M&Aで大事なことはPMIではない。買収前の合意事項だ。

 しばしばM&Aで大事なこと(買収で失敗した敗因)はPMIだと言われる。その理由は買収をしておしまいの気分になってしまう日本人の気質があるのだろう(本当にアテンションがなくなり次のイベントに関心事が移ってしまう)。ついでにいえば、企画(思いついた人)と実行(汗をかく人)が日本組織の場合は異なることが多いこともあるだろう。M&Aの企画推進者とPMIのマネージャは異なることがほとんどだ。そんなこともあって、M&Aをゆりかごから墓場まで経験をしている日本人の人材の数はとても少ない。

  その数少ない一気通貫のクロスボーダーのM&Aの経験をした日本人として思うところは、M&Aで大事なことは買収前の合意事項だ。

  PMIで苦労するところは買収先の外国人経営者が言うことを聞かないことだろう。だが外国人からすれば言うことを聞く必要がなぜあるのか?と思っていることが多い。少なくとも契約社会(訴訟社会とも言えるが)の彼らは契約事項を遵守する。つまり買収時に交わした契約と目標を達成するために経営陣は尽力をする。しかし日本の組織の場合、買収時は買収が目的となっているので、買収先の企業や経営陣に対する具体的な目標や期待事項が不在だ。そして買収後にいろいろな具体的な事象が起きてきた際に個別にああしろ、こうしろとでてくるが、外国人にとってこの首尾一貫性のなさは理解に耐えないのだ。買収時にこんな話はなかったと。

 ついでに言えば、特にアングロサクソンは特に自分のテリトリーを大事にする。自分のテリトリーは自分の裁量、自分のテリトリー外は相手に従うと思考している。日本人はお互いを干渉し合うのが好きだ(好きと思っていなくてもやっている)。だから買収時に決めなかった事項は自分の裁量があると買収先の外国人経営者は考えている。

  言い換えると、彼らは事前の合意事項は従うが、事後の合意は都度交渉になるために困難を極める。したがって、ボトムアップの現場主義の日本企業はトップ(買収を決めた人々)に専門性がないことが多く、現場の専門的な業務をしている人の苦労に耐えない。

  たとえば、システムを統廃合することを合意していないととても苦労する。会計システムが別々であれば、会計操作も自由だ(マニュピレートし放題)。欧米の企業はシステム統合を必ず買収の合意事項に入れる。それはマニュピレートさせないためだ。一方、日本の企業でそこまで入れ込むだけの買収をすることは数少ない。それは相手を思いやっていきなり占領行為を行わない配慮(弱さ?) と買収の決定者に専門性がないことが要因だ。 

結論としてまとめれば、買収時にきちんと合意事項を抑えておけばPMI時に苦労することはないということだ。PMIの苦労の幾分かは未然に回避できることが多いのだ。



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