見出し画像

【短編小説】「1989」第二話(全七話)

 以前描き下ろしたギター小説を加筆修正した(している)ので、全七回で連載したいとおもいます。

「1989」第二話

「だいぶ慣れてきたな」
 二年生のタムラさんが声をかけてくれた。このスケール(音階)を教えてくれたのが、ひととおりの楽器がこなせる、マルチ・プレイヤーのこのひとだった。
「ええ、タムラさんにこれを教えてもらったおかげで、アドリブができるようになって、すごく世界が広がりました」
「楽しいだろー。これができるだけで無限に時間がつぶせる。よく短期間で全ポジション覚えたな」……授業についていけていないことからの逃避が、ギターの上達につながっていた。「そろそろ他のスケールも教えてやるからな」
「ありがとうございます。楽しみです!」
 他メンバーとも雑談を続けながらギターを爪弾く。いっときのやすらぎに心がなごむ。二〇時を過ぎるころ解散となり、各々帰宅した。

 下宿に帰り、夕食にする。さすがに疲れた。台所の流し下にある段ボール箱から、カレー・ヌードルとコンビーフを取りだす。ヤカンに水を入れてコンロで沸かす。その間に、冷蔵庫に入っている残りご飯をレンジであたためた。
 ちゃぶ台の上にそれぞれのメニューを並べる。カレー・ヌードルの蓋をはがすと、湯気とともに安定感のあるスパイシーながらもやわらかい芳香が漂う。わりばしで底からゆっくりと混ぜる。濃厚なスープのとろみが伝わってきて心地よい。コンビーフの缶も開ける。側面から巻取り鍵でくるくると巻いていくのが特徴だ。なぜそうなっているのかの理由は今もわからないが楽しかった。カレー・ヌードルの麺をすすりつつ、常温のコンビーフをかじる。固まった脂が、口の中でしっとりととろけるのがたまらない。交互にそれを繰り返して夕食を満喫する。カレー・ヌードルの残り汁に、あたためておいた残りご飯を投入。簡易カレー・ライスの完成。少しだけ時間をおいて米にスープをなじませる。カップに直接口をつけて、一気に食べきる。底に残ったみじん切りオニオンの触感と香ばしさが絶妙。満足。夜といえども七月なので気温が高い。扇風機のスイッチを入れ、顔を近づけて涼む。やがて汗が治まると、今日はアルバイトが休みなので安心して眠りについた。

つづく

 第一話はこちら

↓ わたしの自著、ギター小説「440Hz」シリーズもご高覧いただけますとうれしいです。こちらはKindleUnlimitedで読み放題です!

 過去のギター演奏アーカイブです


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?