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鬼門【Jリーグ】大分トリニータvs浦和レッズ

前節仙台の守備を最後まで崩せずに引き分けに終わったレッズはアウェイで大分と対戦しました。

大分はリーグ戦4試合勝ちなしで19位と低迷中。残留に向けて勝利が必要な試合でした。

レッズは2004年にアウェイの大分戦で勝利して以来、アウェイ大分戦で勝利がない鬼門での試合でした。直近の天皇杯でも相模原の5バックに苦戦しているだけに同じように戦ってくる大分相手に進化が問われる一戦でした。

スタメン

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大分は前節の清水戦からメンバーを1人変更。三竿が出場停止から復帰した。

一方のレッズも前節の仙台戦からメンバーを1人変更。デンに代わり岩波が先発復帰した。

両チームともにミッドウィークに天皇杯があったがターンオーバーをしているのでコンディション的にはほぼ互角な状態。


試合内容

レッズのビルドアップに対して大分が5-4-1の陣形で守りショートカウンターを狙う展開。立ち上がり早々の1分に岩波のボールを奪った小林が下田にラストパス、下田が左足を振り抜くも西川がセーブする。12分に西のパスをカットした三竿が小林に繋ぎ、小林のクロスから最後は町田が頭でゴールに流し込む。大分が先制点を奪い1-0。直後の13分には明本のバックパスを長沢がインターセプトし決定機を迎えるがシュートは左に外れる。大分のディフェンスに対して全く攻撃の糸口が見えないレッズは前半終了間際に柴戸がクリアボールを拾ってシュートを放つもボールはゴール左に外れる。大分の1点リードで前半を折り返す。

1点ビハインドのレッズはハーフタイムに柴戸を下げて杉本を投入し後半開始から猛攻撃を仕掛ける。46分に田中のクロスに明本が左足で合わせるもシュートは僅かにゴールの左に逸れる。55分には杉本のキープから汰木が左足を振り抜くもGK正面。57分、61分と立て続けに小泉がこぼれ球をシュートするもゴールを捉えきれない。74分には杉本がターンから左足のミドルシュートを放つも大分の守護神、ポープに阻まれる。興梠と関根を投入し試合終盤にはパワープレイも行ったレッズだが最後まで大分の牙城を崩せずに試合終了。1-0でホームの大分が勝利した。

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・試合ハイライト動画


・試合スタッツ

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先制パンチ

どのチームも対戦相手をスカウティングしてどういった作戦を取るのか、どういった対策を講じるのかということを行います。レッズも大分も明確なスタイルがあり両チーム共に相手を分析して試合に臨んだと思いますが、大分の方がレッズ対策がハマり前半は完全に大分が上回りました。

・明暗を分けた出だし
大分は5-4-1のブロックを作りレッズの攻撃を待ち構えます。一方のレッズは田中と汰木の両SHが1つ内側のレーンに入り、両SBが高い位置に上がるような可変の仕方をしました。仙台戦でもこの形を採用していましたが、小泉が利用できるスペースを両SHが埋めてしまうので小泉の稼働率が下がり攻撃が停滞するという問題がありました。しかし、この試合でも同じ形を採用していたので個人的にはリカルド監督がどういった狙いがあったのか疑問に思うところでした。

レッズは2-2-5-1(ボランチがサリーすると3-1-5-1)でビルドアップ。それに対して大分はレッズの中盤をしっかりと捕まえてきました。大分がプレスをかける時はシャドーがプレスのスイッチとなりレッズのCBにプレスをかけます。そしてCBからSBにパスを誘導してWBがレッズのSBまで縦にスライドしてボールを奪いました。

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1:48では岩波が小林にボールを奪われてショートカウンターを受けるシーンがありました。また失点した場面も西川のパスを受けた西が縦スライドしてきた香川に奪われたところから生まれましたし、13:42では明本が井上に寄せられてボールロストしたところから長沢に決定機を作られてしまいました。

事前に相手をスカウティングした上で大分の狙いとする守備とプレスが上手くハマり、レッズが狙いとするビルドアップは失敗に終わりました。大分のレッズ対策が見事にハマり、レッズは先制パンチを食らう形となってしまいました。

