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幅を取る選手の高さとプレーエリアの関係性

1-0
2週間前に両チームが天皇杯で対戦した際には名古屋が浦和を上回り3-0で勝利したが、この試合は浦和が名古屋の攻撃を凌いで勝点3を手に入れた。

ゲームのポイントはワイドで幅を取るウインガーの立ち位置だった。ゲームの文脈もあるが、後半から名古屋がハーフコートゲームで優勢になったのも名古屋のWBと浦和のSHの立ち位置が関係している。


2種類のハイプレス

名古屋のマンツーマンプレスと浦和のサリーダ

試合の入りが良かったのは浦和。名古屋のマンツーマン守備に対して、CFのホセカンテが下りて2列目、3列目から背後に出て行くことで前線で段差を作り、プレスをひっくり返すボールで好戦的にプレー。

名古屋のマンツーマン守備と浦和のひっくり返すロングボール

名古屋はCFの酒井(宜)が中盤の底でプレーする岩尾をマーク、2シャドーの森島と永井がCBを監視する形で浦和に圧力をかける。ボランチは浦和のトップ下と伊藤へ付いて行く。WBは浦和のSBまで飛び出していき、3バックは浦和のCFとSHをマークすることでマンツーマンディフェンスを徹底した。

しかし、浦和は試合を通じて名古屋のマンツーマンディフェンスを組織として攻略した場面はほとんど見受けられず、17分のLSHの関根がホセカンテとポジションを流動的に入れ替えて右サイドまで顔を出した時くらいだった。

17:12の関根が名古屋のマンツーマン守備から逃れて右サイドで浮いた場面

後半に入ると浦和の運動量がガクッと落ちて、2列目、3列目から背後に動き出せる回数が減ったことにより名古屋のマンツーマンプレスの網にかかり始めた。前半では多く見られたGK西川からのひっくり返すロングボールも後半は回数が減っていき、浦和は名古屋のプレス回避の有効打を見つけられず苦しむ展開となった。

浦和は後ろからのビルドアップを試みる場面があったが、逆にピンチを招く形となる。69分に伊藤が岩尾と立ち位置を入れ替える形で『サリーダ』と呼ばれる2CBの間にボランチが下りてくることで、GK西川からのパスを受けようとするが、マンツーマンディフェンスの名古屋相手では「ボランチが下りる=相手も連れてくる」ということになるので、逆に西川がプレーテンポを早めなければいけなくなる展開を作ってしまう。

69:18の浦和のビルドアップ

従って、伊藤がマーカーを連れてきたことによって西川は圧力を感じたために、LCBのホイブラーテンへとパスを出す選択を迫られた。するの、名古屋のプレスのスイッチが入りホイブラーテンは蹴らされる格好となっていった。

そのプレーの1分後の70:25。先程と似たような形で岩尾がCBの間に下りてきてボールを受け、西川へとバックパスをしたタイミングで名古屋のプレスのスイッチが入り、西川がRSBの酒井へとプレーを迫られる格好に。酒井がコントロールしたところを名古屋のLWB森下が狙ってボールを奪い、ショートカウンターから森下のクロスバー直撃の決定機を迎えた。

79:25の名古屋のハイプレス

この時間帯は名古屋が優勢に進めており、浦和は落ち着いた展開を作りたかったはずだが、ボランチの一角がCB間に下りてくることによって名古屋のCFも同時に連れてきてしまったために、名古屋がプレスのスイッチを入れやすくなる展開を作ってしまった。CFを連れてくることで中盤にスペースを作り、そこからプレス回避をしたり、敢えてプレスのスイッチを入れさせてGKまでプレスに出てきたところをフリーの選手を使ってプレス回避する意図があれば、ボランチの下りてくるプレーは効果的になる。しかし、先程の状況の場合はプレーのテンポを早めるだけで、あまり効果的には見られなかったので、浦和はいつボランチが下りてくるべきなのかを整理する必要がある。

浦和の迎撃プレスと名古屋のビルドアップ

一方で名古屋はビルドアップに安定感があった。立ち上がりこそは浦和のプレスに危険な位置で失う場面もあった。5:48ではRCB藤井とRWB野上の間にシャドーの森島が下りてきてプレス回避を図ったが、伊藤に潰されてショートカウンターを食らった。

5:48の名古屋のビルドアップと浦和のハイプレス

浦和はSHを名古屋のワイドCBにぶつけて、WBに対してSBが対応する縦スライドを使った迎撃プレスを採用。上の図の場面では中谷から藤井へのパスが少しマイナス方向に送られたことでプレスのスイッチが入り、LSHの関根がRCB藤井へと飛び出してプレス。藤井からシャドーの森島へパスが出たところを伊藤が上手く潰してショートカウンターへと繋げた。

しかし、これ以降は名古屋は安定したビルドアップを見せる。19:25ではLCBの河面がRSHの大久保に外切りのプレスで圧力を受けるが、上手く浦和の2トップ(ホセカンテと小泉)のギャップに顔を出した稲垣へと配球してプレス回避。河面は小泉が中谷へプレスをの矢印を向けたことを見逃さずに、裏をかいて稲垣へ配球することで浦和のハイプレスから逃れた。

