見出し画像

大学で外国語を7言語履修した人間がおすすめの第二外国語を語る

 あなたは第二外国語を履修しているだろうか。もしかしたらまだ高3の方もいるかもしれない。だとしたらラッキーである。今回この記事を読めばこんなはずじゃなかった、と思うことがなくなるだろう。

 高校生や大学に通ったことのない人向けに、大学の第二外国語システムについて説明する。知っている方は読み飛ばしてもらって構わない。第二外国語はほとんどの大学で必須となっている一般教養科目の一つである(大学には専門科目だけではなく体育や外国語のような他学科と共通する授業も履修する必要がある)。
  大学にもよるが、入学してから最初の二年間で外国語の単位を取り切ることが一般的である(大学は真面目に出席し、テストで及第点を取ることで単位というものが得られる、これを4年間に一定数取得することで卒業できる)。
 外国語の授業は基本的に〇〇語Ⅰ、〇〇語Ⅱ、〇〇語Ⅲ、〇〇語Ⅳのような表記になっている。私の大学では、ⅠとⅡを一年次、ⅢとⅣを二年次に取得するのが最短だった。なぜ同じ年に同じ外国語の授業が2つあるのか気になった方もいると思う。それは、ⅠとⅢは文法メインでⅡとⅣは会話、コミュニケーション、リスニングの類だからである。高校で言うところの英語表現(文法)、コミュニケーション英語(読解、リスニング)みたいなものであろうか。
  私の大学だけかもしれないが、第二外国語はなぜか単位が通年で2単位しかもらえないというコスパ最悪の授業である。普通は通年なら4単位もらえる。語学オタクを目指さない限り、7言語取るような履修スタイルは※絶対にマネしてはいけない。

 早速だが、私が大学の4年間で履修した言語は英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、イタリア語、ラテン語、中国語、韓国語である。
 今回はこれら7言語の難易度、おすすめ度、実用度を批評し、第二外国語や趣味の語学学習に役立てていただこうと思う。
  ちなみに、難易度表記は英検2級程度の語学力があることを前提とする。(星は黒が度数を示す数字である。)

英語
おすすめ度:★★☆☆☆

難易度:☆☆☆☆☆
実用度:★★★★★
 
英語自体がカリキュラムに導入されている大学は珍しくないが、第二外国語として認定を受けられる大学は珍しいのではないだろうか。もし、第二外国語として認定されるのであれば一般教養の外国語はかなりのヌルゲーと化す。
 というのも、既に自分たちはある程度の英語力を身につけた上で大学に入学しているわけで、外国語学科でない人のための英語を受けるということは必然的に難易度が下がるからである。
 しかし、せっかく第二外国語が学べる環境にありながら英語を選択するのは少々コンサバティブな気がするのでおすすめ度は2。ただ、物足りない人向けに大体の大学では全てが英語で行われる英語の授業も開講されているので自身のある方はそういった授業にチャレンジしてみてはどうだろうか。

ドイツ語
おすすめ度:★★★★★

難易度:★★☆☆☆
実用度:★★★☆☆
 
ドイツ語は、第二外国語としては一般的でほぼ全ての大学で受講できる。
 昔は、後述するフランス語と第二外国語界の双璧をなす存在であった。ドイツ語は英語と同じゲルマン語派のため、構造や単語がとても似ている。未経験者にとっては序盤の暗記が多少きついのだが、文法も英語、だけでなくなんと日本語にも似ているため日本人が第二外国語として勉強するために生まれてきたような言語である。
 具体例を挙げよう。ドイツ語の短い文はSVOである。I learn English.という英文があるならば、これはIch lerne Englisch.という独文になり、対応している。しかし、これがHe has studied physics in Heidelberg last year.という英文になると、Er hat letztes Jahr in Heidelberg Physik studiert.(英語に対応させるとHe has last year in Heidelberg physics studied.)という独文になり、一致しない。しかし、よく考えてみて欲しい。ドイツ語は前述のように助動詞が現れると一般動詞が最後に来る性質がある。この構造、なんとなく日本語に似ていないだろうか?さらに全文を翻訳してみると、「彼は去年ハイデルベルクで物理学を学んだ。」という文になる。なんと、長い文は語順が日本語と同じになった(助動詞は主語の直後に来てしまっているが)。というのも、ドイツ語の根本的な文型構造はSOVであり日本語と同じだからである。
 このように、ドイツ語は英語にも日本語にも近い性質を持っていて難易度もちょうど良く、学びやすいためおすすめである。しかし、あまり実生活でドイツ語が必要になる機会は訪れなかった。とはいえ、アニメや漫画を見ていると他言語に比べてドイツ語が用いられる割合は多いため、実用度は3である。

