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すれ違いの美学とは

月9時代の連絡手段は…

最近テレビで東京ラブストーリーがキャストを一新して、リメイク版として人気があるらしい。1991年には織田裕二と鈴木保奈美が主役を演じ、脇を江口洋介、有森也実、千堂あきほ とバリバリのトレンディドラマ王道タレントが名を連ねていた。
当時は、フジテレビの月9枠(いわゆる月曜の夜9時に放送されていたドラマ)で放送され、月曜の21時には繁華街から人影が消えるとまで言われていた。なので、私のコンパも開催されていなかった。(ほんとか?!)

鈴木保奈美演じる 開放的な赤名リカに、織田裕二演じる 永尾カンチがいつも振り回され、その曖昧な態度にイライラしたりハラハラさせられたり、有森也実が演じる 関口さとみがいつもうじうじしていて、それに江口やら千堂が絶妙なタイミングでひっかきまわして関係をごちゃごちゃにして、本当に面白いドラマだった。

女子の服にはみんな肩パットが入っており、ひさしのようなワンレン、W浅野が大流行り、男子はみんな江口洋介のようなおかっぱか、織田裕二のような濡れたようなパツパツ髪、ちょっと年取った人は柳葉敏郎のようなオールバックで、服装は必ずちょっとダボっとしたジャケットとパンツ。もちろん私も昭和な女、ワンレン、肩パット、真っ赤な口紅の王道のファッションで、勤めは新宿だったくせに なぜか銀座がステイタスだと思っていた。

そんな時代だから連絡はもっぱら会社に電話・公衆電話・自宅・そして駅の伝言板、ポケベルなんて言うのもあった。

こんなドラマもあったなー 裕木奈江さんが本当にバッシングされていてかわいそうだった。ポケベルが不倫の代名詞になってしまってるしね。

デートの約束してたのに!ムカムカ&ションボリ

そんな私も当時付き合っていた彼と電話とポケベルを駆使してデートをしていた。待ち合わせ場所の確認は1回の連絡だけ、そしてスケジュール帳に必ず書く!当日は時間厳守。今では考えられない。

そんな状況の中、平日の約束は本当に大変だった。コンパならまだ遅れて行っても場が持つが、デートは本気と書いてマジだ!その頃は旅行会社もたいそう潤っていて、毎日残業の嵐で、カウンターでの仕事だとなおさら時間など読めるはずもない。うら若き20代の私に<今日デートなんでもう上がらせてください!>なんて言えるはずがなく、さながらドラマのヒロインの様に時計をチラチラ、ソワソワしながらお客さんに<今日はもうお決めにならないなら又次回にしましょうか?>とエンディングに持っていこうとしても、<せっかくだから予約していくわ>と言われてしまうのだ。せっかくだからって意味わからん。私は早番なんじゃ!!もう終わりなんだよ!!人の恋路を邪魔しないでくれーーー!

ここでドラマなら、場面変わって愛しの彼氏がハチ公前かなんかで、他b湖水ながら時計を見てまだかな、事故でもあったのかな、大丈夫かななんて心配そうなシーンが垣間見れるのだが、現実はそうはいかない。LINEもフェイスタイムも無いのだ。

時間は恐ろしいほどの速さで過ぎ去っていく。目の前でニコニコしながら予約を進めていくカップルに、心の中で鬼の形相をしながら早くしやがれオーラを出しても気が付きやしない。あーー!せめてポケベル打ちたい!でもポケベルは2回の更衣室だ。ポケベルも鳴らせやしない。待ち合わせがお店ならまだ連絡が取れる。なぜ自分は駅で待ち合わしてしまったのだろう…後悔先に立たずだ…

泣きそうになりながら接客していると、会社の電話が鳴った。あ!もしかして彼か!?私はここよ!接客してるの、あと15分で終わるから待ってて!店を教えて!!っていうか電話取り次いで!!!

