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おいかけっこ

 近頃、母がLINEを覚え始めた。無料で通話やメッセージのやり取りができる便利なアプリだ。

 まず、なぜ母がLINEを覚える羽目になったのかというと、原因はすべて娘の私にある。仙台で一人暮らしの私は25歳になってもなお、母を心配させてしまう手のかかる困った娘だということ。母は私からの着信をみるとドキドキしてしまい便意を催すそうだ。

 夏の暑さが和らぎ、過ごしやすくなった秋口だろうか。季節の変わり目に心が乱れやすくなる私は、時々生きるのを忘れたくなる。そして母が一番恐れている事態となる。処方薬を過量服薬してしまったのである。

 母に電話をかけて、泣きじゃくりながら「おっかぁ」と漏らす娘。
 母は「どうしたの!?あんたまた・・!仕事は!?」 「店長にそれじゃ働けないから、帰って休みなさいって言われたぁ~」と喚く娘。「待ってて、今から仙台に向かうから!」

 石巻市の北上町十三浜、という響きからして田舎臭が漂う町から、軽トラを飛ばしてやってくる母。私は6畳一間で涙を流し、よだれを垂らし、失禁をして、母を待つ。最低だ。意識が朦朧とする中で、娘の私は思った。
「25歳でこれはまずいな」と。

 そういった家族ドラマが一年に何回か繰り広げられる。だから簡単にいつ何時にどこでもメッセージができるLINEを覚えざるを得なくなった訳だ。

 私と母の習性を既に把握している27歳の姉は母の混乱を収める役割を担っている。不憫である。

 今では母と姉と私の3人で、グループラインというものでやり取りをしている。なにも複雑ではない。言ってしまえば「皆は無事か?」という、いわば安否確認である。

 激しいドラマを終えて元気になった私と、福祉教育を学んでいる姉と、父を煙たがる母で織りなすLINEのトークは今や生きる糧となっている。

 今日も母からメッセージが届いた。拙い文章で「今日も頑張てネ!フレ~フレ娘たち!」と。

(2018/2/10 「石巻かほく つつじ野掲載」)

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