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いつもダイアリーは時をかける

同志Aからのお題:日記


「シナリオ」の返礼が「日記」だった、という話でござる。

中学1年で同じクラスになり、穏健派同志で仲良くなった中にE君がいた。都会出身で、長身で切れ長のシュッとしたナイスなボーイ。私と違ってスポーツも得意だった。

彼は地元に戻ったが、手紙のやりとりが始まった。新聞形式だったり、角川映画のチラシのパロディだったり、工夫を凝らして、ハガキや便箋にびっしり細かな字で、お互いの近況やおすすめの本・映画のことなどを書き綴った。合言葉は「狂乱」!

「盗んだバイクで走り出す」わけでも「夜の校舎 窓ガラス壊してまわった」りするわけでもないが、穏健派なりにヤングなエネルギーがあふれていたのだろう。

1984年のこと。E君からの手紙には、角川文庫の「シナリオ 時をかける少女」(原作:筒井康隆、脚本:剣持亘)を探しているが、全然見当たらない、とあった。大の原田知世ファンで映画「時をかける少女」の公開から1年経った後も、熱心に関連本を探し続ける彼の力になりたいと思ったが、紀伊国屋書店など擁するメトロポリスにない本が、田舎のわが県にあるだろうか…。

街の主要な書店を巡ったが、かすりもしない。しかし、灯台下暗し。通っていた塾の近く、飲み屋街の小さな書店に、ひっそりたたずんでいたのだ。知世さま、お迎えに上がりましたぞ! さあ、心の友よ、受け取られたし。彼の手元に届いた時の喜びようと言ったら、もう。

後日、お礼の1冊が送られてきた。朝日ソノラマの「藤子不二雄SF短編集 創世日記」だ。サラリーマン風の男から円盤型の「天地創造システム」を預かり、観察日記を書くことになる中学生が主人公の「創世日記」をはじめ、藤子F先生の6作品を収録している。私が藤子ファンと知っての粋なプレゼントに、狂喜乱舞したのは言うまでもない。

コミックスの見返しには、E君が「創世日記」を購入した店のレシートが貼ってある。街の本屋がどんどん姿を消す中で、37年後の今、果たしてこの店は生き残っているのだろうか…と思って検索すると、よかった! 無事なり! 駅前でもないのに奇跡的だ。

私が「シナリオ 時をかける少女」を買った書店も健在だ。家族でシフトを回しているという。

E君との文通は高校まで続いた。元気かな。かつての中学生が初老になった今、久々に「狂乱」を語り合いたいと願っている。


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