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重要な現象を見逃すな【コーチングログ#15】UEFA Bライセンス②

先月、UEFA Bライセンスの模擬試験がありました。通常のUEFA Bライセンスのコースでは模擬試験はなく、ぶっつけ本番での実技試験となりますが、私の通うサウスウェールズ大学ではFAW(ウェールズサッカー協会)と提携していて、授業にUEFA Bライセンスのコースがくっついています。ですので、実際のUEFA Bライセンスの試験と同じ形式で授業の時間を利用して模擬試験を行うことができます。

1回目の実技試験は既に昨年に終わっていて、今回は1月に行われる2回目の実技試験に向けてのコーチング練習となります。1回目の実技試験の様子は下の記事をご覧ください。

今回はその模擬試験で私が実際にコーチングを行っての振り返りをまとめたいと思います。


UEFA Bライセンス

昨年からスタートしたUEFA Bライセンスのコース(サウスウェールズ大学のコースで取る場合は2年、通常は7ヶ月程度取得にかかる)では3つの実技試験と12個のコースタスク、8つのオンラインモジュール、そして16個のセッションプランとリフレクションログを作成して提出します。これらの全ての課題をクリアして、UEFA Bライセンスが取得できます。

オンラインモジュール
コースタスク
セッションプラン
リフレクションログ

実技試験以外の課題はそれほど難しくはないのですが全て終わらせるのにかなり時間を要します。FAW C certificate(UEFA Cライセンス相当)の課題では1つの実技試験にコースタスク、オンラインモジュール、12個のセッションプラン+リフレクションログだったので、それに比べると課題の量が増えていることがわかります。


実技試験内容

1回目の実技試験と同様にペアでのコーチングとなります。

実技試験の内容

前回と大きく異なるのはセッションの種類です。1回目の実技試験ではジェネラルな練習(選手のポジションやタスクが関係のない練習)とSSG(スモールサイドゲーム)を行いました。2回目の実技試験ではSpecific Practice(選手にポジションと役割を与えて、チーム原則に特化したの練習)とSSGを行う点です。上の画像のTopicの中から一つを選んでセッションプランを作成して実際にコーチングを行います。

私のペアは『Creating and Exploiting Overloads』(数的優位)を今回の模擬試験ではトピックにしました。今回の模擬試験で行う練習をそっくりそのまま本場の試験で使っても良いですし、トピックを変更しても大丈夫です。


セッションプラン

UEFA Bライセンスで行うセッションは11vs11のゲームの文脈から9vs9に縮小した形で行われます。これはUEFAが定めているルールらしく、何故9vs9にしなければいけないのかよく分かりませんが、どうやらUEFA Aライセンスで行う11vs11のセッションとの差別化を図る狙いがあるらしいです。

実はこの9vs9のセッションの作り方が非常に難しく、2つのポジションを減らさなければいけないので、どうしてもリアリズムに欠けてしまいます。例えば、両SBや両WGを取り除いてセッションを行うことが多いのですが、そうすると「誰が幅を取るの?」というような問題が発生します。11vs11でやりたいと思いながらも渋々9vs9で行わなければいけません。

セッション内容

セッションの狙い:
3-4-2-1(攻撃側)vs4-2-1-3(守備側)の試合で数的優位を作り、使いながら前進すること。
・中盤での数的優位(必要に応じて偽9番をしよう)
・CBの持ち運びで数的優位を作る
・ワイドでの数的優位(CB+シャドー)

11vs11のゲームの文脈

Specific Training(10分)

オーガナイズ
・3-4-2-1から両WBを取り除く
・4-2-1-3からGKと両WGを取り除く
・従って1-3-2-2-1vs4-2-1-1の構図に(9vs8)
・3/4ピッチ+ピッチを斜めにカット(WBとWGを削ったため)
・エンドゾーン(ハーフウェイから奥のゾーン)を導入
・WBの代わりにミニゴールを起き、WBへのパスコースを確保
・ゴール、ミニゴール、ビブス、マーカー、ボール

ルール
・常にオフェンスのゴールキックから攻撃がスタート
・オフェンスはエンドゾーンに侵入してボールをコントロールするかミニゴールへゴールを決めれば1点
・ディフェンスはアタッキングサード内でボールを奪うと5秒以内にシュートを打たなければならない。それ以外のエリアでボールを奪うと10秒以内にシュート。時間内にシュートを打てなければアウトオブプレーとなりオフェンスのゴールキックから再開。

コーチングポイント
・CBの体の向きと縦パス
・CBの持ち運び
・後方と中盤での数的優位
・シャドーが外に流れて、ワイドで数的優位
・CFが下りてきて中盤で数的優位
・GKの立ち位置(必要に応じてCBの横に入る)

Specific Training

SSG(10分)

