手詰まりになる前に【Jリーグ】浦和レッズvsベガルタ仙台
今シーズン未だにリーグ戦は1勝のみと下位に沈むベガルタ仙台との一戦。しかし、仙台は前節の柏戦で今シーズンのリーグ初勝利をあげ士気が高まりつつあります。
レッズは相性の良い仙台に勝利して上位進出の手掛かりにしたいところです。
スタメン
レッズは前節の福岡戦からメンバーを3名変更。キーパーにはリーグ戦デビューとなる18歳鈴木彩艶。ボランチは阿部が久しぶりに先発に復帰し、トップにはルヴァンカップでベールを脱いだ新戦力ユンカーが入った。
一方の仙台は前節の柏戦からメンバーを2人変更。右SBに蜂須賀、左SHに氣田が入った。古巣との対戦となる関口は先発、マルティノスはベンチスタートとなった。
試合内容
試合立ち上がりは仙台がペースを握る。レッズは珍しくミスが目立ちなかなかペースを掴めない。前半16分の西村のシュートは彩艶のセーブで凌ぐ。レッズは給水タイムで修正をしそこから徐々にペースを握り始める。前半はお互いに決定機は多く作れずに0-0で折り返す。
後半からレッズが優勢に試合を進める。レッズは58分に細かくパスを繋いで最後はユンカーがリーグ戦初ゴールを決め先制する。すると75分には阿部の見事なFK弾が決まりレッズは追加点を獲得。仙台は途中出場のマルティノスの強烈なミドルシュートがあったが、彩艶のスーパーセーブでレッズはゴールを許さない。その後レッズは仙台にチャンスを作らせずに無失点で試合終了後。2-0でレッズが勝利した。
・試合スタッツ
・試合ハイライト動画
アップデート
レッズはこの試合で戦術をアップデートする試みをしました。その一つが前節の福岡戦の後半から行ったビルドアップの形です。
両SHが内側に絞り、両SHが高い位置を取ります。
そして2-2-5-1のような陣形でビルドアップに試みました。
前節は柴戸が負傷したこともあり、アクシデント的に行っていましたが、この試合では立ち上がりからこの形を採用しました。小泉と明本に関しては頻繁に立ち位置を変えていたので小泉が大外でプレーする機会が多くありました。
・苦しんだビルドアップ
仙台はボール非保持になるとトップ下の関口が1つ前に出てきて4-4-2のブロックを作りました。するとこのような噛み合わせになります。
レッズが後ろからビルドアップ試みた場合に基本的にボランチへのパスコースは2トップに消されてしまうので、大外の西と明本へのパスとなります。
レッズは両ワイドの2人がボールを受けた時に仙台の2列目(中盤のライン)を超えたかったのですが、仙台の両SHが対応できてしまったので二列目を超えることに苦労しました。
・二列目を超えられない原因
二列目を超えられなかった原因は3つあると思います。
1つ目は出し手との距離です。CBからワイドにいるSBへパスを出した場合に距離が長く仮にSBが二列目を超えたポジションを取っていたとしても、SBにパスが渡る間に相手のSHが戻りきることができてしまいます。
2つ目はパスの角度です。パスの出し手と受け手の間に相手の選手がいる場合は浮き球のパスを除いて基本的にパスは通りません。ですので、受け手はパスが通る角度に移動する必要があります。この場合だと、西は氣田に隠れてしまうので、立ち位置を下げてパスを受けます。するとパスをもらった時点では二列目を超えることはできません。
3つ目は相手のSHを食いつかせることが途中までできなかったことです。パスの出し手に相手のSHが食いつけば自然とワイドにいるSBはフリーになります。途中まで2CBs+2ボランチでのビルドアップが多かったこともあり、仙台のSHを食いつかせることにできずになかなか大外から二列目を超えることができませんでした。
・狙いとしていた形
先程にも紹介しましたがレッズが狙いとしていたことは両ワイド(西と明本)がボールを受けた時に相手のブロックの二列目を超えることです。
二列目を超えることができると様々な選択肢が生まれます。
二列目を超えた時の選択肢
・SBを引き出したスペースにSHが走りこむ(この場合は関根)
・二列目を超えているので中盤とディフェンスラインの間に斜めのパスを送り込める(この場合は武藤)
・ディフェンスラインの背後へアーリークロス(この場合はユンカー)
特に相手はマークの受け渡し(スライド)が必須になるのでディフェンスラインに穴ができやすくなります。
ぜひ時間がある方は18:25~18:51までの流れを見返すとわかりやすいのですが、18:25で西がボールを受けた時には仙台の左SHの氣田が対応したので右サイドからは攻め込めませんでした。
レッズは西から伊藤(敦)と槙野を経由して逆サイドの阿部までボールを展開しました。阿部がボールを受けた時に仙台の右SHの加藤が食いついたくれました。