フランス語
おすすめ度:★★★★☆

難易度:★★★☆☆
実用度:★★★★☆
 フランス語の発音は難しい、と聞いたことがあるかもしれない。それは本当である。そして、リスニングも難しい。なぜならフランス語はひたすら発音を楽しようとするからである。例えば英語のchocolateはチャクレートゥと発音するが、フランス語のchocolatはショコラと発音する。chがシュと読むのは決まりだからと推測できるにしても最後のtはどこ行った。このように発音で楽するための特殊ルールがいくつか存在するために、慣れないうちは文をすらすら読んだり聞き取ることが非常に難しい。発音においてはrの音がドイツ語と共通していて、喉びこを震わせて出す。フランス語のほうが息を通す割合が多いのでハヒフヘホに近い音で聞こえる。
  ちなみに、フランス語はドイツ語とは異なりイタリック語派というグループに属する。これは、スペイン語、イタリア語、ラテン語と同じグループのため、フランス語をある程度のレベルまで習得すると他のイタリック語派言語が非常に学びやすくなる。他のイタリック語派に手を出したい人には特におすすめである。フランス語はかなり日常的に店の名前やブランドの名前になっているため、実用度が高い。ブランド名がフランス語で読めなくて困った経験などないだろうか?Louis VuittonやCHANELのような有名ブランドはフランス語であることが多いため、お洒落に興味のある方は学ぶと良い。ただし、パリは思ったより小汚く、パリ人はそこまでお洒落をしないと言うのが実体験に基づいて言えるので、あまり夢は見過ぎないことである。

スペイン語
おすすめ度:★★★★☆

難易度:★★★☆☆
実用度:★★★★★
 様々な国で話される、という点においては英語の次に多いのがスペイン語である。特に、中南米でよく話されるため、実用度を高めたい人は中南米タイプの学習をすると良いだろう。発音だと、スペインのスペイン語はさしすせそ(za,ci,zu,ce,zo)を英語のthの音で発音するが中南米のスペイン語だと普通に日本語のさしすせそで発音する。また、単語もスペインで「車」を言うときはcocheだが中南米ではcarroと言うように使う単語が異なる場合がある。ターゲットをどちらにするか決めて学ばないと京都弁と静岡弁が混ざった人みたいになるので注意。発音やリスニングがしやすく第二外国語としてはおすすめ。ただし、しっかり掘り下げていくとイタリック語派でありがちなつまづきポイントの「時制」が厳しくなるので、そこは踏ん張るしかない。アメリカ人はヒスパニックが流入する影響からスペイン語を学ぶ人が多い。話者数の多さにポテンシャルを感じるため実用度は5。