・飲水タイム
リカルド監督の良いところは上手くいかない時に修正してチームを立て直すことができるところです。まず前半の飲水タイムでビルドアップ時のシステムを3-1-4-2に変更。田中とユンカーの2トップ、汰木と小泉の2シャドーにし前線の形を変えてきました。この修正で立ち上がりに比べて敵陣まで前進できるようになりましたが、そこから大分の守備を崩すところまでは至りませんでした。

このシステムのポイントは汰木と小泉のリンクマンを置いたこと、田中をトップに置くことで小泉の使えるスペースが増えることです。30:12や31:30のような小泉が大分のボランチの斜め後ろのハーフスペースでボール受ける機会が増えました。

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前後半のシュート数やプレイエリアを見ても明らかに前半は上手くいってなかったことがわかります。前半の飲水タイムまでは大分のシュート数が非常に多く、レッズがボールを持ちながらも奪われてカウンター受ける試合展開を表しています。

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また後半に劇的な変化があったのは飲水タイムの修正に加えてハーフタイムでのテコ入れがあったからだと思います。


テコ入れ

前半の飲水タイムで修正を加えたレッズはハーフタイムにもテコ入れを行いました。柴戸を下げて杉本を投入しました。この交代策によってレッズは後半から敵陣でプレイできるようになりました。

飲水タイム以降と同じシステムですが、後半からはレッズの選手の立ち位置で大分の選手を『ピン留め』したことで大分がレッズのボール保持の際に前に飛び出してプレスをかけることができなくなりました。

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2トップで大分の3CBsを固定することで浦和の2シャドー(汰木と小泉)へのマークが緩くなりました。また、田中が高い位置で幅を取ることで香川を固定したことで西へのプレスが緩くなりました。

相手を押し込むと後はレッズがどのように大分の5-4-1のブロックを崩すかです。後半の立ち上がり46:50のシーンでは田中の背後への斜め動きに合わせて伊藤が左CBの三竿と左WBの香川の間にスルーパス、最後は明本が走り込みシュートという崩しがありました。

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また57:16にも先程と似たような崩しが左サイドでありました。ユンカーが潰れて溢れたボールを小泉がシュートし惜しくも枠を捉えられませんでしたが非常に良い崩しだったと思います。

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・こっちのもの
後半はレッズペースで進みレッズが大分ゴールを脅かす場面が増えていました。そこで大分は69分に小林を下げて伊佐を投入しました。推測ですが伊藤と小泉のボランチを捕まえきれていなかったのでダブルボランチからボランチ(中盤)を3枚にして規制をかける狙いと、2トップにして前からのプレスを強めてカウンターでもう1点狙う意図があったのではないかなと感じました。

ただレッズが流れを掴み大分陣内に押し込んでいたことや大分の中盤の枚数が減ったことでレッズとしてはそこまで影響はなかったように思います。むしろ大分が少し前に出てきてオープンな展開になったのでスペースができたのでやりやすくなったと思います。

どうしても中盤3枚のサイドの選手は外に引き出されがちなので長谷川の脇が空いてきます。長谷川の脇のスペースがあるので杉本やユンカーがボールを受けることができるようになりました。

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74:54のシーンでは杉本が小泉のパスをハーフスペースで受けて左足を振りぬきました。惜しくもGKに阻まれてしまいましたが、あの位置でターンできるとパスもシュートできるので脅威になります。

ただ大分もあまり上手くいっていないことに気が付いたのか78分に渡邊と羽田を投入し再び5-4-1に戻して対応しました。修正が早かったのも大分がこの試合で勝利した一つの要因かもしれません。


中断期間の宿題

リーグ戦も中断期間に入り、各チームがそれぞれ調整する時間がある中でレッズに課された宿題は大きく2点あると思います。

・ビルドアップ
まず1つ目がビルドアップです。この試合でもそうでしたが相手がレッズのビルドアップのシステムに噛み合わせてくるとレッズは苦戦する傾向にあります。レッズのシステムと噛み合っている時には相手は槙野と岩波までプレスに出てこれるので槙野や岩波への圧力が強くなります。そうなると「ボールを蹴らなければいけない」、「GKに下げてクリアになってしまう」、「SBへパスを誘導されてSBで奪われる」というような状況に追い込まれてしまいがちです。

