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カエリヤ

彼女が折に触れて「何で結婚してないの」と聞くのは答えが欲しいからではない。
結婚してないのはおかしいのよ、と言いたいんだ。

カエリヤは中東の政治情勢の良くない国に生まれた。若くして結婚して、5人の子供を産んだ。どうやってこの国に来たのかは知らない。あまり聞きたくないから聞かない。悲惨な物語だったらどうするんだ。返す言葉がないじゃないか。もう30年以上もここに住んでいるが、英語は日常会話はできるが、読み書きはほとんどしたくない、、というかできない。運転もしない。コンピューターにも触りたくない。携帯は大好きだ。ヒジャブ(スカーフ)を頭にかぶり、一日5回も6回もお祈りをする敬虔なムスリム。子供を産み続け、この国の中東コミュニティの中でだけ暮らしてきた。家にいて料理を作り、洗濯をし、子供と夫の世話をする。文化を同じくする友達が大勢いるから、今まで不自由はなかったんだと思う。

私たちの暮らすこの国は”人権”という言葉に非常に敏感な政党が政権を取っている。人種差別とか、性的マイノリティーとか、そういったこと。カエリヤはニュースも見ないしLGBTQの友達もいないから、そういったことには鈍感だ。鈍感なのは罪なことで、いいかえればこの国においてはかなりの差別主義者と言えなくもないのだ。自分の信仰や考え方はもちろんあっていいんだけど、他人のそれを侵してはいけないってことだよね。おっきく見ればこの国のその懐の深さのおかげでカエリヤは移民できたんじゃないかと思うんだけど考えたことはあるだろうか。まあ宗教とか政治とかの話はしちゃいけないって言うじゃない、それホントだよ。

彼女はそのまま中東コミュニティにいることにちょっと飽きちゃったのかな。子育てもまあまあ落ち着いて、家から出てみたくなっちゃった。保育園の助手の仕事を短期コントラクトを更新し続けている。料理が上手で大家族を養ってきただけあって、時間内にまとめることができるので私が休むときに料理をしてくれてもいる。うちの職場のフルタイムの募集は常に出ているけれど、どれに応募しても、私がレターを書いても(まあこれはなんの助けにもならないばかりか印象悪いかもしれないな、私態度でかい社員だから。。。)引っかからず、ずっと不安定なポジションのまま、社員さんにアゴで使われることあってちょっと気の毒ではある。でもね、あんまり一生懸命やってるようには見えな。。ごにょごにょ。

カエリヤの文化では結婚して子供をたくさん産んでこそ、尊敬されるんだろう。コミュニティの中ではカーストの上位だったかもしれない。結婚してないとか、性的マイノリティであることは、その文化の中では人間扱いされんかもしれないな。独身の私にマウント取りたくなったんかな。





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