パン職人の修造105 江川と修造シリーズ リーベンアンドブロートができるまで
3ヶ月の工事期間を経て、いよいよ工場で仕事出来る様になった。
プレオープンは1週間後。
パンロンドのみんなや鳥井シェフや大木シェフにも来てもらうことにして律子に招待状の葉書を書いて貰った。
「なにこれ!桐田美月って?本物の?来てくれるわけないじゃ無い!それに売れっ子お笑い芸人のマウンテン山田さんまで招待状出すの?厚かましい。それにこの住所あってるの?」
「江川が出してくれって言うんだよ。絶対来てくれるって」
「え〜」律子は笑いながら半信半疑でハガキを出した。
程なくして修造に電話がかかってきた。
「はい」
「修造シェフお久しぶりです。NNテレビのディレクター四角志蔵です」
「あ、お久しぶりですね、四角さん」
「実は女優の桐田から話を聞きましてね、是非桐田美月とマウンテン山田の進行でリーベンアンドブロートの取材をさせて頂きたいんですが」
「えーーっ」
全く思いもしない事で修造は驚いた。
そして桐田の顔を必死で思い出そうとしたが何となくしかわからない。
「有名な女優さんなのは知ってるけど顔と名前が一致しないんだよ江川」
「修造さん何言ってるんですか、ほら!パン王座決定戦の時に審査員席に座ってた赤い衣装の女優さんじゃないですかあ。その時また会いたいって言ってたし、こないだテレビに出た時もわざわざ握手しに来てくれたでしょう?」と言ったらすぐ隣にいた律子に聞こえていた。
「それほんとなの?修造。また会いたいですって?」
その時の事を思い出した修造は汗をかきながら
「えっそんな事あったっけ?」と誤魔化した。
ーーーー
修造はディレクターの四角と話し合ってプレオープンの日に撮影に来る事になった。
プレオープンの日は5月11日、グランドオープンは15日に決めた。
「修造さん、ホームページとかSNSとかやった方がいいですよね?」
「簡単なやつでいいよ江川」
「安く作ってくれる人達の載ってるサイトから頼んでみましょうか?」
「そんなのあるんだ!探してみてよ」
「わっかりました〜」
そうだ!2階の更衣室や休憩室、事務所の事も考えなきゃ。
と言う訳で壁紙は前のを使う事にして他の物をホームセンターに買いに行く。
カーペットと机、椅子、ロッカーにマガジンラックを更衣室と休憩室に。
事務所には江川がネットで買ったパソコンデスクと来客用の机と椅子を置くつもりだったが可愛らしいピンクのソファが届く。
「ちょっとこの色、、」
「可愛いでしょう?」江川は恥ずかしがる修造を横にならせた。色はともかく3人掛けのソフアに横になってみるとフカフカで寝心地が良い。
「こりゃいいや」と言ったままいびきをかきだした。
「お疲れ様です」と言いながら江川は上着をかけてやった。
ーーーー
「修造さん、パン好き女子の小手川パン粉ちゃんが何日間か僕と一緒に駅前でチラシを配ってくれる事になったんです」
「えっ本当?助かるよ江川」
「僕たちとっても仲良しになったんです」
いつの間に、、、
江川の社交性に驚きながら本当にオープンに向けて真っ直ぐ突っ切る感じが強まってきたと実感する。
保健所の施設検査も合格したし、1回目の仕入れも済んだ。
明日からは本格的にパン作りを行う。
「本当にいよいよだな江川」
「はい!僕頑張りますね」
「うん」
ところが
修造は事務所机のセットの椅子に座って機械代やら店舗補修費その他諸々がこんなに嵩むとは、、と頭を抱えた。
チリも積もれば山となる。
後藤に言われていた通り2ヶ月分ぐらいの分の支払いの金額は残しておきたい。
修造は細かく何がいるか計算するために粉屋とか資材屋、包装紙屋などに貰った見積書をもう一度見直して計算してみた。そして人件費、光熱費、社会保険料、税金、その他諸々。
「全然足りないじゃないか。開店の時は行列を見越して大量仕入れしないと。こんなんでやってけるのか?」そう言いながら仕方ないなんとか回していかないとと覚悟を決める。初めの売り上げを支払いに回していくしかない。
不安だな。
そこに一本の電話が修造に掛かってくる。
「はい」
「修造さんですか?ご無沙汰しております。私株式会社メリットストーンの有田でございます」
え?あー!あのヘッドハンティングする為に付き纏ってた人!
「あのー何か御用ですか?俺今度こそ店を開店するんですよ」
「存じております。その事で電話しました」
「はあ」
「実はあの時お騒がせしていた鴨似田フードの奥様なんですが」
「まだ藤岡を追い回してるんですか?やめてやって貰えますかね?」
「勿論ですよ修造さん、あの時ご迷惑をおかけした事を反省されていますし、波風が立たない様にして下さった事をいたく感謝されておりまして、御開店の時の材料等3ヶ月分をお使い頂きたいとの事です」
「え!」
「私が繋ぎ役を買って出ました!」
ーーーー
有田は事務所にやってきて遠慮する修造にあれこれ使いたい材料を聞きだして、あれよあれよという間に鴨似田フーズからやって来た例の奥さんのお付きの2人、白山と青田と共に大量に材料を並べた。
「これが奥様からの開店祝いでございます、また来月も持って来ますんで」2人から言われて唖然として見ていると「御伽話みたい」と江川が言うので、「だな」と、やっと声が出た。
「こんなにして貰って感謝してますが、大丈夫なんですか?奥さんは?旦那様に叱られるのでは?」
「社長は奥様に自由過ぎるほど好きにさせておられるので」と2人が声を揃えて言っていた。
修造は薄っすら残る鴨似田フーズの奥さんとやらの記憶を辿って可愛い奥さんだしそうなるんだなあとぼんやり納得。
「俺、絶対良いものを作るんで感謝してるって言っといて下さい」修造は頭を下げた。
このチャンスを無駄にせず全て美味いパンに変えるぞ!
そう固く誓う。
さて、プレオープンの前に2人で試し焼きを夜通し続けた。
「今日は従業員さん達が初めてリーベンアンドブロートで作業を始める日ですね」
「うん」
ここまで長い長い道のりだった。
だが今日からが本当の始まりだ。
「江川、外に出ようか」
「はい」
窓の外が明るくなり、空が赤く染まって来た。
2人は駐車場の入り口から敷石とその向こうの店舗を見ながら言った。
「やっと俺達の店ができたな」
おわり
何とか無事に開店の運びに至った修造
オープンはもうすぐだ!
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