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「ていねいな暮らし」に「w」をつけるか〜保護者会と40個のマドレーヌ〜

「ていねいな暮らし」

掃除や料理、洗濯などの生活のあれこれを楽しみながらする「ていねいな暮らし」という言葉をずいぶん前からあちこちで目にする。
手作りパン。環境にやさしい洗剤を使った掃除。家庭菜園。コンポスト。余計なものを排除したミニマルな暮らし。下ごしらえに手間をかけて作る料理。梅仕事やジャム作り。洋服のお直し。編み物などの手芸。DIY。

そういうことをしている人に対して、憧れを持つ人がいる一方、冷笑して見てしまう人がいるのも事実だと思う。
「ていねいな暮らし」にwや笑をつけてしまう人たち。

ほとんどは忙しくて、家事を丁寧にやるなんてとんでもない、ジェットコースターのような子育て・介護などをしている人たちだと思う。
きっと彼らにも、憧れはあるのだろう。しかし環境や状況が許さない。
だから「暇だねw」と冷笑してしまうのだと思う。

私自身は、ていねいな暮らしに憧れてあれこれやってみたクチだ。余暇は有り余っているし。
そして私は、ていねいな暮らしは、やはり精神的な安定をもたらす気がしている。

あるお坊さんの人生相談の話

あるお坊さんに女性が人生相談したという話がある。
女性は気分が落ち込んで何もやる気が出ない。何でもないのに泣いてしまったり、人と話すのも億劫で、引きこもって部屋は荒れていく、というような悩みだったと記憶する。
お坊さんは、「まず、朝起きて寝巻きを畳みなさい」と言った。
女性はちょっと頑張って毎日パジャマを畳む。
それを毎日続けていると、次はベッドをなおそうと思い始める。
それから、ちょっとゴミを捨ててみよう、掃除機をかけてみよう、というふうに生活をきちんとしようとするようになる。
そうして女性は、気づくと精神が安定して活動的になった、ということだった。

部屋の乱れは心の乱れというけれど、精神の安定に掃除や片付けが影響しているのは周知の事実といえるだろう。
ミニマリストになる気はないけど、家にある大量のモノたちがスッキリ整頓されているのを見ると、心まで片付いたような気分になる。

近頃は海外でも無印良品が大人気で、その人気の理由としては、やはりコンセプトとして、シンプルでミニマルであることだろう。
無印良品の店舗に行って、整然と並べられた商品を見ると、自分もこんな家に住みたい、と思ってしまう。

母なりの「ていねいな暮らし」

私の母は、掃除も料理も「ちゃっちゃと」やるのが得意で、とてもていねいな暮らしとは言えなかったと思う。掃除なんか、どちらかというと四角い部屋を丸く掃除するタイプだった。家事と子育てと仕事で忙しかったのだ。
でもケーキなどのお菓子作り、料理は好きで、毎週金曜日のピアノの日は、私と一緒にピアノ教室に通う友達のために、何かしら焼き菓子などを作ってくれていた。

そして、母がPTAの役員になった時、母は参加する保護者たちのために40個のマドレーヌを焼いてママ友たちに配ったのだ。
ちょっと今なら信じられないことをする人だ。当時でももらった人は驚きだったかもしれない。(困惑もあるかもしれない。現代だったら特に)

今思うと、それが彼女なりの渡世術だったのかもしれない。

彼女は、私生児として生まれていて(つまり私の祖母はシングルマザーだった)、祖母は娘の面倒はほとんど見なかったそうだ。
知らない家に預けられ、自分の家というものの実感がなかったという。預けられていない時は、1人で家にいることも多く、自主的に料理を覚えるために、当時小学生ぐらいだった彼女は、魚屋さんに魚の捌き方を教えてもらったという。

きっと母にしてみれば、「見本の母親像」というものがないままに「理想の母親」を目指していたのだと思う。
父も幼い時に母を亡くしているので、我が家は見本とすべき家族像というものが少し不安定だったと思う。
父母の話を聞いていると、その後も立て続けに家族を無くしたり、それを機に上京したり、とても苦しい経験をしている。
でも、家族4人で徹夜麻雀をしたり、笑いに溢れ、全体的には楽しい家庭だったと思う。子育てに自信はなかったのかもしれないが、どんな形であれ、愛情を持って育ててくれていた。

マドレーヌの効果は不明だが、母はママ友からも愛される良きママだった。
母が亡くなったことを同級生や元担任に知らせたら、惜しむ声が次々と聞こえてきた。


私はマドレーヌよりもマフィンをよく作る。

想像力を持つこと

私はもう四十路も半ばになり、子供のいない人生になる可能性が濃厚だ。ママ友なんかとうまくやっていける自信もないし、子供を育てる自信なんて全くない。2歳と3歳の子供を連れて、先に上京していた父を追って新幹線で上京し、東京でどうにか私たちを育てた母の勇気と強さには感服させられる。

そして、やはり私は想像力を持って相手と接したいと思う。
両親が揃っている家族が当たり前ではないこと。
揃っていてもどういった家庭なのかは簡単にはわからないこと。
ていねいな暮らしをしたくてもできない人もいること。

そして、母のようなママ友がいたらいいのにな、と少し寂しく思う。

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