オーガナイズ
・3-4-2-1から両WBを取り除く
・4-2-1-3から両WGを取り除く
・従って3-2-2-1vs4-2-1-1の構図に(9vs9)
・3/4ピッチ+ピッチを斜めにカット(WBとWGを削ったため)
・ゴール、ビブス、マーカー、ボール

ルール
・9vs9のゲーム形式のトレーニング
・オフェンスは数的優位を使いながらゴールを目指す
・ディフェンスはアタッキングサード内でボールを奪うと5秒以内にシュートを打たなければならない。それ以外のエリアでボールを奪うと10秒以内にシュート。時間内にシュートを打てなければアウトオブプレーとなりオフェンスのゴールキックから再開。

コーチングポイント
・CBの体の向きと縦パス
・CBの持ち運び
・3CBの一角の攻撃参加
・後方と中盤での数的優位(特に中盤4枚vs3枚の数的優位を活かす)
・シャドーが外に流れて、ワイドで数的優位
・CFが下りてきて中盤で数的優位
・GKの立ち位置(必要に応じてCBの横に入る)
・3バックと4バックの併用(ボランチが下りる、GKがCBの横に入る)

SSG


模擬試験の様子と振り返り

・Specific Training
まずセッションの始めに練習内容の説明を行いました。2分間の持ち時間の中でセッションの簡単な説明(レイアウトや練習の文脈)を行い、プレイヤーを指定する場合は指名して練習を始めます。

練習説明の様子

最初にウォークスルーで練習のルール説明を行いトレーニングスタート。Specific Training(10分)を行います。

Specific Training

最初の5分間はペアを組む相方がメインコーチとして攻撃側のコーチングを行い、私はアシスタントコーチとして守備側のコーチを行いました。SpecificTrainingが残り5分になると役割を入れ替えて私が攻撃側のコーチング、相方が守備側のコーチングを行いました。SpecificTrainingでは主に攻撃側の狙いとする部分を強調してコーチングしていきます。攻撃のパターンや数的優位の作り方にフォーカスしてコーチングを行いました。

・SSG
Specific TrainingとSSGの間にチームミーティングを挟み、簡単に修正点をチーム全体で共有。私は攻撃側のチームにワイドでは数的優位を作れていて良い攻撃ができていたので、もう少し中央からも数的優位を作ることを意識するように伝えました。3CBの左右が幅を取り、シャドーがハーフスペースに留まり中央からの前進する意識を促しました。

SSGでは最初の5分を私がメインコーチとして攻撃側をコーチングし、残りの5分になると相方と役割を入れ替えて守備側をコーチングしました。SSGの10分が終わるとセッション終了です。アセッサーからセッションについてディスカッションを行い、フィードバックを貰って模擬試験は終了となりました。

SSG

良かったこと

まずはじめにセッションの狙いであった数的優位を使いながら攻撃をするプレーが多く見られたことは良かったです。後ろからじっくりとボールを繋ぎながらワイドと中央の両方の数的優位を使いながら攻めることができたことに関しては1つのセッションの成功でした。ハイプレスをかけてくる相手に対して、しっかりとギャップや幅を使いながらポジションを取って前進することができました。もう少し選手の立ち位置に関しては修正が必要だったかもしれませんが、全体的に見るとプレスを回避するポジション取りができていました。

セッションのオーガナイズも良かったと思います。私達は他の生徒のセッションに比べてゴールを後ろに下げてピッチの深さを確保しました。それによって攻撃側がDFラインの背後を取るスペースが生まれて、より実際の試合に近いピッチサイズでプレーすることができました。当然、攻撃するにあたってFWのDFラインとの駆け引きは重要な要素になってくるので、背後を取りにいけるだけのスペースを確保することは大切でした。

コーチングに関しては良かった部分と良くなかった部分の両方があります。課題については次のセクションで話しますが、良かった点についてはSSG内で良いタイミングでフリーズをかけてプレーを修正できたことです。右サイドのところでボランチが最終ラインに下りてボールを受けた場面があったのですが、その時のRCBとシャドー、CFの立ち位置が相手DFに捕まるポジションでサイドでハマる形となりました。このプレーに対して、RCBがワイドで高い位置を取らせて、シャドーがギャップ(ハーフスペース)に入り、CFが深さを確保するような修正ができました。

またこのフリーズの際にボールを持っている選手とその周りの選手だけでなく、ボールから遠い選手(この場合ではGKやLCB、左シャドーなど)に対してもコーチングを行うことができました。UEFA Bライセンスでは「On the ball, Around the ball, Away from the ball」にコーチングすることが必須になってきます。ボールホルダーやその周りだけでなく、ピッチ全体にコーチングで影響を与えることが重要になってくるので、このフリーズをかけた時はピッチ全体にコーチングをかけることができてました。

課題

大きな課題の1つとしてはコーチングのディテールに欠けていることです。例えば、フリーズをかけて選手の立ち位置を修正する際に「もう少し広がって」と私はコーチングしていましたが、どれくらいの広がれば良いのか具体的な距離や遠さを伝えなければいけませんでした。英語での指導ということもあり具体性が欠けていたのは反省点なので、本番までに具体的に修正をすることを自然と行えるように、日々のチームでの練習から意識していきたいです。