イタリア語
おすすめ度:★★☆☆☆

難易度:★★★☆☆
実用度:★☆☆☆☆
 イタリア語は完全に趣味の言語である。話者数も多くはない。ドイツ語はまだスイスやオーストリアで使われるが、イタリア語はイタリアでしか話されない。音楽学徒には良いのではないだろうか。楽語は基本イタリア語であるし、イタリア歌曲集を歌う場合などは実際に自分で読解できるためとても面白い。スペイン語学習者が趣味で触るのも良い。スペイン語のagua(水)はイタリア語ではacquaであるし、スペイン語のsecretario(秘書)はイタリア語ならsegretarioである。数字もほぼ同じで、スペイン語はuno, dos, tres, cuatro, cinco, seis, siete, ocho, nueve, diezで、イタリア語はuno, due, tre, quattro, cinque, sei, sette, otto, nove, dieciとなる。しかし、どちらかを正確に暗記していないと混ざるため、同時学習は諸刃の剣である。実用度は低いがイタリア旅行をするときは大体南北の都市間を1週間ほどかけて周る長期のツアーが多いため話せるとかなり充実する。

ラテン語
おすすめ度:☆☆☆☆☆

難易度:★★★★★
実用度:☆☆☆☆☆
 イタリア語の仲間である。はずなのに、かなり違う。単語はなんとなく共通しているが文法が細かく違う。定冠詞、不定冠詞がなかったり、馴染みのある1格〜4格(〜が、〜の、〜に、〜を)に加えて奪格(〜から)という新たな概念が現れ、活用(今更だが、ヨーロッパの言語は名詞の状態に応じて単語の形を変える。ドイツ語の場合は冠詞を変化させる)の苦しさに苛まれていく。ただ、ラテン語はかつてメジャーだったこともあり、歴史的な遺産に触れるときに一応使う機会はある。また、私はモーツァルトのレクイエムを合唱する機会があったため意味が分かるようになったのは嬉しかった。
 しかし、主体的にアプローチしなければ実生活で使う事は本当にないので実用度は0。

中国語
おすすめ度:★★★★★

難易度:★★★☆☆
実用度:★★★★★
 日本人は非常に有利に学習できる言語である。文字を覚えるという過程が言語学習においてはかなりのハードルで、特に漢字という字体は30種類程度の文字を組み替えて使っているヨーロッパ人からすれば、果てしない。しかし、私たち日本人は既にネイティブとして生きるために漢字を生まれた時から学習している。故に、極端に敷居が下がる。もちろん漢字を判別できるからといって中国語は終わりではないが、有利であることに間違いない。
  文字に関しては簡体字という漢字の画数を減らすべく考案された文字を使うため、普通に分からない文字が存在する。乐→楽、远→遠など。
 中国語は言語学的には孤立語というジャンルに分類される。これは語順に対して非常にシビアなウェイトがかかっており、長い文で語順を間違える事は許されない。よくエアプの人が中国語の文型は英語と同じだから簡単だ、と言っているが実際には分類上そうなっているだけで本当に意味の伝わる文を書こうとすると漢文の授業で覚えたようなイディオムを大量に暗記する必要がある。決して簡単だとは言い切れない。
  発音はどうだろうか。中国語は四声(しせい)というイントネーションがあり同じ「マー」でもイントネーションが変わると意味が4つに分岐する。これもエアプの人は四声のせいでリスニングが難しい、というようなことを言うが、むしろ聞き取りやすい。1文字単位で判別しているわけではないので、逆にイントネーションが聞き取りの助けをしてくれる。想像以上に中国語は日本に溢れていて中国人と関わる機会も多く、ビジネスとしても将来性があるため実用性は5である。ちなみに、高校生の頃は、「中国人留学生は漢文めっちゃ楽だろうな〜」と思って眺めていたが現代の中国語とはまるで違う。楽してるとか思って申し訳ありませんでした。

