経済学部への進学が決まった人が入学までに予習しておくべきこと&習慣化しておくべきこと

 経済学部への進学が決まったら是非やっておきたいことを紹介します。それは、経済数学の予習と、経済ニュースに触れる習慣の定着です。


経済数学の予習

 良く知られているように、経済学の学習には数学が付き物です。高校の学習を超える数学が出てくることすらあります。経済学部の多くは、経済数学の授業を用意していて、そこで必要な数学の知識を学べるようになっていることが多いのですが、それでも、高校で数学をあまりやっていない人は是非事前準備をして入学したいところです。

 というのも、大学の教員は数学教育のスペシャリストでもなければ、教員免許を取得しているわけでもありません。つまり、小学校から高校までの教員と違って、「人への教え方」を体系的に学んでいないのです。そうした人が数学の授業を担当するのですから、高校までの授業と教え方が大きく違ってくるのは当たり前です。要するに、高校までの教員より教え方が下手な人が多いと言えます。しかも、大学では高校に比べて授業のコマ数が少ないので、授業がハイペースで進みます。そのため、せっかく数学の授業が開講されていても授業についていけないという事態が起こりやすいのです。

 そういう事情があるので、入学前の時間的余裕があるうちに、経済学で扱う範囲の数学を予習しておくと入学後に楽ができます。総合選抜入試や推薦入試などで2学期までに合格が決まった高校3年生は、高校の数学教師を頼りながら勉強を進めるとよいでしょう。大学教員よりも教えるのが上手であるはずです。

 では、経済学でどの程度の数学が求められるのかを紹介しておきましょう。しかし、ここで注意書きをしておかなければならないことがあります。それは、「経済学の授業でどの程度数学が用いられるかは、大学ごとに異なる」という点です。数学が苦手な学生ばかりが入学する大学では、そもそも高度な数学を使わずに経済学を教えます。そうしないと、学生の大半が落第してしまうからです。極端な話、卒業するだけなら四則演算ができれば何とかなるという大学もあります。反対に、学力の高い大学では、高校では一切扱わないような高度な数学を使う場面が出てくることがあります。

 そこでまずは、自分が入学を予定する大学のシラバス(授業計画)を読んで、どの程度の数学を学ぶのか確認してみましょう。例えば、経済数学の授業があるならば、その授業の内容を確認すると、どのようなトピックを扱うかが確認できます。シラバスは、ほとんどの大学で一般にもインターネットで公開されています。「〇〇大学 シラバス」と検索すると、その大学のシラバス検索ページがヒットするでしょう。

 上記の方法で何を学ぶのかが分かったら、その情報を基に予習してみましょう。高校数学の内容であれば、NHK高校講座の動画サイトや、家庭教師のトライの動画付き解説サイトを見て独習するというやり方もあります。高校数学の範囲全てを知っておく必要はなく、経済学で用いるのは、そのうちのごく一部です(例えば、微分が代表的です)
高校講座 (nhk.or.jp)
高校数学の勉強法のわからないを5分で解決 | 映像授業のTry IT (トライイット) (try-it.jp)

 経済数学の参考書として、下記を挙げておきます。目次を確認すると、(ある程度の学力レベルにある大学の)経済学部の1年生が何を学ぶかということが分かります。リンク先のページで目次を確認してみてください。

<経済数学の入門書:初級>
日本経済評論社 - Books (nikkeihyo.co.jp)
悩める学生のための経済・経営数学入門 - 共立出版 (kyoritsu-pub.co.jp)

<経済数学の入門書:中級>
経済数学入門|日本評論社 (nippyo.co.jp)
[改訂版]経済学で出る数学|日本評論社 (nippyo.co.jp)
経済学で出る数学 ワークブックでじっくり攻める|日本評論社 (nippyo.co.jp)

