いつかどこかで君と死ねたら

私は妻を愛しています。

私にとって彼女は世界で一番の女性。永遠の恋人であり女神であり恩人であり親友であり戦友でもあります。

そんな妻にも短所はあります。たとえばドジだったりちょっとアホだったりうるさかったり。

妻の短所はおそらく頑張れば10個程度はあげられると思います。

でも長所は一つだけ。

「全部」です。

いいところも悪いところも全部ひっくるめて全部が長所。

私がこう断言できる人間は、もしかするとこの世に妻と息子の二人しかいないかもしれません。愛とはそういうものなのだと思います。長所と短所の加点減点でなく、たった一つあなたの存在がそこにあればそれでいい。そばにいてくれるなら短所などすべて長所も同然。そういう愛を実感できる機会は、実は日常にあまり多くないかもしれません。

もしあなたがいつも息子や娘にイライラし叱ることが多いなら、どうか思い出してください。子どもは確かに愛しい存在だけど、うざいしうるさいしうっとうしいしで、つい愛を忘れる瞬間は誰にでもあるはず。あるいはあなたの旦那さんや奥さんの自分勝手な振る舞いやお金の使い方や小言、幼稚な自慢話や無意味な世間話にうんざりすることもあるでしょう。

もし、その相手がふと自分の目の前から消えてしまったら？

ある日とつぜん、その人の存在がなくなってしまったら？

つまり死んでしまったら？

私も妻や息子に対してイライラしたり頭にきたりすることはあります。人間ですからどれだけ親密な相手であろうと、いえ親密な相手だからこそイライラすることもあるでしょう。

でもね、そういう時にふと思い出すんです。彼女が今まで私にしてきてくれたこと。彼女への恩。彼女と歩んだ軌跡。息子の誕生を一緒に喜んだあの日。娘を失う悲しみに暮れたあの日。私が心を病み、支え続けてくれた日々。もし彼女がいなくなったら、私の人生の喜びや幸せは失われてしまいます。そう思うと、イライラが木々の葉擦れに誘われるように、どこかへ飛んでスゥーっと消えていくのを感じます。そしてその後には、感謝や愛しさが私に微笑みかけてくれるのです。

これから人生を終えるまで、それこそ死ぬまで妻と一緒にいたい。いつかどこかで君と死ねたら。どちらが先かもわからないけど、最期のそのときまで一緒にいられたら、ただそれだけで私は幸せです。

休日は息子に一日中追い回され、激しい遊びに延々と付き合わされ、それでも「まだ遊びたいまだ遊びたい！」と騒がれます。うっとうしいし、少しは私にも自分の時間をくれと思います。

でも少し見方を変えてみると、息子は私が好きだからくっついてくるのだし、私と遊ぶのが楽しいから遊びたいと言ってくれていることに気が付きます。その瞬間、息子に対するイライラは陽光の中で弧を描く鴎のように、遠くへ遠くへスゥーっと消えていくのが……

いや消えねぇよ。うざいようざいよ！ちっとは俺にも時間くれってばさ！知ってんだぞ、俺が「もう遊ぶのはお終いね」なんて言おうもんなら何の未練もなさげにスッとお母さんに向き直って「ねぇお母さん、遊ばない？」って訊くんだろ⁉

俺じゃなくてもええんかーーーい！ってよ。

誰でもええんかーーーーーい！なるっつーの！

俺のことが好きだから追いかけてくるだ？

じゃあとりあえず金玉叩くのやめてマジで！

マジでホントお願い！

俺が痛がって「キャハハ！」じゃねーんだよサディストなんか！もぐら叩きゲームじゃねーんだ！なんだ俺の金玉はモグラか！でかいわアホか！

「お父さんのこと好き？」

「うん好き！でもお母さんはもっと好き！」

いや訊いてねーーーーーーーーーーーーーーー‼‼‼

「お父さんとお母さんどっちが好き？」

とか訊いてねーーーーーーーーーーーーーーー‼‼‼

なにこの「告ってないのに振られた」みたいな現象！ええ加減にせいよ！

そんでお前俺のようかん食べたろ。

お前最近冷蔵庫の中に手が届くようになったからって調子に乗って、俺のようかんとヤクルトいったろ。

「しめしめ、お父さん気付いてない」みてぇな顔してんじゃねぇよバレとるわ！

新発売のヤクルト1000返せ！

なに何の自覚もなく人の腸内環境改善の機会を奪っておいて自分の腸内環境改善しちゃってんだよ……猫に小判とはこのことだよ……息子にヤクルト1000だよ……いやまぁ結果オーライか、お前の屁くさいしな……

そんな息子と、この四連休思い切り遊び倒しました。

今日は連休最終日。

全力で遊び倒してやろうと思います。

息子よ。

たとえ俺が死んでも、君は元気に生き倒せ。