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追憶

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自分の記憶を頼りに書いたものです。
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#追憶

感情は死んでいなかった

感情は死んでいなかった

急な斜面を登っていた。ぼんやりとした頭ですれ違う人にあいさつをする。「ああ、こんなに朝早いのに同じように登っている人がいるんだ」と心の中の誰かと話をする。

前日は雨だった。どろどろの道を靴が汚れないように気をつけて登る。暑いのか汗がとめどなく流れる。山に登るのは久しぶりのことだったということに気付いた。呼吸が荒い。

ベンチがあった。ザックを下ろし、登ってきた方向を見ると、曇り空の中に、晴れ間が

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飲んだくれ

飲んだくれ

月曜日の夜から、飲んだくれている。いつもは適量と言われている量を律義に守っていたが、今日は3~4倍は飲んでいる。飲んでもちょっとやそっとのことでは、悪酔いはしない。

家にいるときほどあまり酔わない気がする。外で飲むときは、よく限界突破してしまう。特に職場の飲み会がそうだった。職場の人達とは、話したいことはあまりないし、あまりないからこそ、それを紛らわすために、頻繁にグラスを口に近づけてしまう。そ

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第七十四景

第七十四景

大きな駐車場に車を停めようとすると、混雑した通路で誰かとぶつかるかもしれないし、帰りに駐車場から道路に出るときに、手間取ってしまうかもしれない。

そんなことを頭の中で考えながら、車を左折させようと、ハンドルを左に切った。結局、少し歩くことにはなるが、大きな駐車場の近くにある小さな駐車場に車を停めることにした。

隣に座っている薄い黄色のワンピースを着た彼女は、手に持っていた麦わら帽子を頭に乗せ、

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