 『経済学で出る数学』という本では積分や行列(線形代数)まで扱っていることが分かるでしょうか。現在の学習指導要領では、積分は数学Ⅲで学びますが、行列は高校数学の本格的学習範囲から外れてしまいました(2022年度から施行された新たな学習指導要領での数学Cで若干含まれますが)。ここからもお分かりの通り、繰り返しになりますが、学力的にハイレベルな大学に進学する人は、数学Ⅱ・Bまでしか学んでいない人も、数学Ⅲまで学んでいる人も、事前に準備しておくと後が楽です。

 最近では、学生の数学の素養に応じて大学側が履修科目の組み立てを設計するケースも出てきています。例えば、慶應義塾大学経済学部では、2つの履修タイプが用意され、学生はどちらかを選択しなければなりません。数学が得意な人向けの履修タイプでは、高校までの数学の単元のうち、どのようなことを理解しておく必要があるのか、下記のファイルにまとめられています。ここまで紹介してきた単元に追加して、三角関数が挙げられています。
kikoku_econ.pdf (keio.ac.jp)


 ここまで読んで、「経済学部に進学するのは不安だ」と思う人もいるでしょう。しかし最初に述べた通り、どの程度数学を使用するかは、大学によって異なります。さらに、ゼミなどで詳しく学ぶ分野次第で必要度は全く異なりますし、数学を全然使わない科目ばかりを履修してやり過ごすことも可能な大学が多いでしょう(例えば、歴史・思想分野や海外地域の経済事情に関する科目であれば数学の必要度は格段に落ちるケースが多いでしょう。数学を避けたいならこうした分野が充実している大学を選ぶとよいでしょう)。学部選びや受験校選びの段階にあって、自分の数学力が経済学部で通用するのか不安に思う場合は、志望校のオープンキャンパスに参加し、実際のところどの程度数学ができればその大学の授業についていけるのか、詳しく質問して疑問を解消することをお勧めします。


 なお、経済学で微分や積分を使う場合(そのうちよく使うのは微分の方)に、ただ微分積分を学ぶよりも、「なぜこの場面で微分や積分を使うのか」という概念理解の方がより重要です。その意味を知るには、物理学の世界で微分や積分がなぜ必要なのか、どのように使われてきたのか、といったことも豆知識として知っておくとよいでしょう。物理学の発想を経済学は輸入しています。物理学の感覚が身についていれば、経済学で微分積分を使う理由がすんなり理解できるでしょう。


経済ニュースに触れることを習慣化

 経済に興味が無かったり、現代の経済や社会、制度・政策に問題意識を持たなかったりする人が経済学を学んでも、何にもなりません。大学で学んだ内容なんて、定期試験が終わったらすぐに忘れてしまうでしょう。無為な4年間を大学で過ごすだけです。そんな大学生活に費やすお金も無駄です。

 しかし経済に問題意識を持っていれば、大学の授業で教わる内容を「実感」を伴って理解できます。教員が授業内で話したことを、自分の中に元々あった問題意識や知識と結合させながら、現実社会をより深く、より広く考察できるようになります。こうして得た知識は、卒業後も覚えているものです。

 そうするためには、何もしないまま経済学部に進学してはいけません。経済ニュースを毎日少しずつでも読んだり見たりする習慣を身に付けましょう。

 理想を言えば、日本経済新聞を読みこなすようになるべきですが、それは難しいと思う高校生が大多数でしょう。次善の提案として、テレビ東京系列の「ワールドビジネスサテライト(WBS)」を視聴することをお勧めします。インターネット配信もされています。

 ちなみに、経営学部・商学部・国公立大学の経済学系学部では、経営学・会計学・マーケティングを学ぶことになりますが、ここでも同様にビジネスに関心がない人に対する教育効果は非常に小さくなります。高校生のうちに、ビジネスニュースに慣れ親しんでおきましょう。上記の日本経済新聞やWBSだけでなく、図書館などで日経MJを読む、ビジネス誌を読む、家庭でビジネスドキュメンタリー(「カンブリア宮殿」など)を見るといった習慣を付けましょう。

 国際経済や開発経済に関心がある人や、政治系の学部に進学する人には、NHKの「国際報道2024」もお薦めです。