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【凡人が自伝を書いたら 40.尾張の国(中)】
時は流れ、徐々に採用が決まったスタッフの研修が、本格的に始まってきた。
とりあえず名古屋で集合し、車で三重の研修店舗まで送迎の上、研修をする、というスタイルをとっていた。(ゴリゴリの手探り感)
その頃には店はピカピカ、研修店舗のスタッフとも良好な関係を築けていた。研修内容・流れも公康さんとの二人で話し合いを重ね、1回目ではこれ、2回目ではこれ、全10回と、内容も決まっていた。
研修の内容は、規定の新人研修を基本に、内容や順番をブラッシュアップし、より即戦力になれるようなものに改定した。
開店2週間前には、新しい店舗が完成し、そこでオープンまでの期間、実践形式のトレーニングをするという算段だった。
「それでは、1回目の授業を始めます。」
一丁前に「講師風の雰囲気」を醸し出していた。(あくまで醸し出すのみ)
「心・技・体の3すくみ」
研修は順調に進んでいた。オープンからやろう、なんていうスタッフは意欲も高いものだ。能力の習得状況も申し分なかった。
僕自身も、お手本として、振る舞いを磨き、言い方は悪いが、「バカでもわかるように」分かりやすく指導することを心がけていた。
ふむ。ここはこう教えた方がわかり易いだろうな。こう言えば、誤解のしようが無いな。こういうふうに説明すれば、思考が伝わって応用も利くだろう。
どんな人にでも正しく伝わる教え方。その言葉選びに大半の頭を使っていた。スタッフの動きや表情を見て、伝わっているか、そうでないかに気がつく眼も養われた。
人は、口では「はい」と言いながらも、頭では意外に全然わかっていないことも、結構あるものだ。
それを見逃さないように、悪く言えば、「疑いの目」を持って見ていた。(疑いの目と言うと聞こえが悪いが、これは教育・OJTなんかでは、おそらくかなり大事なことだろう)
そして、お手本としても申し分なかった。公康さんも、「とりあえずあいつの真似してれば、大丈夫。」そんなふうに言ってくれていた。
他にも、「お前の教え方、わかりやすくていいわぁ。勉強になるよ。」そんなふうにも言ってくれた。
公康さんの方は、「コミュニケーションの天才」だった。どんなスタッフとも、すぐに打ち解けて、いつの間にかスタッフの深い部分まで知っていた。悩み相談を受けることも多かったようだ。
いったい、いつの間にそんなに仲良くなりましたか。もしかして、、「寝ましたか。」(おい)
僕は不思議でたまらなかった。ただ、人を惹きつける兄貴感、カリスマ性みたいなものは、僕にも不思議と理解はできた。
弘信リーダーは、相変わらずの切れ者だ。とにかく頭の回転が早い。
初めの頃。
「公康さん、こんなにゆるーい感じで大丈夫ですかねぇ。」
僕は、その指示のゆるさ、ゴールだけで、あいだの過程が全くない感に、少し不安を感じ、こう尋ねたことがある。
「うーん。まあ、たぶん大丈夫よ。弘信リーダーのことだから、おそらく頭の中では、最後まで出来上がってるんじゃないかな。何も言ってこないのは、順調ってことよ。だから、俺らは俺らが出来ることやってればいいよ。」
これだった。
ほんとかなぁ。
確かに切れ者といえば切れ者だが、いま目の前で、「可愛い大学生の女の子にデレデレしているおじさん」が、そこまで考えているとは、僕にはどうしても思えなかった。
ただ、後々、少しづつその凄さに気がつくことになる。
「オープン直前になったら、またどっさりスタッフが入ってくるだろうから、今いるスタッフは、その時までに仕上げておいてくれ。」
「今のままだとオープン後、こうなるだろうから、これも教えといて。」
これが、ものの見事にその通りになっていく。経験もあるのだろうが、それだけともあまり思えない。今のこの状況のまま行けば、きっとこうなる。そんなことが、頭の中で鮮明に見えているようだった。
考えてみれば、僕らはとてもバランスの良いチームだった。コミュニケお化けの公康さんは「心」。高い頭脳とマネジメント術を持つ弘信さんは「技」。お手本として完成図を体現できる僕は「体」。
「心・技・体」の3拍子揃った、強いチームだった。同時に、お互いの弱点を補い合う「3すくみ」のような関係性でもあった。
僕らは互いに学び合い、僕も二人からたくさん学んだが、僕も教えることも多かった。今考えれば、歳が20も離れた若者から、何かを学ぼうとするなんて、なかなかできるものではない。そんな二人の「人としての器の大きさ」にも、学ぶ点は多かった。
「準備完了」
オープン2週間前、完成した僕らの店舗に集合した。そこには店長の「石村」さんと僕らオープンチームの4人に加えて、新しく社員が5名合流した。
おじさん社員2名、30歳前半の中堅社員1名、その年の新入社員2名だ。合計9人いた社員のうち女性は、新入社員の女の子1名だけだった。時はGW明けの4月中旬。この新入社員はまだ入社して間もないピヨピヨ社員だった。
僕らはこの新入社員たちにも教えつつ、実践形式のトレーニングに入っていった。
これは仕方のないことだが、この新入社員より、アルバイトスタッフの方が仕事ができた。新入社員の男の子の方、「長川」の方は、人当たりもよく、テキパキと働き、すぐに他のスタッフたちと遜色ないくらいにはなった。
問題はもう一人の女の子、「小山」の方だった。
あの、怒ってますか?的な、ぶすくれたような顔をしている。それだけなら仕方がないが、態度の方も、これが良くない。店長やリーダーが指示をしても、気だるどそうな返事をする。そんなだから、前評判自体も良く無かった。
それでも、きちんと指示すれば、それなりに言うことは聞いたので、僕らはあまり気にせず、オープンに向けてまい進した。
オープン前日になれば、新入社員も一端に、何とかそれらしいものになり、スタッフたちも、試行錯誤のところは色々あったが、何とか自信を持って、オープンを迎えられるくらいには成長した。
とりあえず、やれることはやり切ったな。あとはオープン後どうなるかだ。
僕ら3人は、そんなことを言って、オープン前日にも関わらず、繁華街にある「怪しげな店」で大騒ぎをしていた。
ひとり3万。
。。。
弘信さん!起きてください。帰りますよ!弘信さん!!
爆睡する弘信リーダーの分も金を払い、店を出た。(虚しさ)
つづく
お金はエネルギーである。(うさんくさい)