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春に傷付く

春の陽気に過去を懐かしむ日もあった。忘れそうな温度はいつでも思い出せそうな温度だった。掴めそうだと思っていたけれど、どれもわたしの指にはかすらなかった。それはわたしの人生そのものだった。

生きるってことは永遠はどこにもないんだと知ることだった。生きるってことは自分を見失っては探し出して、手を引っ張ってすくい上げてあげることだった。心に深い切り込みを入れて「知らない。気のせい」の繰り返し。どれだけ傷が痛んでも弱くなりすぎない。やり過ごすことだけは出来たから。強さと呼びたかった。

みんな幸せそうだった。みんな愛に溢れていた。みんな何かを手にしていた。手に入れられなかったわたしは失うこともなかったのに、やっぱり失ったもののほうが多かった。

誰かの幸せを微笑ましいと思える人はどうせあなたも幸せなんだろう。みんなみんな知らない人。みんなにとってもわたしは知らない人。傷付くのも傷付けるのもバカみたいだね。

春は苦手だ。桜が咲く頃に降る冷たい雨も苦手だ。嫌いなものばかり増えていく。もうちょっと柔軟な大人になれていると思ったよ。偽物の真面目で生きてきたね。ツケが回ってきたんだと思うの。

そんなに悪いことをして生きてきたかな。

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