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進化した守備【Jリーグ】浦和レッズvsサガン鳥栖

前節の札幌戦で厳しい敗戦となり今シーズン初の連敗となったレッズは3位サガン鳥栖と対戦しました。

ホームのレッズは上位の鳥栖を相手に勝点3を取って迫りたい状況です。また、浦和駒場スタジアムでJリーグが開催されるのは12年ぶりということもあり気合の入る一戦でした。

アウェイの鳥栖は中断期間でチームの中心的存在であった林や松岡がチームから離れ、鹿島から白崎、小泉、札幌から岩崎などを補強しました。

スタメン

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レッズは前節の札幌戦からメンバーを4人変更。右SBに新加入の酒井が入り西が左SBにコンバート。ボランチも新加入の平野が伊藤とコンビを組み、両SHが大久保と田中。トップに明本と江坂がはいった。

一方の鳥栖は前節の東京戦からメンバーを2人変更。新戦力の白崎が右SH、トップに山下が入った。


試合内容

前半から両チームボールを握るために激しくプレスに行く。3分に高い位置でボールを奪った鳥栖がクロスから山下がシュート、西川が何とか反応しゴールを防ぐ。9分に今度はレッズが高い位置でボールを奪い、江坂がミドルシュートを放つもGK朴に止められる。36分に槙野のパスを江坂が胸でフリック、明本が最後は右足を振り抜いてネットを揺らしレッズが先制する。しかし、45+1分に飯野の速いクロスから流れてきたボールを山下が豪快に右足で合わせて鳥栖が同点に追いつく。両者一歩も譲らずに1-1で前半を折り返す。

後半開始直後は両チーム激しくプレッシャーに行きオープンな展開に。49分に田中のクロスから大久保が頭で折り返し江坂がハーフボレーシュートを放つもGK朴に止められる。50分には西の背後へのボールに明本がGK朴より先に反応し頭でシュートするも僅かにゴール右に外れる。その後、鳥栖が優勢に試合を進める。 57分には山下、58分に中野、59分に仙頭、60分に再び山下と立て続けにシュートを浴びるも西川を中心に耐え凌ぐ。すると徐々にレッズが盛り返し、81分に明本がPKを獲得。これを江坂がきっちりゴール左上に蹴り込みレッズが勝ち越す。その後、試合は終了し2-1でホームのレッズが勝利した。

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・試合ハイライト動画


・試合スタッツ

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知的なプレス

この試合でレッズの良かったところは前からのプレスです。狙い所、プレスのタイミング(スイッチ)、選手の連動などがチーム全体でよく統率できていました。特に前半は鳥栖も思うのようにビルドアップできずに苦労していたと思います。

レッズは4-4-2で構えてそこからプレスをかけ始めます。前半はエドゥアルドから島川に横パスが入ったタイミングで大久保と明本が島川へプレス。この時に大久保は飯野へのパスコースを切りながら、明本は樋口へのパスコースを切りながらプレスに出ていきます。すると出しどころがない島川のところで上手くハメることができました。

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9:31のように前からのプレッシャーで平野が島川の縦パスをカットしショートカウンターという場面を上手く作れました。前半はこの前からのプレスが効果的に使えていたと思います。

レッズのプレスが上手くいった要因として『知的』にプレスに行けていたからだと思います。ただ闇雲にプレスに出てしまうと鳥栖はビルドアップが上手なので簡単に剥がされてしまいます。

例えば先頭が左サイドでボールを保持している時にはプレスに行かないでブロックを構えます。ここで田中が先程の図の大久保と同じように大畑を消しながらプレスに行ってしまうと簡単に回避されてしまうからです。

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仙頭は右利きでとても足下の技術に長けています。もしここで田中がプレスをかけた場合、浮き球で大畑にパスを出されていたと思います。他にもドリブルで田中の矢印を上手くいなしたり、中野とのコンビネーションなども考えられます。

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その結果、右サイドではプレスに行かずにディレイし、左サイドに誘導してプレスのスイッチを入れていました。非常に理にかなった知的なプレスのかけ方だったと思います。

ただ、鳥栖もとても成熟し質の高いパス回しや崩しを見せてきました。失点のシーンではエドゥアルドからハーフスペースにいる中野へ縦パスが入ります。このハーフスペースに関してはレッズは非常に高い警戒心を持っていて、中野へも平野がしっかりと付いていきました。しかし、中野は仙頭とのワンツーで平野を出し抜いてきました。そこから樋口を経由して質の高いサイドチェンジが通り一気に決定機を作り出しました。

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素早いサイドチェンジが入ったことでレッズのスライドが間に合わずに対応が後手になります。白崎が槙野を引き連れてサイドに流れ、中央を空けると飯野がすかさず高速クロスを入れてきました。小屋松が手前で潰れ、流れたボールを山下が仕留めました。酒井も懸命に戻ってきていましたが、一つ前の場面で釣り出されていたので山下のところまで戻りきれない状況だした。

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前半はプレスやブロックが機能していましたが一瞬の隙を見逃さなかった鳥栖のクオリティーは流石で完璧に崩されたシーンでした。


強引→適切

この試合の興味深い点がレッズのビルドアップでした。というのも前半は鳥栖の激しいプレスを強引に回避していた前半と適切な立ち位置で攻略を試みた後半と対照的だったからです。

試合の立ち上がりは鳥栖の方が上手く連動できていなかったので鳥栖がプレスをかけた時にレッズが回避して一気にチャンスになるような場面がありました。3:57や7:55では鳥栖が前からプレスに行った時に平野がフリーになっていてそこから江坂を経由して田中の背後というシーンがありました。

