情報メディア学科からほぼ自動車工学科に転属してわかったこと

情報学部情報メディア学科で研究をしていましたが,元自動車工学科の先生のところへ所属が変わりました.1年前ぐらいの話です.

博士課程4年目なんですが,楽器の研究をより深くやってみたくなったので元自動車工学科(現情報メディア学科)の先生のもとでご指導ご鞭撻を賜ることになりました.

先生は制御工学が専門で,量子力学や電磁気学に詳しいことから原子炉の設計などを行っていました.某有名な原子炉の設計者がこの大学にいるとは思わないわけですが,どういうわけかピアノが好きなのでピアノの研究を自動車工学科でやっていましたが,研究予算の割り振りに融通が利かないということで情報メディア学科へ移籍しました.

今までやっていたこと

フーリエ変換した結果から目的の周波数ピークを見つけるためのアルゴリズムを研究していました.基本的に過去のアルゴリズムと比較したとき,どれだけ速くなったのかを評価していました.

それまで所属していた研究室では基本的に情報学部らしい研究です.仮に工学と被る部分があったとしても,アルゴリズムの力で解いていました.

移籍してから変わったこと

移籍してから変わったこととして,そもそも個人の研究がないということです.情報学部であればアプリケーションを作ってアンケートを取り,システムの優位性を示すことがセオリーです.従って,基本的にはチームで動くということはありません.

移籍したあとの研究室では,かなりの時間をチームプレイに割きました.全体で6チーム動いていて,そのうちの4チームの面倒を見ています.

1チームあたり平均して2~3人ぐらいですが,1人だけ頑張るというよりも,1人でもサボると仕事量が偏って研究手伝って状態になります.基本的に手伝ってと言われればみんな来るので,情報系の研究は自宅でもできるということがありません.

また,研究の内容は工学なので既存の手法と比較するより,実際に実験して実験した比較をもとに結果を示します.そのため,既存の手法との比較ということがないです.実験値が理論値通りになっているか,違うのなら何が違うのかを示します.

情報系の研究だと既存手法との比較が多いのですが,工学系だと理論値通りになっているかどうかを比較します.比較した結果,理論値通りになっていれば理論は実施した研究の側面において正しいと言えます.

工学系に移ってわかったことは,領域によってセオリーが違うということです.最初は情報系のセオリーに従って学生に指導していましたが,それは違うと諭され,何が違うのか対話を重ねるうちに研究成果として何が相応しいのかわかるようになってきました.

研究室で変えられたこと

情報学部は基本的に制作に近い研究を行うこともあり,ほぼスタンドプレイを前提とした研究が多いです.学生同士の共同研究は認められず,共同研究でも個々の研究に分割しなければなりません.

また,情報学部の研究は家でもできることが多いので大学へ来ない人が多いです.工学系はモノを実際に使った実験が多いため,研究室に来なければあっという間に研究が捗らなくて詰みます.

誰が言ってるのかわかりませんが,情報学部の卒研はちょろいと様々なところから感想を貰ってます.基本的に遅くても11月スタート,12月に着手してもまだ間に合うというのが例年の流れになって,OBが何かしら後輩に教えているから手に負えません.

工学系になると実験装置を作ったり,手順を理解するなどに余裕で1ヶ月ほど投入します.それを12月からやったとなると,情報学部的にサンプルプログラムを動かしただけ,という状況が簡単に発生します.

一昨年が特に酷かったのですが,頑張ってもそのレベルにしか到達できません.どれだけ頑張ってもチームの動きが悪いと,一番働いた人の内容を働いてない人にすげ替えざるを得ません.結果としてどれだけ頑張った人でも質の低い卒研になり,逆に相対的に質を上げたとしても内容を理解していないので結果として質の低い卒研になります.

だいたいどのような状況に置かれていたのか理解していたので,まずは研究室の状況を改善するところから着手しました.ただ,私も研究の流れを当時は理解していなかったので,とりあえず学生を巻き込んでモチベーションを上げさせるところからはじめました.

結果として,世話をしている1チームは4月からコンスタンスに研究をし,世話をしていない1チームも自然と研究室に来るようになっていました.また,夏休み明けの10月から着手するチームも増えました.

一昨年はゼミに来るかどうかすらわからない状況だったのが,ほぼ確実にゼミに来るだけでなく,平日3~4日程度は少なくとも研究室に来て実験や準備などを行える状況になりました.とは言うものの,10月スタートはかなり遅く,1月の今でも遅れているチームが目立っています.

しかしながら,遅れているとは言え,研究のハードルが高くなった分だけ遅れている状況です.さすがに自動車工学科と同じレベルとは言えませんが,ほぼ近い状況まで引き上げることができました.これにより,研究の質そのものの改善ができるようになりました.

