ると1点になってしまうのは、少し守備側にとっては難しすぎる状況になっていたかもしれません。なので、本場の実技試験では「ハーフウェイラインを超えてからのみ、シュート可能」というコンディションを付け加えました。

戦術的な部分に関しては「上手く守ることができるなという手応え」と「こうしたらやられるな」という課題も発見しました。特に2トップのプレスが機能しないと簡単に相手にボールを運ばれてしまうので、「いつ、どこで、どのようにプレスに出ていくか」という基準をもっと強調する必要があると感じました。コーチングで強調するのはもちろんですが、オーガナイズで2トップが1stポジションを取れるようにレファレンスポイントを作ってあげるとやりやすいと思います。特にSpecific Trainingでは守備チームはピッチ上で2人少ないので、いかにトリガーを決めてボールサイドへ圧縮できるかがカギになります。

最後にメンターからは、「攻撃チームに少しだけ介入して、もう少し様々な状況を作り出すことで守備チームの課題をあぶり出す作業もあると良い」と言われました。確かに、サイドチェンジや幅を使った攻撃に対する守備の原則は落とし込むことができていましたが、もし相手がダイレクトに仕掛けて来た場合や、ロングフィードで背後を取るような攻撃を仕掛けて来た場合の対応もトレーニングの中でいくつかあると、より実践的な練習になると思います。ある程度サイド攻撃への原則を落とし込んだ後には攻撃チームに「背後を狙ってみて」と介入して違うシナリオを作り出すことも必要だと感じました。

最後に

UEFA Bライセンスの3つ目の実技試験についてまだまとめていなかったので、ほぼほぼ1年前の内容ですが今回振り返っていきました。模擬試験で実技試験の内容を事前に練習することができたこともあり、無事に実技試験をクリアしてUEFA Bライセンスを取得することができました。本来のUEFA Bライセンスのコースでは模擬試験のように練習する機会はないのですが、サウスウェールズ大学のフットボールコーチング学部では毎週指導実践の授業があるので、授業の中で模擬試験を行って事前準備をすることができたのは、非常にありがたかったです。

2024/25シーズンからはUEFA Aライセンスのコースも始まり、個人的に挑戦の年になると思います。日頃の指導からコーチングの解像度を上げていき、UEFA Aライセンスも無事にクリアできればなと思っています。常に学ぶ姿勢を忘れずに精進していきたいと思います。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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