格差をなくすには、みんなが名誉欲を捨てればいいだけさ N160
レコードがない時代は至るところに歌手はいた。どれだけ歌が上手くとも下手であっても稼げる日銭に大差はなかった(*1)。レコードが生まれて、それが売れる歌手と売れない歌手が明確になるようになってから、格差は生まれはじめた。
テレビがはじまると歌手をはじめとする芸能人、スポーツ選手などが一躍名声欲の職業の頂点となった。歌が好きだから歌手をやる、野球が好きだからプロ野球選手になるのではなく、有名になれるしお金がいっぱい稼げるからという理由で職業の価値は上がった。
その一方で名声欲を得られる職業種は目指す人も多いが、残念ながらほとんど人がアンダークラスとなってしまう。野球や歌手は顕著な例だろうが、一昔前であれば電通や博報堂に勤めることが男性の名誉欲だった(女性にたくさんモテるからという理由が多かったと思う)。私の時代はまだ出版も景気が良かったので講談社とかフジテレビとかも人気だった。今はどうなんだろう。
目指す人が多かったマスコミは孫会社ひ孫会社や下請けがたくさんあって、アンダークラスはただ同然で働かされていた(今も同じだろうか?)。芸能事務所関連も毎日徹夜でボロボロになって働いていたけど、実入りは少なく30近くで辞めていく人が多いと聞いた。ある意味夢を追って、その夢を諦めたということなんだろうと。そして私の世代はとにかくマスコミに煽られて憧れた人たちが身の回りにたくさんいた。
インターネットの時代になるとユーチューバーに象徴されるようにある仕事を目指すというよりもセルフプロデュースが手短にできるようになったため、そんな怪しげな会社(ごめんなさい)に勤めるよりも手っ取り早く自宅のワンルームマンションをデザインして自分で放送するようになったんだと思う。
幸か不幸かマスコミよりミニコミの方がレバレッジは大きく、上手くヒットすれば世界で成功の報酬を得られる仕組みだ。ロングテールと言っても、ある程度の規模のお客様を獲得できることを考えれば、やはりレバレッジが大きくなったと言えよう。つまりインターネットによってますます勝ち負けの格差が大きく開くようになった。
豊かになった今、大学全入の今(貧困が理由で入れない人もいるというが)、人間の能力に大きな差はなくなっている可能性がある。だから特殊能力が必要な歌手や人工知能のプログラミングは無理かもしれないが、誰でも著名な大企業の仕事くらいはこなせるんだと思う。逆に豊かさゆえに名声欲が高まりより競争が激化している可能性がある。
もちろん最近の若い世代は全入時代ゆえに大学生にも関わらず掛け算ができない人がいるとか、漢字をろくに書けない人がいるとか、雑誌・新聞経由で噂を聞くので確かめないことにはなんとも言えないが。
と言ったことを「ウイナー・テーク・オール」(*1)を読みながら考えたりした。この本は翻訳が悪いのか、オリジナルが悪いのか、私の読み方が悪いのか、とてもいいことが書いてあるにも関わらずイマイチ頭にスッキリ入ってこない。上手に書評を書こうと思ったが、断片的に感じたことを書く結果となった。
何れにせよ、豊かなデジタル時代は名誉欲こそが全てだ。お金は補助的なものだが、お金の量こそ名誉を決める。みんなが名誉欲を捨てると給与は平準化される可能性がある。少なくとも今ほどの格差はなくなるよ。
*1) フィリップ・J. クック、 ロバート・H. フランク「ウイナー・テーク・オール」