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容姿の優れた者が社会を制する ~ルックスが持つ魔力の研究~

 ビジネスで成功している人やお金を持っている人の中に、優れた容姿を持っている人が多いと思ったことはないでしょうか。
 確かに優れた容姿を持っていればメディアにも取り上げられやすく、そのような人たちが目立つのも当然と言えるでしょう。

 本記事では、優れた容姿と社会的成功との関連性を探り、ルックスが富や権力に変換されるメカニズムを探ります


1. ルックスが相手に与える印象

 英国セント・アンドリューズ大学が2016年に実施した調査研究は興味深いものです。この研究では大学生100人の顔を被験者に見せ、魅力的だと思うか・知性的だと思うか・成績が良さそうだと思うか・誠実だと思うか を評価させました。

 As predicted, there was no relationship between attractiveness and actual academic performance (r = 0.03), but a strong positive correlation between attractiveness and perceived intelligence (r = 0.81), attractiveness and perceived academic performance (r = 0.74) and attractiveness and perceived conscientiousness (r = 0.81).

 予想したとおり、魅力的なルックスと実際の学業成績との間に相関は見られなかった。しかし、魅力的なルックスと知性的な印象、成績が良さそうな印象、誠実な印象との間には、いずれも強い正の相関があった。

Blinded by Beauty: Attractiveness Bias and Accurate Perceptions of Academic Performance, University of St Andrews(2016)

 結果、ルックスが良い学生は実際の学業成績に関わらず、成績が良さそうな印象を与えることが分かりました。また、ルックスの良さは相手に知性的な印象や誠実な印象を与えていることも分かりました。
 この研究成果が示していることはシンプルです。ルックスの良い者は、実際の人柄とは無関係に、聡明で信頼できる人物という印象を与えられるのです。

2.「顔採用」の実在を証明してみた

 就職活動において、「顔採用」は半ば都市伝説のような文脈で語られることが多いですが、実際には容姿はどの程度の影響力を与えているのでしょうか。

 ドイツの研究機関"Institute of Labor Economics(IZA)"が2012年に実施した調査研究がこの疑問に対する答えを示しています。
 調査はアルゼンチンで実施されました。
 まず、実在する大学生の男女100人の顔を画像処理でランダムに組み合わせて、架空の顔写真を25枚を生成しました。さらに顔の黄金比を調整し、魅力的な顔とそうでない顔のグループを作りました。
 これらの写真をランダムな組み合わせで架空の履歴書に貼付し、2,450件の実在する求人広告に応募して結果を集計しました。

 Resumes with a photograph of an attractive applicant have a 10.3 percent chance of receiving a callback. Equivalent resumes with a photograph of an unattractive applicant have a 7.6 percent chance of being called back for an interview.
 This represents a difference in callback rates of 2.7 percentage points (or 36 percent) that given our experimental design can only be attributed to manipulation of the facial attractiveness of the candidates.
 The difference in callback rates is statistically significant at the 5 percent level. Resumes without a photograph attached have callback rates of 7.9 percent.

 魅力的な顔写真を貼付した履歴書では、10.8%の確率で面接に招待された。同一の履歴書で魅力的でない顔写真を貼付した場合は、7.6%の確率だった。
 面接に呼ばれる確率において2.7%(36%)の差異があることを示しており、これは実験の構想のみが応募者の顔の魅力に影響を与えたものである。
 面接に呼ばれる確率の差異は、5%水準で統計的に有意だった。顔写真を貼付していない履歴書の場合、面接に呼ばれる確率は7.9%であった。

The Labor Market Return to an Attractive Face: Evidence from a Field Experiment,
Institute for the Study of Labor(IZA),2012

 結果、魅力的な顔写真を貼付した履歴書の場合は、そうでない履歴書よりも面接に呼ばれる確率(=書類選考の通過率)が高いことが確認されました
 相対比較すると、魅力的な顔の応募者はそうでない顔の応募者と比べて、面接に呼ばれる可能性が36%高いことになります。
 さらに、魅力的でない顔の応募者は、顔写真を貼付せず履歴書を提出したほうが面接に呼ばれやすい可能性まで示唆しています。

