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新刊『詩集 人工島の眠り』と文学フリマ京都7のご案内

文学フリマ京都7の新刊には歌集を出すつもりで、俳句・短歌・川柳のカテゴリで申し込んでいたのですが、7年ぶりに詩が書けたので、今回は詩集になりました。

この記事の前半は自分の覚書として事の次第を記録しています。詩集の冒頭を飾る、7年ぶりの最初に書けた詩(「球根」)を後半に引用していますので、そちらだけでもご覧いただけますと幸いです。

事の次第

思い返せば2022年9月、Twitterでフォローしていた竹中郁botが手動で、とある展覧会をリツイートしていたことに遡る。
そのときはただ展覧会のポスターが目に入っただけだったのだが、たまたま用があって神戸を歩いていたときに、街でそのポスターを見てあっと思った。会期を見ると、ちょうどその前日に開催されたばかりだった。15時を回っていたので、会場の小磯記念美術館への移動時間を考えて後日改めようかと思ったが、えいやっとその足で来館したのが運命だった。2022年の秋は竹中郁の詩に染められることになる。
その日観たことを文芸好きに話してまわり、その詩人と画家を知らない人には語って聞かせた。記念講演会に申込み、一度は落選したがキャンセル待ちで当選した。六甲ライナーに乗って、海を跨いで人工島に渡るのに心躍った。

六甲ライナーにて
六甲ライナーより
人工島
人工島の夜

もうひとつ、十月の半ばに詩人の友人たちによる展示(「C.U.P.同盟展」)があったこと、それが文芸同人誌しんきろうの仲間だったことも何か作用したのかもしれない。何日後かに、三篇ほど一気に書けた。本当は2023年の新刊は歌集になるはずだったのだが、詩を書き始めると三十一文字では足りなくなってしまった。言葉に次々と”リトム”を感じた。こういうのは本当に久しぶりだった。

この数年間、詩界隈とは距離を置いていたけれど、ここにきてようやく自分の詩を愛せると確信し、新刊は詩集にすることに決めた。タイトルを考えるとき、所収する予定の詩「人工島」からイメージを取った。この数か月六甲アイランドに通ったことが決定的だったのだから、そこから題をつけるのが順当な気がしたのだが、調べてみると同じ題の歌集がすでにあったため、悩ましかった。後期展示替えのための三回目の来館は、展示の最終日。仕事が忙しすぎて詩の校正が捗らず、この日を迎えるまで詩集としてのイメージが希薄だったが、阪急電車の中で赤書きをして、展示を見たあとの気持ちでもう一度校正することにした。展示自体は三回目なので、ゆっくり観られていなかった映像展示、竹中郁が留学先で影響を受けたというマン・レイの『ひとで』を二周観たあと、展示場を出て廊下のベンチで一篇書き足した(詩「眠り」)。前日までに、詩集の構成として「陸」「宙」「海」の部立てがあったのだが、この作品はどこにも該当しなかったため、蛇足かも……と悩みながら最後に「夢」の部を立て、詩集の題を『人工島の眠り』で決定した。良い詩集になると、この時ようやく確信できた気がする。その感覚を大切に、入稿日まで(本業のほうに吐きそうになりながら)校正を重ねた。

「竹中郁と小磯良平 詩人と画家の回想録」
ミュージアムカフェにて。注文を待つあいだに校正していました

表紙を作る頃には朦朧としていたので、巻頭カラーの本扉をつくるほうに時間がかかっていて呆れた。少し悩んだけれど、表紙は無機質なイメージで進めることにした。入稿日は低気圧で体が動かないという受難ぶりだったが、熱いシャワーと爆音のEDMで奮い立たせて入稿。達成感もひとしおのはずだったが、日々が忙しすぎるせいか入稿後の多幸感が全然訪れなかったのも今となっては思い出である。

