諦めのコロッケ
「マスターってもう何年この仕事してるんだっけ。今までに、なんか、こう、「いったい自分にこの仕事向いてるんだろうか・・」とか、考えたことない?」
「あるよ。もちろん。実は毎日考えてるよ。」
「やっぱり?? そうよね!! 私なんか仕事3つ目だけど、いまだに自分が何やりたいかわかんないもの。で、で、マスター何やりたいの?宇宙作戦隊の隊員?」
「はは。そんな大それたものじゃないよ。ところで随分前にね、ちょっとした疫病みたいなものが流行って、世界中の人が2ヶ月以上表に出ることが出来なかった時があったんだよ。」
「あ、それ聞いたことある。私が生まれた頃の話ね。なんかのウイルスでばたばた倒れていったとか。まるでSF映画みたいね。」
「そう。今は科学が進歩して、もうそんなことはないけどね。それで、当然お店も休業を強いられて、2ヶ月間まるっきり営業できなかったんだ。」
「へえ。で、その2ヶ月間なにしてたの?」
「うん。ひたすら「コロッケ」を作ってたんだよ」。
「コロッケ? コロッケってあの食べ物のコロッケ?」
「そう。そのコロッケ。」
「なんでまたコロッケなの。」
「うん。僕、コロッケが大好きでね。いつか「コロッケ屋」をやってみたいと思ってたんだよ。」
「へえ。それで?」
「ところが、白状するとそれまで一度もコロッケって作ったことがなかったんだ(笑。で、いい機会だから試しに作ることにしたんだ。ひたすら2ヶ月間。」
「へえ、さすが2ヶ月も暇だとそんな事ができるのね。で、どうだったの。コロッケ屋になる決心がついた?」
「うん。「僕にはコロッケ屋は無理」ということがわかった。」
「笑)。じゃ、ダメじゃない。せっかくもらった時間なのに。なんの収穫もなくて。」
「そう? 自分のやりたい事が見つかるのも収穫だけど、自分に出来ないことがわかるのも一つの収穫だよ。」
「うーん。で、消去法で最後に残ったのが自分の本当にやりたい事って話?
でもそんな事やってたら、いったい何回休業しなきゃなんないの?」
「大丈夫。もう他にやってみたいことは一個しか残ってないから。」
「何?それ。」
「蟹クリームコロッケ屋。」
(この物語はフィクションです。)
Lost in Flight / Swum & Chief.
Swum
2019
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