19:25の名古屋のビルドアップ

徐々に落ち着きを取り戻した名古屋のビルドアップに浦和はハイプレスをかけることが難しくなり、ミドルブロック/ローブロックを作って構える形が増えていった。

後半に入ると浦和はSHとSBをスライドさせる迎撃プレスからRSHの大久保をLWBの森下へマークさせるやり方へシフト。これにより浦和の最終ラインが5枚気味になるミドルブロックへと移行。従って、浦和は前からハメに行くことは諦めて後ろで構えることを優先させるようになる。

この変更によって浦和は【5-3-2】のような守備陣形となる。しかし、このミドルブロックは名古屋が浦和陣内で押し込み続ける要因となり、浦和の選手の体力を削いでいくことになる。62:36では名古屋は浦和の2トップの脇からボールを前進。後半から入ったLCB丸山がドリブルで運び、森下へパスをすることでボールをミドルゾーンまで運ぶことができた。

62:36の名古屋の前進

前半はLCBに対してはRSHの大久保が出ていき、LWB森下へRSB酒井がスライドすることで対応していたが、後半からは大久保は出ていかずに森下のマークを行っていたため、丸山にはある程度の時間とスペースが与えられた。名古屋は丸山から前進すると中盤を経由して逆サイドまでボールを展開することに成功、アタッキングサードへと侵入することが容易になった。また、森島が前田の投入で左サイドへとコンバートしたことで左サイドの活性化にも繋がる。前半はなかなか左サイドのハーフスペースを使うことができなかったが、後半は内田と森島が立ち位置を入れ替えながらハーフスペースでボールを引き出すことができていた。

62:36の名古屋の前進からの侵入

浦和は後半から小泉に変えて安居を投入したことで守備強度は上がったが、組織的な守備力は下がった印象だった。例えば、上の場面でも森下が丸山からパスを受けた際に、小泉は1番使われたくないところを優先して消しにかかるのだが、安居は大久保と森下を挟みにいってボールを奪おうとしたために、内田(中央)を経由されて逆サイドまでサイドチェンジされてしまった。小泉は前半ではイエローカードをもらっていただけに交代されてしまったことは致し方ないが、浦和の組織で守ることは難しくなり名古屋に押し込まれる時間帯が増えていった。

ワイドの主導権

浦和が後半から大久保を森下にマークさせるやり方に変えた理由はワイドの主導権争いによるものだろう。

SBの背後への動き出し

名古屋はこの試合徹底して浦和のSHとSBが縦スライドして空いたSBの背後のスペースを攻略していた。3:28はLCB河面から森下へと繋ぎ、RSB酒井(宏)を釣り出した瞬間にシャドーの永井がそのスペースへと抜け出してボールを受けた。

3:28の名古屋のSBの背後への飛び出し

浦和はSBの背後のカバーをボランチが対応することが多いが、あまりにも距離が遠いとCBがカバーすることもある。しかし、浦和は両CBをなるべくゴール前の仕事に専念させたいチームなので、この状況はあまり好ましくなかった。

8:15も似たような状況が起こり、河面から内田へと縦パスが入り、酒井(宏)の背後にCF酒井(宜)が抜け出した。最終的にこの名古屋の攻撃は森下のボレーシュートへと繋がった。

8:15の名古屋の攻撃

前半は特に名古屋の左サイド、浦和の右サイドが主戦場となった。浦和は関根が予め高い位置を取り、右サイドへと誘導してから大久保と酒井(宏)の縦スライドでボールを奪う設計をしていたが、名古屋は浦和の設計を逆手にとって執拗に酒井(宏)の背後を狙い続けた。RCBのショルツやボランチの伊藤がSBの背後をカバーする場面が多く、名古屋のチャンスに繋がった場面は多くはなかったが、名古屋としては敵陣深い位置までボールを運ぶことはできていた。

しかし、9:34で内田から永井への縦パスを大久保にカットされたところから名古屋はカウンターを受けて、最終的にホセカンテのゴールへと繋がる。

9:34の大久保のパスカット

名古屋としては浦和の4-4-2のブロックにパスを引っ掛ける形から失点してしまったのは痛恨だった。シンプルに内田から森下へと広げて、酒井(宏)を釣り出してから永井が背後を突くようなボール循環の方がこの局面では良かったかもしれない。

ワイドを制した名古屋

後半から浦和は大久保が最終ラインに吸収される5-3-2のブロックで守る機会が多くなっていった。これは大久保と酒井(宏)の縦スライドで酒井の背後を使われることを嫌った浦和の応急処置だった。事実上、名古屋がワイドで主導権を握る形となる。

この浦和の変化によって浦和はハイプレスがかけられなくなり、重心がどんどん後ろへと下がっていった。53:54では名古屋が前田、内田、野上とパスを繋いで、野上から鋭いボールがライン間の森下への通り、最後は前田の決定機を迎えた。

