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60年代末青春グラフィティ ひかりみちるしじま

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闘争と青春の記憶(エッセイ)
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2021年5月の記事一覧

ひかりみちるしじま(1)

ひかりみちるしじま(1)

 あの時代のこと、喪った時間は、陽光にさらされた雪像のように細部が曖昧になり、やがて溶けるように忘れていく。毎日毎日、雪溶け水が流れていくように思い出はどこかへ流れていく。でも、人間は思い出をなくしたら生きていけない。だから、消えていく記憶を無意識のうちに想像で補って新しい思い出が作られていく。どこまでが心と頭と身体のどこかに蓄えられた真正の思い出で、どこからが後から作り上げた第二の思い出なのか、

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ひかりみちるしじま(2)

ひかりみちるしじま(2)

 1967年4月、丸刈りの坊主頭で私は大学の入学式に出席した。私が通った広島県の地方都市の高校では男子は丸坊主が校則だった。入学式のことは何一つ覚えていない。ただ、その日私たち入学生に向けて手持ちのハンドスピーカーで、ベトナム戦争への日本政府の加担を批判する演説をしていた学生が時々した長髪をかき分ける仕草が、とても気になったことだけを覚えている。
 
 私が育った地方都市には地下街というものがなか

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