すると、もともと加藤にマークされていた明本がフリーになり、阿部から明本へパスが渡ります。明本にパスが渡ると小泉が背後へランニング、蜂須賀は小泉のケアを選択しました。その結果、明本はサイドの深い位置までドリブルでボールを運びクロスを上げることができました。
明本のクロスはファーサイドに走りこんだ関根まで到達しましたが惜しくもタイミングが合わずにシュートまで持ち込めませんでしたが、レッズの狙いが出たシーンでした。
この18:25~18:51は二列目を超えられるかどうかでその後の展開が変わることがわかりやすい場面でした。
得意の形
レッズは修正を加えながら得意な形に変更していき、徐々に仙台に傾いていた流れを取り戻しました。
<飲水タイム>
まずは前半の飲水タイムにビルドアップの形を変更します。最終ラインを2CBs+1ボランチの3枚にしその前にもう1人のボランチが入る3+1のビルドアップへと変更しました。
この変更によって仙台の2トップの脇からボールを運べるようになりました。
すると仙台のSHを食いつかせることができるようになりました。先程も言いましたが、SHを食いつかせることができるとSBがフリーになります。両ワイドの選手はかなり良い状態でボールを受けられるようになりました。
<ハーフタイム>
レッズはハーフタイムで更にボール保持時の陣形の変更を加えます。最終ラインを2CBs+西の3枚にし、その前にダブルボランチが入り、更に一つ前に小泉というような並びに。3-2-1-4のようなシステムにしました。
前節の福岡戦からレッズは左SBに明本、左SHに小泉を起用しました。客観的に見て小泉の左SHは上手くいってなかったと思います。明本と小泉はお互いにレーンが被らないように、お互いの立ち位置を見ながら内側(ハーフスペース)と外側(大外)に入りました。
なかなか小泉がハーフスペースのポジションでボールを受けられる回数が少なく、大外でのプレーが多くなりました。小泉をより中央でプレーさせたいレッズはこのハーフタイムえ小泉を中央でプレーできるシステムに変更したのだと思います。
58分のレッズの先制点のシーンでは小泉が武藤と上手くワンツーを成功することができたので、ユンカーのゴールが生まれました。小泉は中央でプレーさせた方が彼の良さや特長が出やすいのではないかと思いました。
データを見ても飲水タイム以降レッズのボール保持率が大きく仙台を上回りました。
リカルド監督の意図
レッズはこの試合の中で修正、変更を加え最終的に得意な形にしていきました。もちろん怪我人や対戦相手を考慮していると思いますが、そこにはリカルド監督の意図があると思います。
・前半の意図「サイドで起点を作り攻める」
まず前半の形(2-2-5-1と3-1-5-1)についてです。
先程説明したようにビルドアップで前進できるように給水タイムで最終ラインを2枚→3枚に変更しました。この変更に関してはあくまでどうやって前進するかというところの修正でした。
このシステムの意図は「サイドでポイントを作る」ことだと思います。大外のサイドには西と小泉(明本)が入りました。そしてレッズはそこを起点に攻めることを試みました。
特に西と小泉に関してはレッズの選手達の中でも違いを作ることができる選手です。リカルド監督はサイドにはそういった選手を配置することでゴールを目指したのだと感じました。
具体的なところでは『ライン間』を狙っていたと思います。仙台は4-4-2のブロックで守ってきましたが、ブロックの4-4の間を利用することでゴールを目指しました。
両ワイドに小泉と西がいるので質の高いパスをライン間へと送り込むことができます。サイドからの斜めのボールはブロックに侵入する際にとても有効で、ライン間でプレーできると相手のCBが引き出すことができるので、相手の陣形を崩しやすいです。
例えば小泉がボールを持った時に明本が背後へランニング、空いたスペースに武藤が入ってくるような動きはこの試合でよく見られました。
武藤へパスが通るとユンカーや関根がディフェンスラインの背後へランニングして、シュートまで持っていくような攻撃をレッズは目指していたと思います。
この「サイドで起点を作り攻める」意図が出た場面が25:35のシーンだったと思います。小泉から阿部へパスが渡り、阿部から武藤へ縦パスが入ります。
武藤が上手く収めサイドの小泉へ再びパスが渡ります。
小泉にパスが入るとユンカーと関根がクロスして背後へ動き出しました。残念ながら小泉と関根の意図が合わず繋がりませんでしたが、最初のシステムでレッズが意図していた「サイドで起点を作り攻める」ことができたシーンでした。
・後半の意図「中央で起点を作り攻める」
そしてハーフタイムにシステムを3-2-1-4に変更しましたが、大きな変更点としては小泉を中央に持ってきたことと西を3バックの一角に入れたことです。ここでの意図は「中央で起点を作り攻める」だと思います。