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ですが時間経つにつれて徐々に鳥栖も修正してきました。平野に対して仙頭がマークすることを明確にして対応。基本的にこの状態でハマっているのですが、レッズは岩波のキックのスキルで応戦します。平野がマークされると今度は平野を飛ばして江坂まで浮き球でパスをして鳥栖のプレスを回避するビルドアップを見せました。

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すると更に江坂に対して樋口が警戒し始めます。すると今度は田中が下りて酒井が背後に飛び出すようなシーンが多くなりました。この飛び出していける馬力は酒井の武器で、そこに正確なロングパスを通せるのも岩波の良さだと思います。

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こうして前半はビルドアップの際にハメられてはいたもののレッズの選手の個のスキルで強引に何とかしてしまった前半でした。

一方で左サイドではほとんど攻め手がなく、明本への背後のパスくらいしか選択肢がない状況でした。本来はハメられているのでこういう状況に追い込まれるのが妥当だと思います。

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リカルド監督もハメられてしまっていることを察知して後半からビルドアップの形を変更してきました。後半開始からオープンな展開、その後押し込まれる時間が続き、落ち着いてボール保持する時間が来ませんでしたが、飲水タイム以降ようやくボール保持できるようになりました。

ビルドアップ時にはボランチの1人が最終ラインに加わり3+1で前進を試みました。鳥栖は敵陣深いエリアでは右SBの飯野が前に出て3-5-2、ミドルゾーンでは4-4-2(4-1-3-2)、自陣では左SHの中野が下りて5-3-2と守備の体型を変化させてきます。

レッズがビルドアップする時は大抵レッズ陣内からスタートするので3-5-2で鳥栖がプレスをかけてきます。その2トップを最終ラインを3枚にすることで数的優位を作り前進する意図があったと思います。この試合での江坂のポジション取りは秀逸でCBにも捕まらず、ボランチにも捕まらない中途半端な位置でボールを引き出せていました。その結果、「江坂のマークをどうすればいいのか」鳥栖の選手たちが悩む状況を作り出せたと思います。

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鳥栖のプレスに対して後半は上手く立ち位置を取れていたと思いますが、なかなかボールを前線に供給できませんでした。様々な理由があるとは思いますが、個人的に気になったのが伊藤の消極的なプレーです。特に3+1のボランチに入った時に伊藤にパスが入っても前を向けずにバックパスやサイドへ散らすことが多く、展開することができませんでした。

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データでも平野に比べて前方へのパス数、成功率、前方へのパスの割合が低い結果となっています(赤枠の中が左から前方へのパス数、前方パスの成功率、前方へのパスの割合です)。

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当然鳥栖のプレスがキツいこともあるとは思いますが伊藤が一皮向けるためにはどれだけ攻撃的なパスを出せるかという部分で成長が必要かなと感じました。

全体としては後半は前半よりも上手く立ち位置が取れていて適切なボール保持の体型だったと思います。プレスを剥がして攻略する場面はあまり多くはなかったですが前向きな変化だったと思います。後は選手たちが自信を持ってボールを受ける、運ぶ、パスを出す、前進するというところだと思います。


穴を埋めろ

後半は鳥栖に押し込まれる時間帯が長く苦しい流れでした。鳥栖はパス回しが上手く、テンポよく細かいパスを繋ぎながら相手を引き出して(食いつかせて)バランスが崩れると仕掛けてきます。ですので穴(スペース)を開けないような守備が重要になりました。

レッズが粘り強く守れていた要因として4-4-1-1と4-5-1の2つのブロックの併用ができていたからだと思います。押し込まれて苦しい状況になると江坂がトップ下から下りてきて4-5-1のブロックに変化します。例えば52:00~のシーンで伊藤が釣りだされる場面がありますが、伊藤が出ていった穴を平野がスライドして埋めて平野がいたところに江坂がカバーに入るような構造ができていました。中盤が5枚になることで中盤の選手間が短くなり縦パスをカットしやすくなります。また横のスライドにも強くなるので守るという点においてはとても効果的です。

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57:14~の場面では江坂のカバーが間に合わずに平野の右脇から侵入されて最後は山下にシュートを打たれてしまいました。少しでも隙を見せるとその隙を付いてくる鳥栖は見事でした。江坂が穴を埋めることができているときは比較的ブロックの外でのプレーが多く整っていましたが、バランスが崩れるとやはりピンチを迎える教訓となるようなシーンでした。

江坂は賢く状況判断に優れているので前線の選手ながら攻守に渡って気の利いたプレーができるのが好印象です。小泉とはプレースタイルが異なりますが小泉不在のレッズを救う働きを見せていると思います。この試合では伊藤に次ぐチーム2番目の走行距離を記録しましたし江坂の攻守での働きが今後の鍵になりそうだなと感じました。


最後に

ACL圏内に入っていくためには鳥栖に勝って勝点3が必要な状況でした。今シーズン初めて連敗中で迎えた中で選手達は粘り強く戦い、勝点3を手にする素晴らしい結果で応えてくれました。

この試合では特に守備面で光る場面が多かったように思います。前回対戦時には完全に上回られた鳥栖に対して拮抗した試合ができたのもプレスやブロックをチーム全体でイメージを共有しながらプレーできていたことが大きいのかなと思いました。中断前までは4-4-2でのブロックで一貫して守っていましたが中断明けからは4-5-1でブロックを敷いたり4-3-3で激しくプレスに出ていくような進化した側面も見受けられます。リカルド監督の引き出しが多さには感服するばかりです。

現在3位争いは均衡していて勝点を落とせない試合が続きます。連戦や怪我人が多いということもあり厳しい条件ではありますがチーム一体となって勝点を積み重ねていってほしいです。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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