サラダ屋が感じたカスタマーサクセスとは
「サラダのデリバリーサービス」と「カスタマーサクセス」と聞いたとき、どんな関係を創造されるでしょうか?
先日、お客様とのやり取りから、「カスタマーサクセス」について深く腹落ちする出来事がありました。この、これまで生きてきて初めて出会った「成功体験」について、皆様にお届けします。
成功体験のきっかけ
2018年11月某日のお昼頃、お店の控室で事務仕事をしていると、お得意様から着信があった。「あれ、ミスか??」と内心ドキッとしつつ電話を取りました。近々オフィスの大規模な移転に伴って新規に社食がオープンするので、現在のオープンスペースでの(弊社サラダの)ランチ提供が、一旦休止になることが決まったそうなのです。
ところが、スタッフさんから、
「あのランチなくなっちゃうの??」
「サラダ食べたい!!」
といった声が出ているとの嬉しいコメント。
ドキドキしながら続きを聞いてみると、
「サラドさんには新しいオフィスでもサラダを提供して欲しいと思っています〜!」
「一緒に開発してくれたオリジナルサラダの評判も高くて、今後もこういった企画を継続したいと思っています!」
とのこと。
正直、嬉しさのあまり何と言っていいかわからず、
「いや〜、めっちゃ嬉しいです。」
と答えるのが、やっとだった。もう少しかっこいい言葉がないか、電話の最中ずっと気になっていた。でも、後から考えてみると、結果的に一番言いたかった言葉がきちんと出てきてくれたと思えた。だって、
お客様の為になりたい!
お客様との信頼関係を築きたい!
お客様と情緒的な繋がりを持ちたい!
それを実現する為に出来ることは何か?
ということをクルーと必死になって考えて、話し合って、取り組んできた結果が、このような形で出てきた。もうシンプルに感無量だった。
2年前に「サラダのデリバリーサービス」を創業してからずっと、
「お客様に美味しいサラダをしっかりと提供すること」に夢中だった。
とにかく、全く知らない業界、経験したことのない市場、ちょっと前まで全く興味がなかったサービスに身を投じて、五里霧中状態で素人が手探りで取り組んでいたこともあって余裕が無かった。
基本的なサービスをしっかりと提供するというレベルを達成するのにフルスロットルで挑んでいた。
したがって、恥ずかしながら、他のことに気を配る余裕は微塵も無かった…
挫折と後悔と逡巡
2018年の晩夏だったろうか、お客様とのお付き合いが始まってから1年が経つ頃から、悔しくも数社との契約終了を立て続けに通告された。心のどこかでは、十分なサポート、積極的な提案が出来ていないことは感じていただけに、当然といえば当然の結果だった。駆け出しの事業にお付き合いいただいたお客様には、申し訳ない気持ちで一杯だった。もっとしっかりと攻めの提案をしておくべきだったと。後悔先に立たずとはいえ、余裕のなかった自分を責める日々が続いた…
こうして、比較的呑気な性格の私でも少し焦りを感じ始めていたその頃、少し前から始めていた取り組みで、お客様とレシピを共同開発をするものがあったが、その第二弾をやりたいと言うお話を頂いた。以前の日記でもご紹介した「お客様のニーズや課題解決につながる、お客様自身のオリジナルレシピの開発」である。第一弾の取組みが非常に好評だったため、二回目も取り組みたいと仰って頂けたのだ。
大企業のようにの開発部門もなく、何から何まで数名でこなすしかない。新規案件の打診を頂いた際には、せっかくのご提案にもかかわらず困難ばかりが頭を巡った。正直なところ、二回目も成功させる自信はまるでなかった。しかし、そんな私の心配をよそに、状況を打破したのは、第一弾の開発に携わってくれていた弊社クルーの言葉だった。
「最近立て続けにお客様が離れているので、チャンスだと思います。お客様からのご提案いただけるわけですから、お客様の本当のニーズに応えるまたとないチャンスではないでしょうか?」
サラダの種類が増えるほど、オペレーションの複雑性が増え、仕込みの時間、朝の盛り付けに掛かる時間とどんどん膨れ、オーダー管理が難しくなり、スタッフの負担につながっていく。実際に創業当時と比べると現在のオーダー管理と生産管理はものすごい複雑になってきてる。キッチンオペレーションの複雑化に対して神経質になっていた。にもかかわらず、完璧にタスクをこなしてくれるクルー達に申し訳なく、焦る気持ちばかりが先行していた。
彼の言葉で、私はレンガのブロックで頭を打たれたような気分だった。お客様のため、と頭ではわかりながら、心の底では自分たちの価値観を優先していたことに気が付いた。契約終了の悔しさを放置していたばかりか、挽回する折角のチャンスまで無駄にしてしまうところだった。
