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飲んだくれ

月曜日の夜から、飲んだくれている。いつもは適量と言われている量を律義に守っていたが、今日は3~4倍は飲んでいる。飲んでもちょっとやそっとのことでは、悪酔いはしない。

家にいるときほどあまり酔わない気がする。外で飲むときは、よく限界突破してしまう。特に職場の飲み会がそうだった。職場の人達とは、話したいことはあまりないし、あまりないからこそ、それを紛らわすために、頻繁にグラスを口に近づけてしまう。そして、いつの間にか限界突破していることがよくあった。

あれは終電で帰ると伝え、元ツレに早く寝てくれと言った夜のことだった。結局終電を逃し、タクシーを頼めたにも関わらず、突然歩きたくなった。6キロくらいの道のりだったと思う。

国道を走る車を横目に見ながら、暗い道をとぼとぼ歩きだした。途中まで、よく知らない職場の人が隣にいたが、いつの間にかいなくなっていた。ひとりになって清々した僕の気分は上々だった。

なにかよく分からない歌を口ずさんでいると、急にお腹が空いた。結構食べたのに、〆にラーメンでも食べようと思った。深夜のため、食べられるものと言えば、コンビニのカップラーメンしかなかった。

前方に煌煌と輝く光が見えてきて、迷わず入り、酸辣湯麵を買って、すかさずお湯を注いで歩き出した。時間になったかよく分からないけど、温めるタイプの調味料を入れて、スープをこぼしながら、麺を啜った。当たり前だったけど、酸っぱかった。

スープをすべて飲み干すと、今度は違うラーメンを食べたくなった。さっきとは違うコンビニへ入り、煮干し系のカップラーメンを買った。3分経つ前から、魚介系のいい匂いがして、その匂いだけでもラーメンを食べられる気がした。

ふらつきながら、暗闇の中でラーメンを食べた。煮干しのスープを飲み干す頃には、自分がどこにいるのかもよく分からなくなっていた。それでも粘り強く歩を進めた。不思議と満腹感は感じなかった。

Wi-Fiに繋がっていないのに、YouTubeを起動し、踊ってばかりの国の「ghost」を大音量で流して、大声で歌った。連なる民家にいるであろう他人の事なんて気にならない。

4回くらい歌え終えたところで、見覚えのある明かりの点いていない家が見えてきた。嬉しくなり、僕は駆けだした。鍵を出し、玄関を開けると懐かしい匂いがした。そしてトイレで盛大に吐いた。寝室に行くと、元ツレが静かに横たわっていた。

あの家に彼女はもういない。僕の知らない彼女ひとり分の思い出と、僕が知っているふたり分の思い出を残していなくなってしまった。そんなことを考えながら、グラスに残っている最後の一口を勢いよくあおった。


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