解決を急ぐ前に、本当にその問題が存在するのかを確認する(本当にそうか?のロジックチェック)CLR連載③
こんにちは。ゴール・システム・コンサルティングの但田(たじた)です。言葉で意思疎通するための「7つのCLR(※)」の、考え方と使い方についての連載3回目です。このシリーズは、TOC好きかどうかに関係なく、お仕事や日頃のコミュニケーションに役立つ内容なので、多くの方にお読みいただけたら嬉しいです。
はじめに
今回は、前回の「明瞭性のCLR(どういう意味ですか?)」の次にチェックする、「存在のCLR」について詳しく見ていきます。「明瞭性のCLR」と同じように、日常で使うことが多いチェックポイントです。
※CLR(シーエルアール)とは…「Categories of Legitimate Reservations」という英語の略称で「言っていることが妥当で、筋が通っているかどうか」を検証するための7種類のチェックポイントのことです。
詳しくは連載1回目をご覧ください。
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CLR②エンティティの存在についての懸念
( entity existence reservation )
意味を理解した上で、本当にそうなのかを確認する
CLRの2つめは「エンティティの存在(entity existence)についての懸念」です(※この記事では「存在のCLR」と略します)。なお、エンティティとは事実・実体という意味です。
「存在のCLR」は、そこで示された内容が「事実かどうか」を問う時に使います。なお、「存在のCLR」を使う前に「明瞭性のCLR」で内容をよく理解しておく必要があります。
「相手が言っていることが理解できていない」のであれば「明瞭性のCLR」、「相手の言っていることを理解できたけれど、ちょっと納得が行かないところがある」とか「言われていることが妥当だと思えない」といった場合には「存在のCLR」を使います。
また、因果関係で構成していくロジックツリーを記述する際には、記述された要素が文章として的確かどうかについても、「存在のCLR」でチェックします。単語だけだったり、ひとつの要素の中に因果関係が混ざった複合文になっている時は、主語と述語からなる単文に修正します。
ロジックツリーの因果関係を検討する前に、各要素の記述がきちんとしていないと、因果関係のつながりが読み取りにくくなってしまうからです。
「存在のCLR」は、具体例がないとイメージしにくいと思いますので、これから詳しくお話していきます。
「存在のCLR」の質問の例:それって本当?
「存在のCLR」について相手に質問をする時の基本形は「本当にそうですか?」です。ただし、実際のコミュニケーションにおいて「本当にそうですか?」と質問できるのは、よほど気心が知れていて、単刀直入な会話が成り立つ相手だけだと思います。
私自身も「本当にそうですか?」とそのまま質問したことはほとんどありません。実際には、その場の会話の流れの中で、表現調整しながら使っていきます。
たとえば、打合せの中で、お客様が「ウチの会社の若手は何も考えてないからね…」と言ったとします。それに対して、心の中では「本当にそうかな?」と思いますが、そのまま相手に「本当にそうですか?」とは聞きません。
「若手人材の育成に課題感をお持ちなのですね…。たとえば、どんな場面で、若手の方の対応が物足りないとお感じになったのですか?」など、その場に合わせてヒアリングしながら、お客様の真意を探っていくことになります。
「存在のCLR」は何のために使うのか?
どうして「明瞭性のCLR(どういう意味か?)」の次に、「存在のCLR(本当にそうか?)」を使うのでしょうか?
それは、そこで示される問題について原因分析をしたり、解決策を考える前に「まずは問題が実在することを確認する」ためです。
CLRの元になっている「TOC思考プロセス」では、他人を巻き込んで問題解決するに当たっては、最初に「問題の存在に合意すること」が大切だと考えます。
たとえば、ある人が「若手社員が育っていない」という問題を提起したとします。これに対して、他の関係者たちが心の中で「いや、それなりに育っているでしょ」とか、「それはあなたの思い込みでしょ」などと思っている状態であれば、そもそも、その問題解決が必要かどうかもわかりません。
聞き流すだけのお喋りであれば「存在のCLR」は不要かもしれません。
しかし、その会話に沿って、何かアクションを決めたりするのであれば、そこで示される問題は、少なくとも ”関係者の大部分の人から妥当だと思われる内容” である必要があります。そして、その妥当性をチェックするのが「存在のCLR」です。
「存在のCLR」でチェックする項目:”主語が大きい”表現もチェック!