不安材料だったオペレーションに対して、クルーが負担を厭わないのであれば、その気概には報いなければ、事業をやっている意味がない。不安や後悔を感じるなら、その原因を解消するためのアクションを起こせばいいただけのことだ。悩んでる場合じゃない。時間の無駄だ。この頃から、何か新たな感覚が体に宿ってきた。
早速お客様へのヒアリングに向かい、課題やニーズの抽出を行なった。
お客様が日々何に悩んでいるのか、何に困っているのか、何を課題として捉えているのかをお聞き出来るのは非常に貴重な機会だった。そこはまさにネタの宝庫だった。僕らがすべき事は全てそこにあったのだ。僕がサラダのデリバリーを始めたきっかけである、
"オフィスワーカーの役に立つ"
という目的がまた一段とクリアに感じられてきた。
そうなると、展開はどんどん速さを増していった。ヒアリングをもとに、問題点の洗い出し、レシピを組み上げながら、材料や調理のオペレーションも視野に入れる。お客様の生活レベルでのイメージを、食材、味、見た目、さらには、食感という私たちの専門領域の表現に落とし込んでいく。それでも、お客様に提供できる問題解決として甘いと判断したときには最初からやり直した。永遠に終わらないかに感じられることさえあったが、生野菜のプロである私たちにしかできない作業だ。そして何より、もうあんなに悔しい思いはしたくない…
そんな開発の日々も、あっという間に一ヶ月が過ぎ、試食会の日がやってきた。自分たちで考え出した食べ物をお客様に目の前で召し上がっていただく際の緊張感は想像を絶する。表情や言動を見ていれば、お気に召したかどうかが直ぐに分かる。美味しさや感動を繕うのは出来ず、わかりやすく本音が出る。調理サービスにおける最大の醍醐味でもある。
キッチンから運び、お客様の手元に並べたサラダを、お客様が口に運ぶ。何とも言えない感嘆の声、驚きの表情、笑顔、、、大好評の結果だった。食べ応え、味、見た目等々、いずれにおいても、満足のいく評価をいただけた。ここまでやってきた、失敗、後悔、努力、不安、すべてが報われた瞬間だった。クルーたちとも大喜びした。
今回得ることが出来た重要な学び
今回の件で「お客様」と「クルー」に教えて頂いた重要なポイントは、
「先を見越した積極的な提案」である。
Apple社で最も感銘を受けた体験は、何をおいてもiPadのローンチだった。彼らの開発手順は、一般的なものと全く異なっていた。つまり、顧客アンケート、結果の分析、商品開発、、、ではなく、「顧客が認識していない潜在的なニーズを想像する」「それを開発する」と言う手順だった。
つまり、当時は誰もiPadが必要だと認識していなかったのだ。顧客さえ気付いていない潜在的なニーズを探り当て、「ほら、持ち運びが出来て、こんなサイズで、画面を触りながら使える、こんなもの欲しいでしょ?」と提案するのがスティーブ・ジョブズのスタイルだった。
今回の件で、僕は彼のスタイルの強さを痛感した。僕がお客様にすべきものは、お客様が明確に認識できていないが本当は求めているサービスの提供なのである。これを想像して、先回りして用意して、提供できて、初めてお客様を問題解決のステージにお連れすることができるのだ。
極論を言うと、B2B市場でサラダ屋が美味しいサラダを提供することは対価を頂戴する最低限の義務だ。これだけをやっていたのだとしたら自分達の存在価値はない。
僕が今やらないといけないのは以下だと考えている:
「顧客のゴール設定」
「ゴールに到達するのに必要な取り組み」
「その支援の提供」
BOXILさんによるとカスタマーサクセスとは「顧客を成功に導くことが目的となるため、アクション起点は顧客ではなくサービス提供側であり能動的です。」と言う事だ。(参照:https://boxil.jp/mag/a4314/#4314-2)B2B市場を主戦場として捉えてるのであれば、オフィスワーカーないし企業にゴールを提案して、そこに導く必要がある。
まとめ
上記を見据えて福利厚生を投資として捉えてくださいと大見得を切っている以上、 「顧客のゴール」を考えないといけません。つまり、サラダ屋でもカスタマーサクセスを考えます。三期目にしてようやくたどり着いた一つの答えだと考えています。僕にこんな成功体験を下さったお客様、学びをくれたクルーに改めて感謝を申し上げつつ、今後は能動的かつ、意義のある取り組みを持って感謝の意を示してまいります。
サポートありがとうございます。新しいレシピ探しに出てきます。