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【凡人が自伝を書いたら 41.尾張の国(下)】

オープン当日、僕ら3人はやや「テンション低め」で、恒例のオープン朝礼に参加していた。(自業自得)

石村店長の感動の挨拶も横耳に、

「はぁ、あれってぼったくりってやつだよなあ。。」

「だって、最初は5000円ポッキリって、言ってたよ。。」

「はぁ〜」

これだった。(ベストオブ・自業自得)

気持ちを切り替え、大急ぎで開店準備を整えた。

2度目の経験だったが、新店の開店はやはり独特の緊張感があるものだ。

「まだ、開店まで少し時間あるから、一服してくるかな。」

僕は喫煙所でひとりボケーっとタバコをふかしていた。

「頑張るぞー!!!おーーーー!!!! パチパチパチ!」

ん?

あ!

どうやら、タバコをふかしている間に、開店してしまったようだ。このトイレ行っている間に、新幹線が発車してしまった感。(自業自得の極み)

くそ!!

これだった。

「再びの盛況と手応え」

まあまあの都会だったが、なかなかの盛況ぶりだった。あっという間にお店も忙しくなった。三重の新店に比べ少し客足が少なかったこともあるが、実践練習を多めにしたこと、少しキツめにしたこともあり、スタッフは比較的営業にはついて行けていた。

中には、他の店に行ったら、ベテラン勢の中で普通にやっていけるんじゃないか?と思うようなスタッフもいた。

それでも大変だったことに変わりは無かったが、とてつもないバタバタ感みたいなものはなかった。オープンチームとしては十分成功と言える状態だった。

ほう。あの感じでやれば、ここまでにはなるんだな。

僕らはそんな手応えを感じていた。

「不穏な噂」

問題の「小山」は相変わらずの様子である。スタッフに紛れて、とりあえず一端に仕事はこなしてはいたが、態度は悪かった。きらめくアルバイトスタッフの中で、孤立しているような雰囲気だった。

弘信リーダーに至っては、普通にキレていた。

「何なんだアイツわぁ!!俺のことを馬鹿にしてんのかぁ!!」

そんなふうに、まるで子供みたいに腹を立てているのは、見ていて少し面白かった。(おい)

他の社員からも少し敬遠されているようだった。僕自身はべつにそこまで何も思っておらず、話すところは普通に話していて、会話もある程度はできていた。

この日も弘信リーダーは「小山」にキレていた。

「くそ!!やっぱりアイツは俺のことをなめてる!!それならそうとこの際はっきり言ってもらった方がいい!!」

いや、上司に面と向かって、「私は、あなたのことを舐めています。」なんてことを言う新入社員などいるはずがないだろう。

「そんなにですか? 確かに態度が良いとは言いませんけど、そこまで悪く無いと思いますよ? なんだかんだ言う事は聞くし、普通に話す事だってありますよ?」

「ふん。青年、それはだねぇ。君に惚れてるからだよ。」

は?

ここで何故か、公康さんも現れる。(おそらく大好物)

「え、もしかして気づいてなかったのか? 社員みんな言ってるぞ? お前と話す時だけ、アイツ、目が輝いてるし、声のトーンだって上がる。しかもお前と出勤するときだけ、化粧バッチリ。お前が休みの時なんて、アイツすっぴんだぞ?」

これだった。

嘘だ!!

「ははっ。まさか!アイツに限ってそんなわけないでしょう、ははっ。」

そう入ったものの、確かに、初めて会った時はすっぴんだったが、いつの間にか毎日、化粧をしてくるようになっていた。

まさか!!

僕は信じないようにしていた。

別の日。

今日は小山も出勤する日だ。

いかにその気が無かろうとも、あんなことを言われると、少し意識してしまうのが、男の愚かさであり、辛いところである。

「小山さん。これお願い!」

「はい!」

ん。トーンが、、上がっている?

僕には絶対音感はないが、確かに「レ」が「ミ」くらいになっているような気もする。。

ん?