本扉

2022年の下半期に買った本は、なんの巡り合わせか、ほとんどが詩集だった。竹中郁がきっかけでもう一度詩を書くことになったが、校正の最終段階で朗読してみると、昔たった二回だけ人前で朗読したことを思いだした。大丈夫、これは誰のでもなく自分の“リトム”だ、と思えた。人工島に結びつく陸海空の、空に宙の字をあてて平然と大気圏を超え、唐突に天体モチーフの詩が登場するのも、ゴタンダっぽさが出ているように思う。

わたしがそもそも竹中郁を知ることができたのは、友人・雪雪さんのnoteの投稿からでした。2022年に刊行したわたしの歌集の感想と紐づけて、文中で紹介してくださったご縁だったのです。(→「歌集 架空の臓器と美しい本」)
雪雪さんに心より感謝申し上げます。

今回の詩集の刊行で、自分の詩が愛せるのは幸福なことだと思えました。多くの方の目に触れれば幸いです。
下記に詩「球根」を引用して締めくくらせていただきます。

詩「球根」

お腹が空いて買い物に出かけたら
タマネギとまちがえて球根を買ってた
三百円の眠るひと

レジで育て方を教えてもらう
白、青、ピンク、黄色
─育てやすい色とかありますか
─いいえ、色が違うだけですよ

ただし気温が十七度になるまでお待ちください、と店員
─十七度になるまでどうしたらいいですか
─そのへんに転がしておいてください
キッチンに転がしておいたら、タマネギと駆け落ちしないかな?

本当に水だけで育つんだろうか
土がいいなんて言わないだろうか
枯れたあとのことは考えないほうがいいかな
別れたあとのことを考えているうちに
好きな人を取られたことがある

─十七度になるまで僕はどうしたらいいですか
─部屋の掃除でもしておいてください
めんどうくさいなあ

心もとなかったけれど、花屋を追い出され球根をつれてそぞろ歩く
あれがコンビニ あれが犬 あれが赤ん坊
ふいに川を見せてやりたくなって、三角州デルタ
ふたつの川が合わさり、うねり、
手を取り合って遠い海を目指す
そこに取り残される、というたぐいのここちよさ
僕と取り残されてくれるかい、これから来る冬を
耳をつけてみると小さな寝息が聞こえた
彼女は眠ってるんだった

この香りは金木犀 雲の端だけが夕日に染まっている空 あそこにいるのはたぶん恋人たち
トンビが目を光らせているけれど
めぼしいものなんてなにもない
コンビニのコーヒー、読みかけの文庫本、長い眠りの球根と、僕
目を閉じてもひとりじゃない、ということ

早く会いたいなあ
十七度になるまで待てるだろうか
─二十度とかで起こしたら機嫌を損ねますか?
─カビが生えます
それは困る

飢えたトンビが彼女をねらいはじめたので紙袋にいれて、そうっと持ち帰る
犬が鼻面を近づけてきたので追いやった
金木犀に嫉妬してもいけないな
金木犀が咲いているうちは起こしちゃいけない気がする

帰ったら名前を決めよう
僕の眠り姫
早く会いたいなあ
けど、僕はいいかげんお腹が空いた

『詩集 人工島の眠り』「陸」より
上述の「C.U.P.同盟展」を観た日に買ったヒヤシンスの球根。この日の散歩がはじまりでした

リリース情報

『詩集 人工島の眠り』は文学フリマ京都7よりリリースとなります。

1/15(日) 文学フリマ京都7
11:00-16:00 入場無料
京都市勧業館みやこめっせ1F第二展示場B・C・D
*ゴタンダクニオ【あ-21】
WEBカタログ
イベント詳細

2/26(日) 文学フリマ広島5
11:00-16:00 入場無料
広島県立広島産業会館 東展示館 第2・第3展示場
*ゴタンダクニオでの出店です
(ブース位置等は確定後にTwitter等で告知いたします)

〈当面の新刊〉
『詩集 人工島の眠り』(A6/52頁)
〈既刊〉
・歌集・物語・童話・小説など





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