チームバランスが偏ってしまったことは次回に向けての課題となりました。オフェンスチームに力のある選手を多く配置したことによって、簡単に前進してゴールを奪うことができてしまいました。オフェンスがあまりにも簡単に攻撃することができてしまうと、逆にコーチングする部分が無くなりかえってコーチングが難しくなってしまいます。かとい言ってオフェンスチームを弱くし過ぎると狙いとしている現象を技術的な影響によって引き出せなくなってしまいます。ディフェンスチームにもある程度均等になるように選手を配置して程よいチームバランスでコーチングが行えると、より良い条件でコーチングが行えるのではないかと思いました。

チームバランスが偏ってしまったことも影響してますが、ハイプレスの強度は物足りなくコーチングが必要だったかもしれません。特にアシスタントコーチとして守備側をコーチしている時に守備陣形をコンパクトに保たせながらボールサイドに圧力をかけてサイドに追い込んでいくように促すことができれば、より攻撃側が程よい難易度で攻撃することができたと思います。アシスタントコーチは基本的にフリーズはかけられない(あくまでもセッションのトピックが攻撃にフォーカスしているので)のですが、メインコーチがフリーズをかけたタイミングなどを利用して選手個々にコーチングしていければハイプレスがもっと機能させることごできたのではないかなと思いました。アシスタントコーチとしての振る舞いは評価項目には入ってませんが、セッションを成功させるためにはアシスタントコーチの立ち回りも必要なので本番では守備側にも修正をかけられるようにしたいと思います。

また、深さについてあまりコーチングすることができませんでした。後ろから繋ぐすることを意識するあまり、オフェンスの選手が低い位置でプレーする事が増えて、ピッチを縦に広く使うことができていませんでした。ピッチを縦に広く使えると、中盤にもスペースが生まれ始めるので、よりボールを前進させやすくなったかもしれません。ですので、DFラインの背後を意識させるようなコーチングが必要でした。

個人的にセッションの映像見返した時にSSG内で私がメインコーチとしてコーチングを行っている時にフリーズをかけてプレーの修正を図る必要があった場面を見つけました。

下の画像のようにボランチの選手がCBへバックパスをした場面です。

画面右側の緑色のビブスを着た選手がCBへバックパスをします。

下の画像を見ると、CBがバックパスを受ける立ち位置が悪く、GKの前でボールを受けました。

上から見た図

この場面では下の図のようにGKとCBがズレてRCBとLCBを押し出して幅を取らせたほうが良かったかもしれません。そうすることで逆サイドに展開して3vs2の状況を使えたかもしれません。また、相手が広がった選手に付いていけば中央にギャップが生まれるのでボランチの選手やシャドーの選手への縦パスを入れることができたかもしれません。

本当はフリーズをかけて、図のようにピッチを広く使うように促さなければいけなかった。

そして、この場面では下の画像のようにCBからLCBへとパスが渡ります。

画面右側の緑色の選手(LCB)がボールをコントロールした場面

この時の私の立ち位置も悪く、本来は私の立っている位置までLCBの選手が広がって幅を取らなければいけないと思いますが、私がそのスペースに立ってしまっています。

その後、下の画像のようにディフェンスチームのRSBに寄せられて、LCBがサイドで追い込まれる形となりました。

画面右側でLCBが追い込まれる

このLCBが追い込まれた時に左シャドーが内側から外側への斜めの動きで背後に抜けることで、DFラインの背後を取れた可能性がありますし、CFへの斜めのパスコースを作ることができたと思います。

この一つの局面だけでも多くの改善点があり、このプレーはフリーズをかけて修正しなければいけなかったのですが、私はそのままプレーを続行させてしまい、コーチングポイントを見逃してしまいました。実技試験ではコーチ1人あたりSpecificTrainingとSSGを合わせて10分しか時間がありません。ですので、こういった重要なコーチングポイントを見逃してしまうと試験時の評価が落ちてしまう可能性があります。

日々のトレーニングでもそうですが、重要な現象(ポジティブとネガティブなプレー)を見逃してしまうと選手の学びやその現象から得られるものがなくなってしまいます。全ての現象に対してコーチが介入する必要はありませんし、プレー時間も確保することは大切ですが、「ここは絶対チームに訴えかけなければいけない場面」があります。指導力のあるコーチはこのプレーに介入するタイミングが絶妙で、しっかりと現象を観察、診断、分析を行っているからこそできるのだと思います。そういう指導者になるためには『眼』を鍛える必要があり、多くのサッカーを観ることが大切になってきます。私自身もまだまだ『眼』を鍛えなければいけないな感じる瞬間が多くあるので、『眼』を鍛えて常にアンテナを張り、実技試験本番を迎えたいと思います。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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