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分析の世界から見えたもの【アナリシスログ#4】2021/22シーズン総括

2021/22シーズンの後半からは新たにアナリストの仕事を始めました。Barry Town Unitedというウェールズ1部に所属していたクラブのU-19のチームの監督が大学の教授だったので、アナリストを探していることを知り、そのチームでの仕事が決まりました。今回はアナリストとしてのどのような活動を行ったのかシーズン総括として振り返っていこうと思います。

アナリストチーム

1月にU-19のチームに加入しアナリストとしても活動を始めました。一応、女子チームでもアナリストを雇うまではコーチながらも分析の作業は行っていました。ですが、アナリストとしてチームに加わるのはこれが始めてでした。

監督からやってほしい仕事として提案されたのが大きく2つでチームクリップ(チーム全体の分析映像)と個人クリップ(各選手の分析映像)の作成でした。1月に加入してから最初の2週間はアナリストが私1人だけだったので、全ての作業を行っていました。ただ、余りにも膨大な作業量だったので新たにアナリストを雇うことを監督と相談して、アナリストを増やしていきました。

暫くは私ともう1人のアナリストで仕事をする期間が続き、私がチームクリップと個人クリップの半分を担当、もう1人が残りの半分の個人クリップを作成していきました。3月になると更にもう1人のアナリストが加わり3人体制で分析作業を行いました。ここからは私はチームクリップに専念して、個人クリップは2人のアナリストに任せることができました。この2人のアナリストはいつも大変で時間のかかる作業を担当してくれましたし、毎回期限内に個人クリップを送ってくれたのでありがたかったです。私はリードアナリストとして彼ら2人に作業を割り振ったり、追加で作業をお願いするようなこともありましたが、彼らは文句も言わずに作業を進めてくれていました。本当に彼らの存在には助けられました。

分析の質

分析の質を向上させることは常に取り組んでいました。始めはポストマッチ分析としてゴール/被ゴール、チャンス/被チャンス+監督に頼まれたテーマの分析映像を作成。データに関しても得点、失点、シュート/枠内シュート、被シュート/被枠内シュート、セットプレー(CK、FK)、アタッキングサード侵入回数を集めていました。

そこから毎試合の分析を重ねていくうちに基本的な分析テーマにプラスαとして監督から分析テーマは私自身に任せて貰えるようになり、私が気になった点について試合の分析を行ってきました。またデータ収集でも徐々に集めるデータを増やしていき、ポゼッション率、パス成功率、アタッキングサードの侵入場所、PA侵入回数、PA侵入率など集めることができました。個人データも毎試合集めていて選手たちへフィードバックを行う際に使っていました。

チームのデータを集めてこのような表にしてフィードバックしていました。

分析の質を高めるにあたって分析やデータのビジュアル化についても取り組んでいました。正直なところまだまだ工夫が足りないとは思いますがアタッキングサードのデータをTacticalistaを用いてビジュアル化してみたり、分析映像にエフェクトを付けて伝えたいことを強調してみました。

アタッキングサードのデータ

どうしても選手たちはデータに疎いことがありますし、ビジュアル化することでコーチ陣や選手たちがよりアナリストチームの分析に関心を示してくれるようになったので「分析したものをどう見せるか」はとても大事だと感じました。


フィードバックの方法

アナリストとして働く上で1番苦労したことが分析のフィードバック方法です。チームのスケジュール上、アナリシスセッションをすることができなかったので分析のフィードバック方法はオンラインに依存する形となりました。

sportsYouというオンラインプラットフォームを利用して分析映像やデータを共有したり、選手個々とやり取りしていました。

sportsYouのチーム画面

しかし、オンラインでの分析フィードバックとなるとどうしても選手たちが受動的に分析映像やデータを見ることになるので、選手個人の情報処理能力や理解力に依存してしまい分析の効果がまちまちになってしまいました。

理想はアナリシスセッションを設けて選手たちとコミュニケーションを取りながら、彼らが能動的に分析に触れることができると良いと思います。そうすることで各選手によって伝え方も変えることができますし、全員が分析について共通理解を持つことができると思います。分析のフィードバック方法についてまだまだ改善が必要だと感じるシーズンでした。


分析プロジェクト

分析官として働き始めてから約1ヶ月後に監督から『分析プロジェクト』を依頼されました。このプロジェクトはシーズンを通じてゲームモデルに合わせたプレイ集を作成し、シーズンが終了したときにチームのプレー原則を反映させた動画を提出するものでした。

今回のプロジェクトでは以下の6つの局面に分けて分析動画を作成しました。

・ビルドアップ
・アタッキングサード
・ポジティブトランジション
・ネガティブトランジション
・プレス
・ディフェンシブサード

1つ当たりの動画は約1分〜2分半で作成したので、膨大な量のシーンから一番分かりやすい映像を選出してまとめるのが大変でした。下の図のように映像にエフェクトと説明を加えて一つの動画にしていきます。

ビルドアップ①
ビルドアップ②
ビルドアップ③
矢印やスポットライトだけでなくチェーンやゾーン表示などもFocus(分析ソフトウェア)の機能でエフェクトをつけることができます。

また、ここだけの話ですが、シーズンを通じてこのプロジェクトを進めて行けばよかったのですが、日常の作業に追われてすっかりプロジェクトが進まず、シーズンの終わりに一気に全試合を見返してなんとかこのプロジェクトを完成させました。

