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エッセイ

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忘れなかった音楽

忘れなかった音楽

 忘れられない音楽は普段耳にしなくてもふとした瞬間に口ずさむ。無意識に脳裏に残っている。こびりついていて、脳内ジュークボックスが状況に応じて選曲する。

 小学生の頃、夕方に放送されていた「丸出だめ夫」というアニメが好きだった。のび太をさらにやぼったくした「だめ夫」に発明家の父が作った家事のほかには特技もないロボットの「ボロット」が日常の小さな出来事、事件を解決していく。ドラえもんの二番煎じのよう

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【エッセイ】夏の日常

【エッセイ】夏の日常

夏の昼が嫌いだ。本を読んで、寝て、その繰り返し。

 夏の夜が好きだ。ベランダで深呼吸して出かける。電車や車の光を追いかけるように自転車で河原へ出かける。夏の草のにおいが好きだ。心に水が流れていく。

 国道沿いを走りながら妄想する。いつか緩やかな丘の頂上にある家に住み、窓を全開にして、八畳くらいの部屋に寝っころがって天井を眺めながら伴侶となる人とあれこれ話してみたい。できればくだらない事の方がい

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【実話】貝を焼く人になりたかった

【実話】貝を焼く人になりたかった

「貝灰って知ってますか?」
と聞かれたのは2014年の夏。知り合いの建築会社社長からあなたにぜひやってほしい仕事があるからと呼び出された。

貝灰(カイバイ)とは貝を焼いたもの。漆喰の材料になる。一般的には漆喰の材料は石灰(せっかい。イシバイとも読む)だ。だが、かつては貝灰が主流で、貝灰の方が調湿性、防臭性に優れ、なにより白さが映えると、日本の名城には貝灰漆喰が使われている。熊本城もそうだ。しかし

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【エッセイ】高校生の恋愛

【エッセイ】高校生の恋愛

高校生のころの話である。

ある日、別れた彼氏に話がある、と呼び出された。

彼とは私が高1、彼が高3のころに同じ部活で出会った。「バトルロワイヤル」という今思えばデートにはなり得ない映画に誘われたことから付き合いが始まった。

私は初めての彼氏だったので、浮かれて美容部員の従妹から服を借りてデートに臨んだが、やって来た彼はケミカルウォッシュのジーンズを履いてシャツをインしていた。それは思春期の私

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