よく見ると、目の奥に「一点の光」が見える、、気もする。

確かに、ナチュラルだが、全体的にばっちりと化粧もしている。。

いかん!!!(失礼)

これだった。

「そういう思いもあるのか。」

オープンから1ヶ月くらい経ち、スタッフのみんなも、だいぶ仕事が板についてきた。公康さんはオープン当初に比べて、手を出すことが減り、ほとんど口だけ出すようになっていた。

僕は、何故そんなことをしているのか、意図があまり分からなかった。僕は、常にスタッフの隣で一緒に働き、お手本を示し続けることが良いと考えて、事実、そうしていた。

ある時、公康さんと仕事終わりに、食事に行った。

「あんまりこういうこと言うのは、どうかと思ったけど、このままじゃお前が抜けた後、店、大変だぞ?」

「はい、確かに。」

僕自身も、それはそう思っていた。確かにみんな、力はついてきたが、まだまだ、僕らなしで、どうにかなるレベルではなかった。だから、手伝っている面もあったからだ。

「いつもお前が頑張ってくれていて、みんな感謝してるし、助かってるって言ってるんだけどね、中には、もっと私たちにやらせて欲しい。もっと任せて欲しい。そうやって言ってる人もいるんだよ。実は。」

「え、」

僕はドキッとした。まさかの話だった。

恥ずかしながら、そんなこと考えたことがなかった。

確かに、仮に、もっとやりたい。もっと任せてほしい。なんて人がいた場合、僕の仕事ぶりは、逆にその人たちの成長を阻害するものだった。

僕は以前に比べて、少しだけ大人にはなっていたので、「傷つく」というよりは、「はっと気付かされた」ような思いがした。

「そうでしたか。すいません。そこら辺のこと、全然考えてませんでした。だから公康さんは最近、手を出さない感じだったんですね。。改めます。」

「まあね。別にみんな感謝はしてるんだから、落ち込む事はないよ? でも、そう言う人もいるし、俺らは立場的に、そういうこともあるってことよ。」

「ありがとうございます。勉強になります!!」

「やめてよ〜。別に上司ってわけじゃないんだからさ。」

こんなところも公康さんの良いところだ。僕の気まで気にしてくれて、伝えるべきことは、きちんと言ってくれる。そんなところは本当に尊敬すべきところだった。

ふむ。そうか。そんな思いもあるんだな。今まで全く考えていなかったことだったので、何だか新たな視野が開けたような感じがした。

そうだ。大学生の時にもあったじゃないか。あの感じだ。すっかり忘れてたな。

正直、大学生の時にも同じような経験はしていた。

自分がやりすぎるために、成長しない後輩。それに苛立っていた自分。

あんなに考えて、自分自身に誓ったつもりだったのに、忘れちゃってるなんて。俺はまだまだだなぁ。

まあでも、人って結構、そういうもんなのかもな。

一度は分かったつもりになっていても、時が過ぎるとすぐに忘れてしまう。

やっぱり、何事も学び続けることが必要なんだな。忘れないためには。

そんなことを考えていた。

「次は半島ですよ」

さらに月日が流れ、7月。

あつい。

僕らには9月に開店する、次の新店の準備が迫っていた。

あれから僕も、立ち振る舞いを変え、基本、スタッフに仕事を任せるようにしていた。また、接客の方は少し教育が進んでいなかったため、そちらを手伝うようになっていた。

結果的に僕らが去る頃には、店長と、店舗社員のみで十分にやっていける状態になっていた。

「なんだかんだで、僕らの役目も終わりましたね。」

僕ら、オープンチームの3人は、安い居酒屋で(前回の反省)「プチお疲れ様会」をしていた。

「次はどこっすか?」

「次は田舎だよ。同じ県内だけど、もっと海際の方。こっから南の半島にある店だ。」

「半島ですか? てか半島って何ですか?」

「・・・」

これだった。「半島」という言葉は聞いたことがあったが、具体的にどういうものかは知らなかった。

とにかく次は、田舎のようだ。

しかも店長は、僕の同期の「安井君」。彼は僕とは違って「優秀組」だった。同期でもトップ5には入る優秀さだった。(昇進の早さという点で)

僕は性格上、変な「ライバル心」が湧いてくることもなく、どんな仕事するんだろう?と楽しみでいた。

「同期との久しぶりの再会」を楽しみに、僕ら3人は、少しだけ引っ越しをし、「海際の田舎町」へと移り住んだ。

つづく














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