現場作業と裏方作業

分析官の宿命でもある膨大な量の仕事は大きく分けて『現場で行う作業』と『裏方での作業』の二つがありました。

現場作業

現場での仕事としては

・練習や試合の撮影
・練習や試合前のウォーミングアップの準備
・マッチデイのロッカールームの設営
・ハーフタイムでの分析フィードバック

を行っていました。

下の写真のように毎試合ロッカールームを設営するのもコーチと協力して行っていました。ユニフォーム、アップ用のシャツ、水、栄養補給用の食料などを準備します。

ロッカールームの設営を終えるとガントリーに向いカメラを設置します。


三脚の足場が不安定なガントリーは分析官泣かせです。
時には自分で撮影場所を作ることもありました。

特にシーズンの途中からコーチの方々がハーフタイムに上(ガントリー)からの意見を求めることが多くなり、試合を撮影しながら「どういった現象が起きていて」、「どうやって自分たちのパフォーマンスを改善・向上していくか」という視点で試合を見ていました。監督やコーチは私が伝えた情報の中から何を選手たちにハーフタイムで話すかを取捨選択して活用していました。シーズン後半には選手に直接フィードバックさせてもらえたりとコーチの方々からも信頼してもらえたことは嬉しかったです。

ハーフタイムのチームミーティング前に簡潔に分析を共有
ハーフタイムで監督から選手へのフィードバック

マッチデイの仕事は下の記事で詳しく紹介しているのでぜひ読んでみてください。


裏方作業

裏方作業としては主にポストマッチ分析がメインで試合→コーディング→データ集め・分析動画作成→フィードバック→試合というサイクルで作業していました。

コーディングではFocusという分析ソフトウェアを使って作業していました。

Focusのロゴ。コーディングや映像編集、試合撮影なども行うことができます。

試合の映像にタグをつけていき、タグ付けが終わった後、Excelにタグ付けしたデータを数値化して表示して、数値化したものを見やすいように表にまとめて選手たちにフィードバックしていました。

画面左上が試合の映像、右上がタグのテンプレートです。下のタイムラインがタグ付けした時間帯が表示されています。
タグ付けを全て終えるとデータをExcelにエクスポートします。
これは個人のデータですが個人とチームの両方でデータを集めていました。

分析動画に関しては監督に頼まれたテーマ(例:ビルドアップからチャンスを作れたシーン)や自分がフィードバックした方がいいと感じたものをFOCUSでタグ付けしたシーンの中から顕著な場面を選んで、約1分〜2分程度の動画を作成。毎試合4〜6個くらいテーマがあるので動画もテーマの数だけ作成します。動画が全て作り終えるとsportsYouに投稿することでコーチや選手たちが分析映像を見ることができるという流れでした。

週に2試合ある時は次の試合までには必ず分析が終わってないといけないので、物凄い勢いでコーディングや映像編集をしていました。分析官は常にタイムリミットとの戦いで、決められた時間の中でどれだけクオリティーの高い分析ができるかの勝負でした。コーチの方々からはシーズンの最後に「毎回いい仕事をしてくれてありがとう」と言って頂けましたが、個人的にはもう少し良質なものを届けられれば良かったなという思いました。


最後に

まずはシーズンの途中ながら私を迎え入れていただき、分析官としての貴重な経験を積めたことはありがたかったです。これまではコーチとして指導しかしてこなかったので、分析官として働くことで試合を客観視することができるようになってきたと思います。

また、実際に分析官として働くというのはどういうことなのかということを知る機会になりました。日本での分析官のイメージはマッチレビューやプレビューのように「相手のシステムがこうで、自分たちはこうやってプレイしたから、こうなった」というようなことが分析官の仕事と認識されがちだと思います。しかし、実際にはデータ集めの作業であったり、試合・練習の撮影、映像編集など予想よりも泥くさく地道な作業の方がメインです。

そして、自分がチームを良くするためのアイデアや意見を持っていたとしても、それを反映させるには監督、コーチに伝え、監督やコーチがそういうコーチングを選手たちにすることで初めて自分の意見が反映されます。当然、分析官がどれだけチームの方針に介入するかはチームによりますが、実際はコーチに比べるとそこまで比率は高くないチームがほとんどだと思います。そういった背景も汲み取りながら分析官はチームのパフォーマンスを良くするために貢献する必要があると思います。100分析したうちの100全てがパフォーマンスの改善に使われることはほとんどないことが現実です。ですが、監督やコーチにとって情報が多いに越したことはありませんし、100分析したうちのいくつかがチームのパフォーマンスに反映されれば、それだけで分析官の価値があるのかなとも感じました。

分析官として働いた半年間はいつもタイムリミットととの戦いであっという間に時間が過ぎ去っていきました。私なりに無我夢中で作業に没頭した期間でもあり、分析官として働いたことで得られたものは今後のサッカー人生の中でも大きなものになりそうです。ありがたいことに監督から違うチームで来シーズン一緒に仕事をしてほしいというオファーも頂きました。それだけ私の仕事を評価して頂き、信頼してもらえたことは分析官冥利に尽きると思います。

ざっくりとですが、今シーズンの分析官での仕事を総括としてまとめました。来シーズンもいずれかの形で分析の仕事は続けていきたいと思っているので、今シーズンの経験が活かせると思います。次の環境でもチャレンジしながら成長できたら良いなと思っています。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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