韓国語
おすすめ度:★★★★☆

難易度:★★★☆☆
実用度:★★★★☆
 実用度などは正直迷った。日本から見ると韓国が身近すぎるため、世界的にマイナーな言語であっても日本にとっては関わりが深いからである。
  韓国語は日本語に仕組みがよく似ていて単語も共通しているものがある。しかし、簡単かと言われるとそれも違う。まず、文字を覚えるという敷居があってこれがまあまあ大変である。厄介なのはパッチムの概念で一音に子音を2個詰め込むというシステムがあり、リスニングを難しくしている原因である。例えば食べるという単語は「먹다」と言うが見ての通り2文字である。発音はモクタである。3文字じゃね?と思っただろうが、このクを限りなく存在感を薄めて発音する。文字にするとモㇰタという感じである。パッチムのせいで発音のルールが増え신용(信用)などはシンヨンではなくシニョンと読まなければならない(連音化)。これで終わりではない。韓国語は敬語の概念があり、これらの変化を覚えなければならない。先程の食べるという単語を敬語化すると、硬い敬語(日本語の〇〇でございますレベル)では먹습니다(モクスムニダ)、柔らかい敬語(日本語の〇〇ですレベル)では먹어요モゴヨとなり、パッチムがあるかどうかで敬語の作り方も変わってくる。
 そして発音が日本語と同じく平板なため、アクセントやイントネーションによる聞き取りのヒントが少なく、リスニングが難しい。
 だが、K-POPや韓流ドラマが身近にあるため分かるようになるととても楽しい。特に、日本は韓国との文化交流において他国を凌駕するものの、政府間の関係は依然として険悪である。在日韓国人に関する問題も消えたわけではないので、そういった両国の関係を取り持てる人間が増えることを祈る。
 ちなみに、日本語にもパッチムの概念が実はある。「筋肉」という単語はキンニク、と4文字であるが実際に発音されるときはキンニㇰ、と2音節で発音されていることにお気付きだろうか。外国語を学ぶことで自分たちの使う言語がどういうものなのか見えることもある。

番外編
日本語(欧米から見た視点)
おすすめ度:★☆☆☆☆

難易度:★★★★★★★★★★★★★★★
実用度:★★☆☆☆
 
キツい。文字種はひらがな 、カタカナ、漢字の三種類もあって漢字に至っては途方がない。言語学的には屈折語に属するヨーロッパ言語に対して膠着語の日本語は手数が増えて大変。I play tennis.は私 遊ぶ テニス。でよかったのに(I, my, me, mineなどの格があるからできる)、日本語だと私「は」テニス「を」遊ぶ。という風に方向性を表す助詞をいちいち付けないといけない。
  また、助動詞を使うときは本動詞と合成しなければならない。Let's fly!(飛ぶ+〜しよう)は飛ぼう、であり飛ぶしようとは言えないのである。
 しかし、アニメや漫画などのサブカルチャーに関して、日本は幅広く文化を発信し続けている。そういったものを掘り下げたい人は日本語を学ぶことをお勧めする。

まとめ
 総評すると、実用性を目指すならドイツ語、フランス語、スペイン語、中国語、の中からニーズに合ったものを選ぶと良い。だからと言って、それ以外の言語が役に立たないと言う事は全くもってない。自分の深く知りたいコンテンツがあるなら、話者数の少ない言語を学ぶことは非常に有意義である。この記事が少しでも外国語学習の参考になることを祈る。

余談
 よく、10ヶ国語喋れます!みたいな人で全部ヨーロッパ言語の人がいるがあれはある種のズルである。日本人が津軽弁や鹿児島弁を学ぶくらいの難易度なので(もちろん簡単とは言わないが)、一般人が思うほど難しくはない。モンゴル語、スワヒリ語、ヘブライ語、ヒンディー語のように文字や仕組み自体が異なる言語にかかる労力に比べれば7割くらいは楽できる。
 改めて考えると、日本語は表現力豊かなすごい言語であると思う。中高生の頃はアメリカ人に生まれなかったことをひどく後悔したが、アメリカ人が日本語を学習するのに比べれば日本人が英語を学習する難易度ははるかに簡単だ。確かに、日本人にとって英語学習が壁である事は間違いない。しかし、自分が外国人だったら到底学ばなかったであろう敷居の高い言語を母語に持った事はちょっとでも誇りに思って良いのではないだろうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?