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【僕とKさんのエシカルな日常 #3】 披露宴で、ファッションとは何ぞやと考えさせられた編

普段、スーツを着ない職業に就いている人の
「あるある」をひとつご紹介しようと思う。

それは、冠婚葬祭のときに着ていくものが
パッと揃わずに焦ってしまうことだ。
僕も、そのうちのひとり。

先日、フットサルのチームメンバーが
めでたく結婚式を挙げることになって、
それはとても祝福すべきことなのだけど、
なにぶん自宅のクローゼットに
スーツのレパートリーが全くない僕は
まず「着ていくものどうしよう・・・」と悩んだ。

スーツだけじゃない。Yシャツも、革靴も、
ちょっとしたおしゃれな小物も
非スーツ組の人間からしたら、
初めての海外旅行ぐらい準備に戸惑ってしまう。

成人式のときのスーツに腕を通してみたけれど、
体型も変わっていて、しっくりこなかったし、
なんか20歳の若気の至りというか、
デザイン的にもちょっと今の好みとは違う。

というわけで、僕は久しぶりにショッピングに出かけた。

恥ずかしながら、社会人とはいえ20代前半。
給料も決して余裕があるわけではない若人にとって、
ご祝儀の他に、スーツやら革靴やらで
懐が寒くなっていくのは正直、痛い。

でも、ショッピングセンターにいくと、
今やスーツでさえ驚くほど安い値段で並んでいる。
これは助かるなぁ、と僕は一通りのアイテムを揃えた。

準備も万端、スーツもばっちり着こなした披露宴当日。
僕が座ったテーブルには、フットサルのメンバーたちがいて、
となりにはKさんもいた。

スーツを着たKさんは、いつもと雰囲気が全然違う。
さすが、元商社マン。スーツの着こなしが大人びている。
やっぱりKさんは憧れの人だ。

僕はKさんに少しでも近づきたくて、聞いてみた。

「どこのスーツですか?かっこいいですね」
「あ、これオーダーメイドなんだよ」

おお!オーダーメイド!!これは、憧れるやつだ。

「さすが、大人の身だしなみですね、Kさん」

いやぁ、とKさんは照れた表情で言った。

「身だしなみというか、便利なんだよ、オーダーメイド。
少々サイズアウトしても、調整してくれるし、
何より長く着られるのが一番じゃないかな」

確かに、それも一理ある。
「でも、お高いんでしょう〜」と通販番組ばりのフリをKさんにしてみたら

「例えば、10年、20年着られるとしたら、
断然安いと思うけど・・・」とKさんは
さも普通のことのように言った。

それにね、とKさんは続ける。

「服だって、料理と同じように、
作っている人の顔が見えるものが好きなんだ」

あぁ、素敵な考えだ。
安いものって確かに、服だけじゃなくて、
料理も、野菜も、家具も、何もかも
「作り手」の顔が見えないケースが多い。

「Kさんは、ファストファッションなんて着ないんですか?」

僕は、めったに飲まないシャンパンのグラスを片手に、
何気なく質問してみた。

すると、Kさんはグラスを置いて、小さな声で聞いてきた。

「ファストファッションが、なんで安いか知っている?」

うん? なんでだろう?
同じ型のものを大量に作るから、
それだけコストも下げられるのかな。

「確かにそれもそう。でも実は生地の値段って、
さほど変わらないから、どこでコストを抑えるかと言ったら、
製造費、つまり人件費が中心なんだ」

そうか、だから海外製の服が多いのか。

「ただ、これが問題でね。
賃金の安い国で製造するのは分かるけど、
その国のレベルでも、縫製工場で働く人たちは最低賃金で雇われているんだよ」

披露宴の会場のにぎやかさとは裏腹に、
僕とKさんの間は、とても深刻な空気が流れていた。

「労働環境も良くなくて・・・
数年前にはバングラディッシュで縫製工場の入ったビルが崩落して
何千人もの人が亡くなっている。披露宴の場で話すことではないけどね・・・」

だからKさんは、声を潜めるように話しているのか。

ファストファッションを買うときは、
その安さから、いらなくなったら新しい服を買えばいいや、
という気持ちになる。

でも、それは買う側からの視点でしかなくて、
それを作る側の人たちのことを想像したことはなかった。

作り手が見えないから、捨てても心が痛まない。

僕は安く買った自分のスーツの襟をさわってみた。
そして、この服を買ったときに
レジの前に不要になった服を回収するボックスがあったのを思い出した。

「でも、ファストファッションも今、
リサイクルに力を入れていますよね?」と僕は聞いてみた。

Kさんは、うんと頷きながら答えた。

「ただね、寄付という名目で海外にいくファストファッションって、
そもそもの作りがもろいから、海外でも貰い手が少なくて、
大量に捨てられて、環境問題になっているんだよ・・・」

え、そうなのか・・・
じゃあ、それって、ただゴミを海外に押し付けているだけのような・・・

「ファッションの楽しみ方って、人それぞれだけど、
やっぱり僕は、愛着のある服を長く着たいかな」

そんなKさんの言葉にふと、
「フランス人は10着しか服を持たない」という本を思い出した。

本当に洗練されている人の考え方というのは、
おしゃれってだけじゃなくて、環境にもやさしいのかもしれない。

披露宴は、参列者による出し物の芸があって、
その盛りあがった流れのまま、友人のスピーチが始まった。

「僕は最近、裁縫を始めてみたんだ。
ちょっとした服の直しだったら、自分でやろうと思ってね」

Kさんは少し恥ずかしげに言ってきたけれど、
いやぁ、Kさんってすごい。
縫製男子って、もしかして流行るかも・・・
なんて考えていたときに、突然司会者から
Kさんの名前が呼ばれた。

え? Kさんもスピーチやるんだ。
そう思った瞬間に、もうKさんは壇上に向かっていた。

そしてマイクの前に立つと、どこから取り出したのか、
右手には牛、左手にはカエル、のような人形があった。

「こんにちは、パペットマペットです」

いや、古っ! というか、全然似てない!
顔もそのまま出ているし。人形もなんか変だし。

そんなKさんの天然っぽさ丸出しの芸に、会場は大爆笑だ。

でも、僕は知っている。
おそらく、というか間違いなく、
あの牛とカエルの人形は、Kさんの自作だ。

裁縫の練習なのか、おそらく人形を作ってみたのだろう。
だって、どう見ても市販品のクオリティではない。

その牛とカエル、のようなもので爆笑をかっさらっていくKさんは、
やっぱり、かっこよかった。
きっとあの人形も、何十年と直されながら
長く使われていくのだろう。

もしそんな機会があればだけど、僕の結婚式では
Kさんにスピーチをしてもらおう。
あの、パペットマペット、のようなもので。


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