「存在のCLR」がよく使われるのは、抽象度を上げ過ぎたり、包括しすぎて極端な表現になっていることに対してです。ここ数年でよく指摘されるようになった、いわゆる「主語が大きい」表現にも注意したいところです。
✔ いつもそうですか? 全員がそうですか?
私たちはつい、包括し過ぎた表現をしてしまうことがよくあります。「政治家はいつも不正をする」、「最近の若者はいつも○○だ」、「住民はみんなそう思っている」、「東京の人は冷たい」などは、酒席で盛り上がった時などにもよく出てくる表現ですし、最近は “主語が大きい” 表現として注意喚起されることも増えてきました。
これらの、対象を大きくまとめた表現は、しばしば事実と離れていることがあります。
「いつも」とか「みんな」といった表現が出てきたら、実際の頻度がどれくらいなのかや、どれくらいのデータをもとに「みんな」と言っているのかをチェックしないと、実体についての認識がずれてしまいます。
✔ 具体的にはどういうことですか?
問題点を出す話し合いのなかで、抽象化しすぎた表現が使われることもよくあります。「あの人には意欲が足りない」「この業務には意味が無い」など、抽象度が高い表現のままで議論を進めたとしても、何が問題なのかがぼんやりしてしまい、焦点の合った議論にはなりません。
このような抽象度を上げ過ぎた表現に対しては、「具体的にどんな出来事からそう思ったのか?」「たとえば、どんな場面でそう感じたのか?」などと質問をして、具体的な情報を引き出すことが有用です。
「存在のCLR」の、ビジネスでの活用:対策を急ぐ前に事実を確認する
かつて私はBtoCサービスのカスタマーサポート対応をしていたことがあります。チームでのクレーム案件などは情報共有されていましたが、怒気を含んでいたり、急いだ様子での問合せに対して、状況認識が不十分なまま解決を急ぐことで、余計にトラブルを大きくしてしまったケースをしばしば見かけました。
「一刻もはやく解決したい」という気持ちはよく分かるのですが、焦る時ほど「存在のCLR」をしっかりチェックする必要があります。
たとえば、パソコンサポートの窓口では、「パソコンが壊れている」という連絡に対して、即座にパソコンを修理センターに送ったりはしません。
最初に「コンセントが抜けていないか」など、基本的な状況確認をすることで解決する方が多くいらっしゃると聞きます。
これは「パソコンが壊れている」というお客様からの問題申告を鵜呑みにする前に、「本当にパソコンが壊れているのか?」を上手に確認している対応例といえます。
「解決策を考える前に、まず問題が実在することを確認する」という「存在のCLR」の視点は、「明瞭性のCLR」と同じぐらい日常的に大切なものだと思います。
「存在のCLR」の私なりの使い方:自信を失っている人の話を聴く
前職で就労支援に携わっていた頃、就職をめざす方々の話を聴く機会が多くありました。その時に実感したのは、自分に自信を失っている人の多くが、抽象度を上げ過ぎた極端な自己評価をしがちだということです。
「私はこの仕事には向いていない」とか、「私はあの人に嫌われている」といった悩みについて、落ち着いてじっくり話を聴いてみると、そう考えた原因は、「研修でひとつミスしたこと」だったり、「あの人に挨拶をした時に、挨拶を返してもらえなかったこと」だったりしました。
就労支援に限らず、追いつめられたり落ち込んでいる人は、しばしば悲観的になったり、論理を飛躍させて絶望していたりすることがあります。
私自身も、時にはそのような悲観的な論理の飛躍をしてしまうことがあります。そのような時に、相談相手が丁寧に話を聴きながら事実を整理してくれると、それだけで霧が晴れたように、悲観的な気分が払拭されることがあります。
自信を失ったり、落ち込んでいる人への対応はケースバイケースで、単純にまとめられるものではありませんが、このような場面でも、丁寧に事実の確認をすることは、時にはとても有効だと思います。
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ここまでご覧いただきありがとうございました!次回は「CLRの3つのレベル」を取り上げます。引き続きよろしくお願いいたします。
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