ポチポチ物語
私の友達のあっちゃんが交通事故にあって死んで、残念だねとか、悲しいねとか言い合ってたら、同じく友達のたかみなが、あっちゃんの事故現場に行きたいと言い出す。
え、と私は思う。そんなところに行って、どうすんの?
お供えとかしたいし、とたかみなは言う。
でも、実際に事故があった場所に行くのは、なんか怖いんだよなーと思ってたら、そんな私の顔を見て、たかみなが言う。
「じゃあ、遥香はこの事故、忘れちゃってもいいの?」
忘れちゃってもいいの?
どういうことだろう。事故現場に行ったりしないと、私たちはあっちゃんが死んだことを忘れてしまうってことだろうか?
どうしてそう言えるのか?
疑問は次々にわいてくるけど、たかみなのじっと見つめてくる視線、というか圧力みたいなのに根負けして、学校帰りに、あっちゃんの事故現場に立ち寄ることになる。
で、学校が終わり、校門前で待ち合わせて、たかみなと二人、あっちゃんの事故現場へと向かう。
たかみなはなんだかテンションが高いように見える。
あっちゃんの思い出話、打ち明けてくれた秘密だのなんだの、一人で盛り上がってるけど、なにそれ、私はなんだかのれない。
まるであっちゃんが死んだのを面白がってるみたいな、ていうか、忘れちゃってもいいのって言ってたけど、そういうたかみなが、なにかを忘れてしまってる感じがするのだけど?
私は小さくため息をついて、空を見上げる。
灰色の曇り空が、私のゆううつの果てしなさみたいに、どこまでも広がっている。
そうこうするうちに、事故現場へとたどり着く。
現場を目にして驚いたのは、お供え物の多さだった。
あっちゃんが死んだ場所の周辺に、おびただしい数のお供え物。
あっちゃんが好きだったお菓子だのジュースだの、花束だの、なんだのって、私は呆れてしまう。
だって、こんなお供えをしたところで、あっちゃんはもういないのだ。ここはただの事故現場であって、こんなお菓子とかを置くところではないのだ。通行人の邪魔にもなるし、そのうち腐ったり虫がたかったりして、迷惑もかけるだろう。
それを分かっているのだろうか?
なんでこんなことをするんだろう?
善意だろうか、物語だろうか、いずれにしても、意味はないのだ。ただ迷惑なだけなのだ。
でもたかみなはなんだか嬉しそうだった。
こんなにお供え物が集まってるーとか言って。
バカだなと私は思う。なにも考えていないのだ。
一人目を輝かせてるたかみなを放っておいて、私は先に帰ることにする。
あーバカらしい、と私は思う。
なにも考えてないやつらの空っぽな物語。増殖する無意味。ごっこ遊び。
それらに意味はないのだ。
あるけれど、ないのだ。
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