問題になったこと

ほぼ中間管理職の状態だったのですが,研究室をリードする上で工学系の研究を理解していないことがネックとなる場面が多々ありました.これは正直,私自身の経験不足からの失敗になるのですが,先生が軌道修正することで学生のモチベーションを一時的に下げるようなことがありました.

学生はあれやれこれやれと言われるうち,矛盾した指示を出されると不信感が出て誰の指示に従えばいいのかという話になります.結果として成果は出せているのですが,一時的に何を言っているのかわからないので先生のペースに合わせるなどで時間を無駄にしてしまうこともありました.

また,先生の特性も理解していませんでした.先生はいわゆる直前になると大変やる気を出す先生なので,それまでの進行を私が補佐しないと締切のギリギリまで動かないことがよくありました.卒論を書く段階の今でもまだこれができるのではないか,というオーダーを受けています.

私は割とコンスタンスに動いて,コンスタンスに間に合わせることをやっていましたが,論文の提出期限前日とかにこれを書けるのではないか,というオーダーを頂いたことがあります.結果として,制御工学が不勉強だったこともあって先生が発表者全員分の論文を書き直す,という手間が発生しました.

研究の質を高めるためにギリギリまで粘るという思想がなかったため,期限ギリギリになってガンガン仕事が降ってくる状況になりました.コンスタンスではなくもっと先に手を打っておけばギリギリになって追加するという事態は避けられたように思えます.

これらの問題を解決するにあたって,先生のペースや研究方針とは何なのか対話を重ねて先生の指示がなくともこちらで指示を出せるようにしておく必要がありました.

今後の課題

先生のペースが急に上がるということは,仕事の量が増えて学生が挫折しまうということです.情報学部生のみなさんは先生から言われたことをガンガンやろうという方針だとすぐに逃げ出してしまうほど豆腐メンタルです.

というのも,そもそも情報メディア学科に入学した理由のほとんどが自分のやりたい制作ができることで,こんな地味な装置を使って地味な結果を見て盛り上がれるようなメンタルが養われていません.学生にとっては卒業研究はスマブラやスプラのできない盛大な時間の無駄という認識を持たれている前提に立たなければなりません.

では,どうやって自分の研究に意義を見出して貰えるかと言うと,これは最初にやりたいことを引き出して研究内容をこちらから提案し,学生の自主性を出してあげることが重要です.そのためには,先生の研究方針と中間管理職の提案が一致している必要があります.

これは昨年ある程度はうまくできましたが,先生の研究方針とこちら側からの提案が一致していないことがたまにありました.これでは研究の企画段階で右往左往する羽目になります.

しかし,学生の自主性を重んじていると,どうしてもやる気が上がるまで時間がかかります.やってるうちにやる気が上がるものですが,最初こそはやる時間そのものも短いです.

これを解決するのに,とりあえず前期は工学実習ということにして,直近の解決する課題をいくつか提案し,後期から自主的な研究にシフトする方向性が最もモチベーションを上げやすいのではないかと考えています.

どのみち,地味な実験をやる意味ってあるかどうかは,工学を知らないとわからないことが多いので,実際にまずは手を動かしてもらって結果を出すところからスタートすれば,研究室に居なければ成果がでないので自然と学生も集まるのではないかと考えるわけです.

学生同士の交流が盛んになれば,遠方から来る学生も大学へ来て作業したくなります.作業したくない環境で作業するのはとてもつらいことです.少なくとも往復で3時間以上使っている人たちにとって卒研は盛大な時間の無駄遣いになります.

そうならないためにも,研究室の環境づくりは手を抜けません.ましてや,私も手伝っている部分があるのですから私の研究成果がなくなってしまいます.私の卒研(博論)だと言って,私が卒研生の仕事を取り上げることもできますが,結果的に卒研生の成果として発表することになることは見えているのでやる意味がありません.

私の研究室の成果とは,卒研生に質の高い研究をやってもらうだけでなく,結果としてそれを手伝う中で私の研究として発表しなければならない部分もあるということです.工学系の研究は一人でやって成果を出せるほど甘くはありません.作業量を考えるとチームで動いたほうが効率的です.

(情報系の研究だと)卒研生の発表を博士がやったらクレームの一つはありそうですが,博士は卒研生の研究をアップグレードして発表するものです.卒研生の仕事を博士がやってしまうと卒研レベルのことしかできないので,いかに卒研生に仕事をさせて博士の私がアップグレードできる余地を残すかというところは私の成果に関わってきます.

そのあたりをうまく配分しないと私の卒業がキツいです.なので私は中間管理職に徹しつつ,あるところで研究をアップグレードします.実験とかは腰を痛めるから重いものとか同じ姿勢はつらい…….

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