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ぐん税ニュースレター vol.41 -社会保険労務士の部屋から-

本記事は2024年1月に紙媒体で発行されたニュースレターvol.41の記事をnote読者用に再編集したものです。

あなたにも起こるかもしれない労災

突発的な事故やけが。人からはよく話を聞くけど、もし自分にそういうことが降りかかったら、何をするか、何ができるか。私も先日、初めて通勤時に追突事故に遭いました。幸いなことに車にも傷一つ見当たらなくて警官も困っていたほどの事故ではありましたが、予期しないことだったため、咄嗟に何をしたらいいのかわからず、後になってあれこれ反省しました。
今回は、労災について、よく受ける質問や、気をつけてほしいことをまとめてみました。後で見返せるように保存してくださいね。

1.労災を使うと保険料が上がるって本当?

労災が発生すると、「労災を使うと保険料が上がると聞くので使いたくない」と言う事業主がいます。でも、今まで私の事務所で受けた労災のうち、保険料に影響したのは、わずか1、2件です。労災の発生状況によって保険料が変動するこの「メリット制」の適用の要件の一つに、「労働者数が20人以上であること」があるので、それに満たない規模であれば労災を使うデメリットはありません。また、メリット制の適用になる事業所は、残念ながら労災の給付を受けると保険料率が上がってしまいますが、逆に発生件数を少なく保てれば最大マイナス40%まで保険料率が下がります。業務上の災害は労災を使う、でも回避できる事故を未然に防いで、将来の保険料を下げるための対策を講じましょう。

2.労災の休業補償はいくらくらいもらえるの?

業務上の災害で労務不能となり、休業補償を受ける場合には、給与も支給されません。また、下記のような時系列で手続きが進みますので、例えば1ヶ月間の休業補償を実際に受け取れるのは、早くても給与締日の1か月後くらいになります。特に第1回目は、審査に時間がかかりますので、辛抱が必要です。体調が悪く、何もできずにいて、お金も入ってこないなんて辛いですよね。私たちも労災の手続きは特に迅速に、優先的に行うように心がけています。

さて、ようやく振り込まれた休業補償、その金額はどうやって計算されているのでしょうか。ざっくり言うと被災日前3か月の賃金をその期間の暦日数で割った金額を日額(平均賃金)として、その80%です。所定労働日数ではなく暦日数で割るので日額が低くなりますが、公休日も支給対象としているので1か月間休業した場合には、だいたい給与月額の80%くらいが支給されることになります。また、被災日を含め最初の3日間は、待期期間となるため労災の給付は受けられず、代わりに事業主が休業補償(平均賃金の60%以上)を行うことになっています。前述の通り、給与の日額の方が高くなりますので、労働者が希望すれば有給休暇を充てることも可能です。

3.医療機関で、いつものように健康保険証を出して受診してしまったら?

医療機関により対応が異なりますが、同月内であれば、労災の5号様式を持参することで、精算してもらえることもあります(5号様式を提出する場合は、窓口負担はありません)。もし窓口での精算を断られたら、少々面倒です。健康保険に保険給付の取り下げを依頼し、健康保険が負担していた分を立替払い、そしてそれを労働基準監督署に請求します。その際は、医療機関の証明やら、最初に健康保険で払った時の領収書などが必要です。また、医療機関も、ちょっとしたけがですと、労災かどうかの確認もせず、そのまま健康保険で計算してしまうことも多いようです。受診時には最初から労災であることを伝えましょう。

4.そのほか気をつけてほしいこと

業務中に被災して休業することになったとしたら、あなたは一日も早く回復して職場復帰したい、と思うでしょうか?それとも、大事を取ってゆっくり静養したいと思うでしょうか?例えば整形外科に通うようなけがで、身体は元気でも、負傷した部位の回復を待たなければならないことがあると思います。そんな時にも、定期的に医療機関を受診することを忘れないでください。休業補償を受給するのなら、医師が継続的に経過を見ていることの証明が必要です。
また、労災による休業期間中及びその後30日間は、被災した労働者を解雇することはできません。「もうすっかり回復しているように見えるけど、いつまで休むつもりなんだろう」ともやもやしたり、問題社員の休業が延びているのをきっかけにやめてもらおうか、と思うこともあるでしょう。こういう法律が、私たちのお客様である善良かつ無力な中小事業主をいかに苦しめていることか、と私たちも心を痛めてしまいますが、現行の労働法ではそういった扱いになっています。

新年から春に向けて気持ちは軽くなりますが、安全対策には気を配り、けがや事故のないようお過ごしください。

社会保険労務士 高橋


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