不吉な言祝ぎ唄と親友

また別の親友の顔が浮かんだので忘れないうちに書き留めておきたい。

親友というか戦友というか、彼とは職場で知り合った仲で最初の印象と全く違う何処か不可思議な男だった。

最初の印象は悪い人間ではないが空気が読めず少々ウザめな小狡い美味しんぼの富井副部長(笑)が思い浮かぶような小物臭溢れる男だった。

ちなみに顔は南こうせつ氏に似ている。(氏の容姿と彼への最初の評価は無関係です)

実際相棒の方は彼の事を苦手としていた様で互いの平和の為にも的な感じでそれなりに人に合わせることが出来る私がこうせつ似の彼の相手をしていた。

ただ相棒と別れ彼と一緒のチームとなり長い時間を共に過ごす様になってから表層的にしか見えていなかった彼の本質・・・実際は仮面を外した彼の素顔を知る事になっていった。

空気を読めないのではなく道化のように空気が読めないキャラクターを演じ、人の心の痛みに静かに配慮し、生きる為の小狡さはあっても、それを隠さない事が誠意といわんばかりに卑屈ではなかった。そして人には言えない爆弾を抱えながらもそれは自分だけの問題と隔離していた。

ミスが許されないオペレーションでの助け合いやあの手この手で取り組んだツール開発と互いに信頼を重ねていった事は勿論だが、互いに何処か同じ世界の住人である事に気が付き、安堵したのだろうと思う。

お互い何一つ語らないが例え交わらずともそれぞれが孤独ではない事を知れたのだと思うし、それで十分だった。

ある街でのある日の夜。
夜の街を散歩しようかと連れ立った際に彼は運命と出会ってしまった。

夜の街で唄を書く女。

私の直感はその夜の出会いにあまり良い感触を持っていなかった。

彼女と別れた後の彼との会話でも似た様な感想が飛び出していた。

暫くしてだろうか、彼女と付き合っていると報告を聞いたのは。再び湧き上がるモヤモヤを押し込め、孤独の中戦う彼に安らぎが出来るのなら良いではないかと自分の気持ちを騙す様に祝福した。彼も私の複雑な気持ちを恐らくわかった上で謝意を述べた。

その後彼とはチームが別れ、私は自社からの騙し討ちで二重生活を強いられつつエンジニアというよりもマネージャーの様な立ち位置となり心身をすり減らす日々を送る事となる。

暫く経って何かのタイミングで彼と連絡を取った際、強い違和感に気づいてその日はらしくもないが踏み込んだ。

私が基本的には踏み込んでくる人間でない事は良くわかっているからか、彼は躊躇しながらもぽつりぽつりと話をしてくれた。心を病んだ唄書き女の話を。

再会を約束しその後一緒にご飯を食べたのか、また連絡を取って話をしたのかはもはや朧気だが、最後に繋がってそれ程経たないうちに同じチームだった仲間経由で彼の訃報を聞いた。


その後亡くなった彼の友人経由で告別式の案内が届いたが結局は顔を出せていない。多忙であることや距離の問題もあったが身内と複雑な関係だった彼と併せて現地にはあの唄書き女がいるかも知れないのだ。

同じチームだった仲間も含めて、この唄書き女との馴れ初めと苦悩は私しか知らない可能性が高かった。勿論報せをくれた彼の友人にも話していない。その友人とは彼の紹介で会ったこともあるが恐らく私の返事を読んで薄情なやつと感じただろう。薄情なのは違いない。それでも唄書き女と顔を合わせる事が怖かったのだ。

彼が何を守り、何に苦しんだのかを完全に理解していない人間が五体満足で帰ってこれる場所ではない。


先日荷物を整理していたら唄書き女の言祝ぎの唄が出てきた。これは私宛に書かれたものだ。はたして彼宛には何と書かれていたのだろうか。正直見つける度に手放したいと思いつつも彼に手を差し伸べられなかった傷跡を隠すようで恥ずかしく、そのままにしている。

確かに彼は最後の助けを求めてこなかったが、同じ世界の住人だからこそ、彼が人を巻き込んで迄助かろうとしなかった事だけは感じるのだ。


少なくとも彼が選んだ死という選択肢が苦しみから解き放たれるものであった事を願いたい。間違いなく最後迄抵抗した上での選択だった筈だから。


<別の親友の話>


<どくのぬまちをあるくのにそんなそうびでだいじょうぶか>

ちょっと真面目な話やネタ的に笑えない内容が放り込まれたマガジンです。他のマガジンはこれとは逆で緩めです(゚∀゚)




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