前半のシステム(2-2-5-1または3-1-5-1)ではハーフタイムまたはトップ下にいる選手(関根、明本、武藤)は仙台のボランチにケアされやすい状態でした。というのもボランチが1枚だったので仙台のダブルボランチのどちらかはマーカーを持たないのでカバーに入ることができるからです。
この場合では仙台の上原はマーカーがいないので、1人余って危険な選手またはエリアをケアすることができます。
リカルド監督としては2-2-5-1で立ち上がり臨んだ意図としては、レッズのダブルボランチを最終ラインに下さない(サリーさせない)ことで、仙台のダブルボランチにマーカーを持たせたかったのだと思います。しかし、そもそものビルドアップが上手くいかず前進することができなかったので、3+1でのビルドアップに変更を余儀なくされました。
そこでハーフタイムに前進しやすい最終ラインを3枚、仙台のダブルボランチをにマーカーを持たせる(引き出す)ためにレッズのダブルボランチを残すような形に変更。その結果、3-2-1-4の形で後半に臨んだと思います。
そしてもう1つのハーフタイムでの変更点が2トップに変えたことです。これは自分の見方なので意図的に2トップに変えたかはわかりませんが、前半と比べるとユンカーと武藤は横並びになっていたと思います。
この意図は小泉を浮かせる(フリーにさせる)ことだと思います。仙台のダブルボランチがレッズのダブルボランチのマークでケアすることができなくなりました。するとフリーになる選手が出てきます。前半は武藤が浮くことが多かったですが後半は2トップにすることで仙台の2CBsを固定し前に出てこさせないようにします。仙台のダブルボランチもマーカーいるので自然と小泉がフリーになります。
リカルド監督もハーフタイムで
「相手を引き出して、間のポジションをとろう」
引用:リカルド ロドリゲス監督 仙台戦ハーフタイムコメント(浦和レッズオフィシャル)
という指示を送っているのでボランチを引き出して小泉をフリーしたかったのではないかなと思います。
正直、ここまで意図してこのシステムに変更したかどうかは微妙ですが、中央の小泉で起点を作り相手のディフェンスを攻略したいという意図は明確にあったと思います。
試合後の監督コメントでも試合中の修正や意図について言及しています。
「試合の入りで、少し苦戦してしまったところがあると思います。簡単にボールを失うところが結構多く見受けられました。ただ、それが過ぎて飲水タイム以降くらいからは、いくつか修正をしていきながら、少し落ち着いた部分は出てきたのかなと思います。
後半に関してはハーフタイムでいくつか修正をして、よりボールをうまく握れる展開になったと思います。こういった展開で先にゴールを取るのはすごく大事なことだと思います。阿部に関しても、すごくいいシュートを決めてくれました。」
(マイボールのときの立ち位置を変え、変えた小泉佳穂選手などがゴールに絡んで勝利した。本当に素晴らしかったし、監督としての勝利ではないかと思う。具体的に、どういうことを実現したくて配置を変えたのか?)
「ビルドアップのところをよりハッキリさせたくて修正しました。前半の途中からもそういった場面は見受けられていたのですが、後半はハッキリと、どういったところにどういった立ち位置を取るのかについて細かい話をしました。目的としては、より相手にダメージを与えていく、我々が攻撃的に崩していけるようにという意図、狙いがありました。その中で相手をいい意味で抑えて崩していくことができ、最終的にはうまくいったと思います」
引用:リカルド ロドリゲス監督 仙台戦試合後会見(浦和レッズオフィシャル)
最後に
この試合でのレッズの戦い方を考えるとリカルド監督は危機感のようなものを感じました。今のままでの戦い方では対策されて手詰まりになることを危惧しているように感じました。リカルド監督としては手詰まりになる前に、戦術のオプションを増やすことや、選手のポジション適性を増やす、もしくは新たな適性を探すことに着手しているように感じました。
メンバーもかなり大胆に変更しましたし、かなり思い切った采配をしたなと感じました。見事に久しぶりの出場となった阿部のFKやリーグ戦デビューの彩艶が好セーブ連発、ユンカーのリーグ戦初ゴールなど起用された選手達もリカルド監督の期待に応えた形になりました。レッズとしては起用された選手達が活躍したことはチームの底上げにもなりますし、新たな競争も生まれてとても良い刺激になると思います。
次節は宮本監督が退いたガンバ大阪とのナショナルダービーです。非常にレベルの高い個を持つ選手が多く、手強い相手ですが何とかここで勝利して上位進出の手掛かりとしたいところです。
出典:
もし宜しければサポートをよろしくお願いします! サポートしていただいたお金はサッカーの知識の向上及び、今後の指導者活動を行うために使わせていただきます。