会社の先輩が鼻のかかった裏声で電話に出る。<申し訳ございませーーーん。ただいま接客中でぇーーーよろしければ伝言承りますぅーー>
絶対彼だ!業を煮やして仕方なく、会社に電話してくれたに違いない。伝言なんてどうでもいいから、とにかく変わってくれ!変わってくれたら明日ランチおごるし!先輩の苦手なJR券の手配もしたる!!おおーーい!!心の雄たけびむなしく、私の脇に<〇〇さんから電話あったこと伝えて下さい>とメモを貼り付けた。伝えられても届きやしない。

1時間以上遅れて待ち合わせ場所に息を切らせて行ってみても、もう彼はそこにはおらず。泣きそうな顔をしながら立ち尽くす私の後ろから、だーれだと、優しく目隠しをしてくる彼。泣くなよ、ほらお疲れ様とさっとハンチを出す。目に一杯の涙を浮かべながらはにかむ私をそっと抱き寄せ、キス。THE END・・・な、訳がない!

現実はこうだ。結局その日1時間30分遅れで待ち合わせ場所に行ってみたが、当然彼はもうそこにはおらず、私は彼の行きそうな店を手あたり次第あたってみたものの残念ながら会えずじまいだった。

すれ違いは果たして美学なのか?

諦めて帰るのもなんだかシャクなので、知り合いの店に立ち寄り、なじみのマスターに仕事のせいで待ち合わせに遅れて彼に会えなかったことを散々愚痴った。

普段から声が大きい私はよっぽど興奮して喋っていたのだろう、その話を聞いていた、カウンターにいたおじ様がウィスキー片手に、諭すように私に向かって言った。

<恋愛はそう、すれ違いの美学だよ。>
へ??なんですと??

今でこそ、そこそこ大人な私には理解できたかもしれないが、まだまだ若いぜ20代の私にそんな深いいんだか、なんだかわからない話だ。
すれ違って美しいなんて、ドラマの世界だけだよ。それこそ東京ラブストーリーのカンチとリカは結構なすれ違い率で、視聴者をドキドキさせたり、腹立たせたりと、フジテレビとスポンサーの思うおつぼだわよ。しかも結局電話しても彼はいなかったし。どっかで飲んでるのに違いない。そしてそこで席で一緒になった女の人と意気投合して、飲んじゃって、じゃーカラオケでも行っちゃっうってなって、ますます盛り上がってあんなとこやこんなとこに行っちゃってるかもしれない!今の私は、ここでおじ様の美学を聞いている場合なんだろうか?

時計を見ると、もう0時過ぎ。こうなったら行くしかない。彼の部屋へ行って確かめないと!何を確かめるのか?既に一度点いた妄想の火はもうだれにも止められない。
すれ違っているのならとことん追いつくしかない!『鳴かぬなら鳴かしてみようホトトギス』もとい、『いないなら、行ってみるまでよ彼の家。』はいもうトレンディドラマ通り越して、NHK大河ドラマの豊臣秀吉の気分です。

結局すれ違いの美学は何だったのか話もろくに聞かずに、バーを飛び出した私はタクシーに飛び乗った。疲れていたし、酔いもまわっていたせいか、タクシーの中で爆睡して、気が付けば運転手さんに<お客さん、つきましたよ。大丈夫ですか?>と起こされノロノロと財布を出して代金を払おうとした。あれ?10,000円と思っていたの、0が1個抜けてる。

そう私の財布には1,000円しかなかったのである。うわーーやってしまった。ズバリお金が全然足りないでしょう!ちびまるこちゃんの丸尾君の顔とセリフが浮かぶ。引き返すわけにもいかず、完全に当初とは全く違う意味で、
祈るような気持ちで彼のマンションのインターホンを押した。

<はい、どなた?>と不機嫌そうな男の声。彼だ!いてくれた!嬉しい!
開口一番の私のセリフ、<悪いけどお金貸してーー>

あーほろ苦い私の青春の1ページ。今ならわかる、完全なる心のすれ違い。美学でも何でもない私にとっては、すれ違いの苦学なのでした。



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