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【要約②】男性危機ーメンズクライシス?国際社会の男性政策に学ぶ(著:伊藤公雄 他)

今日は、男性危機(メンズクライシス)?より、第2章「危機に直面する男たち」です。
2022年11月30日に出版された本です!

第1章「『男性主導社会の終わり』を前に」はこちらで要約しています。

メンズクライシス(男性危機)とは?

  • 男性問題の時代が来る
    メンズクライシスを「近代社会の産物としての男性主導社会の揺らぎの中で20世紀後半以降生じている、経済的・文化的・社会的・心理的な不安定性がもたらす男性性の危機」と定義する。

  • メンズクライシスの背景
    現代の産業構造では、製造業中心から情報やサービスを軸とする産業へと転換している。その中で、女性の社会参画が進んだ。男性の肉体的優位性は必要なく、また伝統的にケア労働を担ってきた女性の方がサービス業における良い労働者たりえるからだ。これにより男性労働者の産業社会における中心的な役割が揺らいでいる

  • 「環境」と「人権」の時代の中で
    1970年代以降、男性主導による効率と利益重視の近代産業社会の行き詰まりが見え始め、世界各国で自然環境や人権に対する課題認識が高まった。近代産業社会によるジェンダー秩序が揺らぎ始めたのはまさに1970年代以後のことである。

  • 近代産業社会の「男性性」
    近代産業社会では性別役割分業に基づき、男性が労働力、女性は労働力の再生産活動(男性のケア、将来労働力になる子供のケア、労働力の役割を終えた高齢者のケア)を担ってきた。この役割における男性性は、優越志向、所有志向、権力志向と分析できる。1970年代以降、近代的なジェンダー秩序が崩れつつある中で、多くの男性がこの男性性からアイデンティティを解放することが出来ないでいる。ケアする女性への過度な依存(DV等)から自立し、女性を支配することなくたくましく生きることのできない男性にとっては、女性の社会参画により経済力による自己の優位性が揺らぐことはクライシスになり得る

地殻変動の時代

  • 拡大する女性の労働参画
    ヨーロッパの高福祉国家と呼ばれる国家においては、ジェンダー平等政策と家族政策により出生率を維持し経済的な成長を維持した。一方で日本は、これらの国が福祉政策に力を入れる1970年代以前、既に戦後体制の下で比較的先進的な取り組みがあったものの、1970年代以降は性別役割分業を強化することにより経済の安定成長を実現した(高度経済成長期)。

  • 日本では、なぜジェンダー平等が遅れたのか?
    1970年代の国際的な地殻変動(女性参画型、サービス産業を中心とするポストフォーディズム社会への転換)の中で、日本は製造業を軸にした経済成長を遂げる(フォーディズム社会)という成功体験をしてしまったため、社会の変化に乗り遅れてしまった。日本のメンズクライシスはこれから重要になってくる課題である

現代日本男性の不安定状況

  • 男性主導社会の変化
    メンズクライシスの背景として男性は、3つの不安定による心理的な不安定状況に置かれている。
     ・社会的不安定さ:女性参画による男性の社会的地位の変化
     ・文化的不安定状況:女性の地位向上による行動様式の変化
     ・経済的不安定さ:労働生産性の低いポストフォーディズム社会への変化や経済成長の鈍化

  • 日本における「男性問題」の始まり
    筆者らは1990年代から、男性が自分たちの抱える矛盾と直面する時代が始まるだろうと考えていた。その予想は大いに的中した。

「剥奪(感)の男性化」=男性危機への向き合い方

近年のジェンダー構造の変化は、人類史的ともいうべき世界の変化であり、男性たちは社会的・文化的・経済的不安定性に直面している。その中で男性たちは「何かを奪われている」といった剥奪感情を、地位や振る舞い方、経済力など多方面で感じている。それは男性を蝕むと同時に、「Toxic Masculinity」の暴走を引き起こす背景ともなっている。

  • 男性相談という動き
    政策的に必要なのは、男性性を考慮した男性を対象とした公的相談事業の設置である。

  • スウェーデンにおける「男性のための危機センター」
    スウェーデンは女性の社会参画に伴い変化する男性の生活にいち早く対応するため、相談事業を展開した。相談内容は家族を含む人間関係がトップだということだ。

  • 台湾における「男性のためのホットライン」
    DV等の加害者男性に、自分たちを見つめ直し、何が問題なのかを知るすべを提供するために設置された。(※ホットラインの詳細な運用や相談の実情が記載あり、非常に興味深い節でした!)

  • 台湾の性暴力加害者対応
    (同上)

男性とケアの力

 ケアリング・マスキュリニティという概念がある。これはケア労働に男性が深く従事すること、それにより他者へ深い配慮が可能になることを意味する。「男性のケア力」を考える時に重要な課題は、男性側の「ケアを受容する力」である。周囲のサポートの中で生きている事実を認識することが始まりである。


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