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相手のプレスの矢印を理解して矢印をいなすようなボール回しが必要です。

①プレスの矢印を理解する
相手が「どのようにプレスをかけてきているか」が分かるとプレスを回避することができます。

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②CBが持ち上がる
ビルドアップ時にはCBがフリーもしくはある程度ボールを持てる時間があるシーンがあります。CBがボールを持ち上がると敵が引き出されるので相手の守備陣形が崩れ、状況を変えられる事があります。

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③パス回しのテンポ
パス回しのテンポが上がると相手のプレッシャーが間に合わなくなりプレスを回避できるようになります。相手のプレスが早ければ早いほどパスのテンポを上げる必要があるので高い技術が必要です。

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④フリーの選手を認識する
特にGKへのバックパスをした時は相手の意識がGKに向くのでマークが外れがちです。その時にフリーな選手へのパスにするのか、クリアでボールを失うのかでビルドアップの結果が変わります。

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あくまでもこれらは例ですので試合で上手くいくとは限りませんし、相手との噛み合わせもあるので正解はありませんがプレスをいなすアイデアを持ちトライしていくことが大切だと思います。


・崩し
『崩し』のアイデアやパターンを確率させることはリーグ後半戦のテーマだと思います。セレッソ戦や仙台戦、この試合の後半のように相手が引いてきてブロックを作ってきたときにどのように攻略するのかという点でレッズは課題を抱えていると思います。

相手が前に出てきた時には比較的決定機に繋がるような良い攻撃ができていると思いますが、相手が引いてきてレッズの選手がボールを受けるスペースが狭い時には攻撃が停滞気味です。特に5バックでブロックを敷かれると選手間のギャップは狭くなり、パスを通すことが難しくなります。ユンカーが加入してからは彼の決定力に救われて『崩し』の課題が隠れていましたが、ここ数試合はユンカーも徹底マークされるようになり再び「得点力」や「チャンスクリエイト」という点で力不足を露呈しています。

細かな部分で言えば「ライン間を取ってDFを引き出す」、「ハーフスペースで受けてボールウォッチャーにさせる」、「ポケットから崩す」などが必要になってくると思います。

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単純なクロスだとレッズの前線に空中戦が強い選手がいないので簡単に跳ね返されてしまいます。クロスを上げるにもGKとDFラインの間に速いボールや深い位置までえぐってDFがマークを外しやすい状況を作ってからクロスを上げるなど工夫がほしいところです。

中断期間に選手の入れ替わりがあったので何とも言えませんが、1つのヒントとして「どうやって小泉をなるべく高い位置で機能させられるか」と「どうやってゴールに近いエリアでユンカーに多くプレイさせられるか」を考えると引いた相手を攻略することに繋がると思います。

ファイナルサードは相手の守備も激しくなりますしとても繊細な技術が求められます。選手自身が創造的で様々なアイデアがあれば話は別ですが、そうでない場合はある程度デザインした攻撃をしてもいいのかなと思います。この中断期間で選手の構成が変わっているので難しいとは思いますがレッズが勝点を積み上げていくには崩しの部分では改善が必要だと思います。


最後に

中断期間前最後のゲームで痛い敗戦となりました。特に前半は全く見せ場がなく苦しい試合となりました。ですが、中断期間に取り組むべき課題が見つかったという点においては非常に良かったと思います。ユンカーが加入して以降、課題が見えづらい試合もあったので何に取り組まなければいけないのか明確になってのではないでしょうか。

また中断期間にはショルツや酒井が合流しますし、また先日水戸から平野の加入も発表されました。チーム編成も変化がある中でどういった進化を見せてくれるのか期待したいです。ぜひ中断前に出た宿題の解答をピッチで表現してほしいです。

オリンピックも終わり、いよいよ待ちに待ったリーグ戦の再開です。次節は札幌との一戦です。レッズの選手たちがピッチで躍動する瞬間を応援しましょう!


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