3. ルックスが人生に与える影響

 ルックスの優劣が青少年の生育にどのような影響を与えるか、米国イリノイ大学シカゴ校が2013年に行った調査研究が詳細な分析と考察を行っています。
 まず、この調査の元になったデータは、1990年〜2000年後半に全米の青少年を対象に実施された大規模な統計調査です。8,918人の青少年の男女を複数回にわたって追跡調査したものになります。
 データを処理し、以下3つの観点で比較を行いました。
 ①最も魅力的な容姿のグループと魅力的な容姿のグループを比較
 ②魅力的な容姿のグループと平均的な容姿のグループを比較
 ③平均的な容姿のグループと魅力的でない容姿のグループを比較

 Attractive youth were more likely than average-looking youth to socially achieve on seven of the ten outcomes we examined, including having more friendship nominations, perceiving more teacher caring, having more successful relationships at school, being more likely to have any romantic partners and to participate in sports, having higher self-esteem, and being less depressed.
(中略)
 We found that youth who were rated about average in looks achieved more than those who were rated as unattractive on 5 of the 10 social outcomes examined, including friendship nominations, sexual partners, partying (drinking problems), self-esteem, and (lack of) depression.

 平均よりも魅力的な容姿の若者は、我々が調査した10項目のうち7項目で社会的成功を納めやすかった。より多くの交友関係を持ち、教員から大事にされていると自負し、学校での成功事例も多く、恋人を持ちやすく、スポーツに打ち込む傾向が強く、高い自己肯定感と低い抑鬱傾向を持っていた。
(中略)
 平均的な容姿の若者は、魅力的でない容姿の若者よりも10項目のうち5項目で社会的成功を納めやすかった。交友関係の形成、性的パートナーの存在、パーティーへの参加(お酒のトラブルも含む)、自己肯定感、抑鬱傾向の低減が挙げられる。

PHYSICAL ATTRACTIVENESS AND THE ACCUMULATION OF SOCIAL AND HUMAN CAPITAL IN ADOLESCENCE AND YOUNG ADULTHOOD: ASSETS AND DISTRACTIONS,
Rachel A. Gordon et al.(2013)

 学生生活において、容姿による影響が最も顕著だったのは交友関係、次いで抑鬱傾向と自己肯定感です。①では有意な差はみられませんでしたが、②と③では有意な差がみられました。

 では、学校卒業後はどうだったのか。本研究の追跡調査がその実態を明らかにしています。

 In particular, there was continuity in psychosocial resources, such that the mental health advantage in high school of youth rated as attractive rather than average in looks predicted better mental health in young adulthood.
 とりわけ、高校時代に平均より魅力的な容姿と評価された若者は、若年期に精神状態が良好であると予測され、社会的・心理的な資質に継続性があった。

PHYSICAL ATTRACTIVENESS AND THE ACCUMULATION OF SOCIAL AND HUMAN CAPITAL IN ADOLESCENCE AND YOUNG ADULTHOOD: ASSETS AND DISTRACTIONS,
Rachel A. Gordon et al.(2013)

 ②の追跡調査では、学生時代に容姿の魅力が与えた影響は、その後の若年期にも持続することが指摘されています。具体的には、親友の数と婚姻率の増加に寄与しています。

 (中略)we again saw continuity in psychosocial resources and friendship nominations from high school into young adulthood; thus, the poorer mental health and greater isolation of the unattractive versus average in looks extended from high school into young adulthood.

 (中略)社会的・心理的な資質と、高校時代における交友関係の形成能力において、再び継続性がみられた。ゆえに、平均よりも魅力的でないグループにみられた芳しくない精神状態と孤立の深刻化は、高校時代から若年期に至るまで影響を及ぼしたのである。

PHYSICAL ATTRACTIVENESS AND THE ACCUMULATION OF SOCIAL AND HUMAN CAPITAL IN ADOLESCENCE AND YOUNG ADULTHOOD: ASSETS AND DISTRACTIONS,
Rachel A. Gordon et al.(2013)

 このことは③の追跡調査にも当てはまる結果でした。すなわち、学生時代に魅力的でない容姿だった人は、大人になっても交友関係の形成や精神状態に問題を抱える可能性が高いことを示唆しています。

