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是枝裕和監督[映画]『ベイビーブローカー』をみて思うこと

是枝監督の作品は大好きです。
「そして父になる」「万引き家族」など、ちょっと一般的でない家族関係の話が多いです。
そして、泣かせにきてることはわかってるんだけど、泣いてしまう。

この作品は、全編韓国語。日本語字幕で見ました。
「パラサイト〜半地下の家族〜」でも有名なソン・ガンホが主演。
2024年5月現在、Amazonプライムで無料で見られるのでおすすめです。

この文章では、一部内容に触れている部分があるので、
映画をまだ見ていない人はネタバレにご注意ください。


「出産」にまつわる疑問が湧き出る

誰が捨てたかったのか? 
誰が育てたかったのか?
誰が売りたかったのか?
そもそも産みたかったのか?
産ませた相手の責任は?
なぜ女性だけが産んだ責任を問われる?
特別養子縁組制度をもっと簡素化して推進すべきではないか?
養子縁組してそれでその子が幸せな人生とは限らないのか?
感情を持たない胎児のうちに堕胎することは本当に正しいのか?

様々な疑問が散りばめられたような作品だった。

赤ちゃんポストにまつわる問題点は多岐にわたる。


悲しい事件

悲しいことではあるが、日本では、時々、こんな事件を耳にする。
若い女性が妊娠しても気づかず、堕胎もできずにトイレで出産し、死体遺棄、逮捕、というような事件。
しかし、例えばもしその女性がレイプによって懐妊していたら?犯罪被害者が逮捕されるという本末転倒な結果もあり得なくはない。
とてもデリケートな事件として慎重に扱ってほしいと思う。


曖昧なのが人間

人間の感情は、一言で言い表すことのできない複雑なものである。
今日生きるために必死かと思えば、
明日は死にたいぐらい落ち込んでいることもある。
人助けをしたいと熱望する時もあれば、
目の前から消えてくれればいいのにと思う瞬間もある。
とかく曖昧なものが人間の感情なのだ。


それぞれの事情

この映画の中で、
たとえば赤ちゃんポストに赤ちゃんを置いた母親は、
産みたい時もあった。
でも育てるわけにはいかない事情もあった。
育てるのが嫌なわけではなかった。
でも自分よりいい親に育ててもらいたい。
お金も頼りになる人もない。
相手との関係性も問題を孕んでいる。

そういう複雑化した感情が彼女の中で渦巻いていた。

ベイビーを売る過程で育児するブローカー男性2人にしても。
可愛いと思うから良い家に里子に出したい。
金も欲しい。
子供は煩わしいが嫌いじゃない。
自分も捨て子だからこの子には幸せになってもらいたい。

一言では言い表せない感情を赤ちゃんに対して持っていた。

複雑な人間たちが作る複雑な社会

複雑にひっ絡まった感情を持った人間という種族が子を作り、
育てて世に送り、
またその子が子を作りという
連綿の営みで人間社会ができている。

登場人物たちは皆、複雑な感情を抱いてはいたが、
彼らが欲しい言葉はただ一つ。

「生まれきてくれてありがとう」

その一言なのである。

それぞれがこの言葉を噛み締める、
このクライマックスシーン、号泣してしまった。

他者に認められる喜び・愛情表現の大切さ

人は自己肯定がないと生きていけないと思う。
時に他者から存在を肯定されることで、どうにか命を繋ぎ止める人もいる。

子供を、ぎゅっと抱きしめてあげること。
恋人・配偶者・家族に愛を伝えること。

(特に我々日本人は)日常で蔑ろになりがちなスキンシップや愛情表現を、もっと大切にすべきなのではないだろうか。

同じようなことを感じた映画として、
呉美保監督の『きみはいい子』があります。
この作品も、苦しいけれど、苦しいからこそ、好きだなあ。


赤ちゃんポストに頼らざるを得ない母親を非難するのは簡単だ。
でもそれ以外にも、根本的に解決するべき問題はたくさんあるのである。


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