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「多分、ポケモン」

西條成美

私は販売員のバイトをしている。主に接客や商品の陳列が業務である。たった数分の接客と言えども、様々な空気を漂わせるお客様がいる。
この前のお客様はこうだ。70代と思しき夫婦とその娘さんである。
娘さんは40代だろうか。それにしては40代の貫禄のようなものは無くて、若干幼さがあり人見知りといった印象。

私はレジ担当だった。娘さんは緊張からなのか会計中も落ち着かない様子で、まるで「自分の存在が申し訳ない」とでもいうような仕草だ。
それはどこか私に似ていて、なんだか苦しくなってたまらず視線を夫婦に向けた。

夫婦は呆れるでもなく庇うでもなくただ静かに愛おしそうな眼差しを娘さんに向けていた。

突然、おばあちゃんがゆっくりとした口調で言った。
「さいじょうさんって苗字、珍しいねえ」
(おばあちゃんいつの間にネーム見てたの!?)と問いたくなったが「はい!自分石巻の者でして!石巻に多いのかもしれません!」と興奮しながら返す。

「そうなの。石巻にもさいじょうさんっているのね」と、嬉しそうな表情。思わず「ひぃえ!お客様もさいじょうなのですか!?」(呼び捨てごめんなさい…)
「うふふ。昔、さいじょうだったの。懐かしくなってね」

その隣にいた娘さんは照れている。帰り際には3人揃って深々と頭を下げてお礼をして、去っていった。

私はその光景がしばらく頭から離れなかった。泣き出しそうになっていたのだ。些細な事に囚われ余裕を無くし、腹を立てていたそんな自分が勿体無く思えた。張りつめていた感情がストンと和らぎ、ホッとしたのだった。

まるで幻の(或るいは色違いの)ポケモンに遭遇した時のような、不意を突かれた感動を見事にくらった。

心から素敵だと思った。あの佇まいと醸し出す空気はそうそう容易く作れるもんじゃない。ましてや家族で。
たった数分の接客と言えども、深い何かを感じた。

「2018/4 『石巻かほく つつじ野』掲載」

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