 さらに、高校卒業後の大学進学率と収入についても①②③の比較によって評価が行われています。

(中略) young adults whose better looks had led to romantic partnerships in high school were more likely to attend college (中略)
All together, attractive youth were nearly three percentage points more likely to graduate from college than were youth average in looks (中略)

(中略) 高校時代に優れた容姿が恋愛の成就に繋がった若者は、大学進学率が高かった。(中略) 全体的に、魅力的な容姿の若者は平均的な容姿の若者よりも、3%近く大学卒業率が高かった。

PHYSICAL ATTRACTIVENESS AND THE ACCUMULATION OF SOCIAL AND HUMAN CAPITAL IN ADOLESCENCE AND YOUNG ADULTHOOD: ASSETS AND DISTRACTIONS,
Rachel A. Gordon et al.(2013)

 Thus, the better looking had a 7–10% indirect advantage in their earnings (中略)
 Specifically, the earnings advantage of the very attractive over the attractive reflected their better mental health in young adulthood (中略)

 したがって、優れた容姿は収入において7~10%の間接的な優位性をもっていた。(中略)
 特筆すべきは、非常に魅力的な容姿の持ち主が持つ収入の優位性は、若年期の精神状態の良好さを示していることだった。(中略)

PHYSICAL ATTRACTIVENESS AND THE ACCUMULATION OF SOCIAL AND HUMAN CAPITAL IN ADOLESCENCE AND YOUNG ADULTHOOD: ASSETS AND DISTRACTIONS,
Rachel A. Gordon et al.(2013)
  • ①に関しては、優れた容姿が収入の増加に与える影響が有意だった。

  • ②に関しては、優れた容姿が大学卒業率と収入の増加に与える影響が有意だった。

  • ③に関しては、優れた容姿が収入の増加に与える影響が有意だった。

 論文では、これらの影響が間接的には認められたが、直接的には認められなかったとしていますので、因果関係の立証には至りませんでしたが、何らかの相関はあるようです。

 研究は非常に多くの知見をもたらしていますが、着目すべき点は、ルックスの良さには精神状態と交友関係を良好に保つ作用があり、その効果は学生時代から長期的に継続するため、結果として大学卒業率や収入を引き上げていることです

4. ルックスは最強の資産である

 以降は筆者の私見です。これまで見てきた研究によれば、ルックスが人生の様々な局面で影響を与え、とくに容姿の優れた者が社会的・心理的な恩恵を享受していることが分かりました。
 そこで筆者が提唱したいのは、ルックスは資産であるという仮説です。資産とは、利益に変換可能な経済的価値のことです。

 ルックスは、それを使うことで経済資本と社会関係資本に変換可能です。
 たとえば、容姿の優れた者はモデルや俳優などの芸能活動やSNSのインフルエンサー活動に参入しやすく、そこから報酬を獲得できます(=経済資本への変換)
 また、これまで見てきた研究成果のとおり、人間関係の形成も比較的容易であるため、クラスやコミュニティの中心部に入り込みやすいと想定されます(=社会関係資本への変換)

 さらに、ルックスは加齢・事故・病気などの要因で物理的に毀損されることがない限り、無制限に価値を生産し続けることが可能です。株式や外貨のように短期間で価値が変動するリスクが低く、不動産のように取引に時間と手間がかかることもない。収益性・安定性・流動性の全てを兼ね備えた理想的な資産です。

 優れたルックスの持ち主は、特に起業的な仕事でその真価を発揮するでしょう。起業には資金調達や人員の募集が伴い、相手との信頼関係や人間関係を形成する能力が必須です。また、予想外の事態も頻発するため精神的な強靭さも求められます。ルックスの優れた人がどのような資質を持っていたか、これまで見た研究成果を振り返ってみてください。

 ルックスで相手を判断することは道徳的には問題のある行為でしょう。しかし、道徳的な問題と統計的な事実は区別されるべきです。この事実が多くの目に触れることで、我々が何となく感じていたルックスの持つ「魔力」への理解が深まることを望みます。



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