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ぐん税ニュースレター vol.37 page03 -FP通信-

レモン市場と中古自動車


自動車保険

最近、某中古自動車販売店の不正問題が話題になっていますね。自動車の修理費を水増しして過大に請求するという極めて悪質な行為です。みなさんも万が一に備えて各種保険に加入していると思いますが、自動車を利用する人は自賠責以外にも任意の自動車保険に加入していると思います。そして種類も多く複雑な保険を吟味して選び、必要となった時には等級なども気にしながら利用を検討します。
車自体も高額ですが、それに関わる出費の負担も大きいので、これらの保険とあわせて自身の資金管理をしていきます。こうした手間や家計への負担をかけているにもかかわらず、預けた大切な車をわざと傷つけて過大請求するというのは、あってはならない裏切り行為です。

参考純率

実はこの問題は加害者側の店と被害者といった当事者だけの話ではなく、自動車保険に加入している人全員に影響する可能性があります。それは保険会社が料金を設定する際に「参考純率」を目安にするからです。参考純率は損害保険の各社によって組織される損害保険料率算出機構が、会員の各損保会社から支払いデータを集めて毎年算出しています。損保会社はこの参考純率に各社それぞれの経費等をふまえて保険料を設定しています。
つまり保険に加入している契約者の事故や修理が増えれば、当然この参考純率が高くなることになります。修理を行う中古自動車販売店や整備工場が水増しすれば、彼らの懐に入るお金は増えますが、それは参考純率が高くなることに繋がり、巡り巡って保険契約者全員で負担することになるわけです。ただし、保険金の全体の支払額というのは膨大なものですので、今回の一件による影響は少ない、または現時点では不明とされています。それでも水増し請求額は数億円にものぼり、関係のない多くの人達にまで不利益を及ぼす可能性がある行為を堂々としてきたわけですから、企業としてのモラルは問われるべきでしょう。(報道を見る限りでは既にモラルは崩壊していたようにも思えます)

情報の非対称性

彼らの行為は詐欺と変わりませんから、同業者のみならず真面目に働いている人達にとっても許せるものではありません。ですが、一方で自分の店の不正がバレなくてよかった、とホッとしている同業者も少なからずいるのではないかと想像しています。何故なら中古自動車(や修理が必要な車)というのは、こうした不正がおきやすい理由があるからです。
それは「情報の非対称性」の存在です。情報の非対称性というのは売り手と買い手との間に、互いが持っている情報の格差がある状態のことです。専門性の高い商品ほど商品知識の格差が広がるため、この現象が起きやすいです。そして情報の非対称性の例としてよく挙げられるのが中古自動車市場です。
中古自動車は新車とは違い、一見同じ外見の2台があり同じ年式・走行距離でも、実際のコンディションはそれぞれ全く違うケースが多々あります。売り手は当然その情報を持っていますが、買い手は見た目以外の情報をほとんど持っていない状態です。こうなると何が起こるか例で確認します。

A店では状態のいい中古自動車を200万円で販売していました。B店では状態の悪い中古自動車を同じく200万円で売っていたとします。見た目はほとんど同じで、そこでは差がつきません。ここで買い手がどちらで車を買うのか迷った時にA店は状態のいい車なので値下げはできません。ですがB店の車は状態が良くないので売り手は値下げに応じることができるため、買い手はB店で購入することを選びます。そうすると消費者である買い手側(需要サイド)は今後この車種に対してA店のような価格では購入しなくなり、結果的に市場では状態の悪い車ばかりが出回る(売買される)ことになります。このように、本来選ばれるべきである良質な商品が選ばれず、粗悪な商品を選択してしまうことを「逆選択」と言います。そして、この情報の非対称性による中古自動車市場のような現象は、同じく見た目では品質がわからないレモンになぞらえて「レモン市場」と言われています。(アメリカの俗語で「レモン」は質の悪い中古自動車のことを指します)

レモン市場

今回の報道を見て、真っ先にこのレモン市場の現象が頭に浮かびました。レモン市場の説明で使われるのは中古自動車の販売についてですが、車の修理についても同じことが言えると思います。消費者は車の修理を出す際に専門知識がありませんので、どこがどれぐらい壊れていて、部品や工賃にいくらかかるのかは詳しくわかりませんが、修理業者はその情報を持っています。ここに情報の格差がありますので、修理業者が提示した金額に従うほかありません。
車検等の整備代や交換部品においても、こうした経験はみなさんもあるのではないのでしょうか? 営業担当が、泉の女神の金の斧と銀の斧のように「これが新品のフィルターで、こちらがあなたの車のフィルターです」と言ってフィルター交換を迫る、というのはよく聞く話です。(もう古い?)

解決策は?

情報の非対称性が存在するような商材を扱う業者(情報を持っている側)は、それを解消するために誠実な説明と対応に尽くすべきです。これをシグナリングと言います。一方で消費者側(情報を持っていない側)が自分の要望や条件など、複数の選択肢を伝えるなどして情報開示を求めることをスクリーニングと言います。情報の非対称性は保険や金融商品でも存在していますので、こうした解決策も念頭に商品を選びましょう。

マーケティング/FP 原

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