53:54の名古屋の決定機に繋がる攻撃

浦和サイドからすると関根の戻りが遅れていたこと、5バックになったことでボランチのタスクが曖昧になったこと、大久保は最終ラインで逆サイドの森島を見なければならずSHとしてボールサイドに圧縮する動きができずに森下がフリーになったことなど大久保のタスク変更が全体に悪影響が出てしまった局面だった。

名古屋は浦和が重心を下げた分、WBが高い位置を取ることができて、それに伴いワイドCBの藤井や丸山も攻撃参加して分厚い攻撃ができるようになった。前半よりもアタッキングサード内のスペースは少ないものの侵入回数や危険なエリアでのボールタッチは多くなったはずだ。

要所で光る堅守

最後に両チームが堅い守備を誇る所以が伺える場面を紹介したいと思う。危険になりそうな場面で要所を抑えるプレーが両者からは多く見られた。

例えば、浦和は20:13の場面で名古屋に左サイドを攻略されそうになる。野上と森島のワンツーでPA内のポケットに名古屋が侵入しかけたが、明本がしっかりとプレスバックをしてポケット侵入を許さなかった。

20:13の浦和の要所を抑えるプレー

このプレーの凄いところは守備の連続性だ。RWBの野上に対して明本がプレス、そして名古屋は徹底してSBの背後のスペースに森島が顔を出す。しかし、この動きにも岩尾がしっかりと追走して自由を与えない。ここまでは多くのチームができていることが多い。しかし、この後に野上がチャンネルランでPA内のポケットを取りに来たが、明本がしっかりと予測してプレスバックしていたためにピンチには繋がらなかった。1人目の酒井(宜)、2人目の野上、3人目の森島まで対応できるチームは多いが更に4人目の野上のランニングにも浦和はしっかりと対応した。集中が切れずに連続性のある守備を見ればリーグ最少失点は頷ける。

一方で名古屋も終始素晴らしい守備を披露した。11:37ではホセカンテのポストプレーから伊藤が3人目の動きでハーフスペースでボール受けようとしたが、ボランチの稲垣が逆サイドから絞ってきてカバー。ピンチを未然に防いだ。

11:37の稲垣のカバー

マンツーマンディフェンスをしている名古屋にとって自分のマークを捨てて他のエリアを守ることは非常に難しい判断となる。しかし、稲垣は瞬時に危険なエリアを予測してマークしていた小泉を捨てて伊藤のケアに奔走した。

26:15も同様にPAのポケットへ流れてきたホセカンテへのパスをボランチの内田がインターセプト。要所を抑えてPAへの侵入を防いだ。

26:15の浦和のアタッキングサード内の攻撃

浦和はアタッキングサード内でのクオリティや判断、工夫が乏しい場面がシーズンを通じて露呈している。この場面も大久保のカットインのドリブルから逆サイドへと展開することができればスペースが広く、数的優位の状況で崩しへと移行することができたが、大久保は狭いエリアかつ名古屋のDFが多い方を選択してしまった。チャンスクリエイトができる選手が大久保に依存しており、大久保も圧倒的なクオリティを見せられていないことは浦和のジレンマだろう。特に前半は小泉がいたので、このような場面で小泉を使いながら、彼の精度の高い技術やアイデアを見ることができていれば面白かったかもしれない。

最後にもう一つ。30:05の場面のような森下の予測からのインターセプトとアップダウンする活動量はこの試合中でも多くの場面で見受けられた。浦和は右サイドでは酒井がオーバーラップやアンダーラップで背後に飛び出すプレーを1つの攻撃の手立てにしている。しかし、この場面ではショルツからの背後へのボールに対して、森下が事前にしっかりポジションを下げてインターセプトした。

30:05の森下のインターセプト

そして、ただインターセプトするだけでなく、森下はここからカウンターへと前に出て行く。森島とのワンツーで局面を打開すると背後を取った永井へとスルーパス。永井のクロスは岩尾にクリアされるが、クリアボールが野上へと流れて決定機を迎えた。

名古屋のカウンターからの決定機

森下の攻守に渡る活動量と安定感のあるプレーは大久保を後半から最終ラインに吸収させる要因の一つとなった。名古屋はこの試合何度かあった決定機を決め切れずに無得点の敗戦は痛恨と言えるだろう。特に後半は攻守で浦和を圧倒していただけに少なくとも同点にできていればという内容だった。

浦和は上の場面でショルツが攻め急いでボールを前に送ったことでネガティブトランジションの形を作れずに、もろにカウンターを受ける形となった。この場面では攻め急がずに後方へ戻してやり直すのがこれまでの浦和で多く見られた形だが、横浜Fマリノス戦でオープンな展開にして好戦的にプレーして上手くいってしまったために、それ以来無理強いして前にボールを送る場面が増えていることは懸念点だ。更に、先程も説明したように、サリーダの動きで岩尾が間に入っているのだが、数的優位を作れない局面で下りてくる必要がない上に、岩尾の動きでショルツとホイブラーテンの両CBがサイドに広がる形となるため、ネガティブトランジションが全く作れていないことに目を向ける必要があるだろう。

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