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ああ結婚(Matrimonio all'italiana) デ・シーカ

 先日ヴィットリオ・デ・シーカの「ひまわり」を見て、またソフィア・ローレンxマルチェロ・マストロヤンニの黄金コンビの映画がみたくなり、「ああ結婚(Matrimonio all'italiana)」(1964年)を再見しました。

↓↓ヴィットリオ・デ・シーカ監督の「ひまわり」のレビューはこちら


 この映画は「ひまわり」よりも以前の映画ですが、やはりデ・シーカらしく、コメディタッチでテンポよく進みながらも最後感動で涙してしまう、そんな映画です。当時はデ・シーカの新境地と言われたそうなので、そのスタイルが確立されたのはこの頃のようです。

 日本語タイトルは「ああ結婚」となっていますが、原題の”Matrimonio all'italiana"とはつまり”イタリア式結婚”という意味です。(Italianaなのはイタリア人女性という意味ではなく、”Maniera"(方法)が省略されているので女性名詞というわけです。)

 原作はなんと戯曲作家のEduardo De Filippoの喜劇でした。(クリスマスになるとイタリアのテレビでよく放映される「クピエッロ家のクリスマス」とかが有名ですよね。そういえばこれもすごいナポリ弁で難しかった・・・日本語字幕で見ましたが。)

 この映画のマストロヤンニはもう救いようの無いプレイボーイです。女性陣誰もが彼の味方になれないと思います。ソフィア・ローレン演じるフィルメーナが彼に受ける仕打ちの酷さったらないです。

 フィルメーナは貧しい家庭で育ち、10代の頃から娼館で働き、ある日マストロヤンニ演じるドメニコに見初められます。しかし彼もあまりステディな関係が好きでは無いようで、せいぜい何ヶ月に1回会いに来るぐらい。ドメニコはナポリの裕福な家庭の人なので、娼婦の彼女を公な恋人として扱われるのをあまり好ましく思っていません。なので肉体関係は求めるけれども、友人に紹介したり、公共の場でのデートはしてくれません。フィルメーナが、いい加減結婚をしたい旨をほのめかすと「マンマに紹介してやる」と実家に連れて行ってもらう約束をとうとうしてくれます。狂喜するフィルメーナ。しかし彼は母に、彼女をメイドとして紹介します。彼女はそれでもあきらめずメイド兼Pasticceria(ドメニコ家が経営するケーキ屋)の女主人としてとにかく愛する彼の側に居続けます。ドメニコは何年も何年も彼女と同居し続けるものの、彼女とは結婚を拒み続けます。

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 どうしてドメニコはこんなに結婚を拒むのでしょう。それは彼がプレイボーイだったこともありますが、当時イタリアではそもそも離婚が認められていなかったことが大きいでしょう。

 カトリック国のイタリアでは昔、離婚を認めていませんでした。1970年から離婚ができるようになりましたが、それでも離婚がしづらい国として有名です。日本のように離婚届を市役所に出すだけではなく、今でも必ず裁判所を通して法定離婚を認められ、かつその後宗教離婚の手続きもとらなければ正式な離婚はできません。しかも、半年間別居をしたことを証明しないと、法廷離婚手続きさえもできないのです。(2015年までは3年間も別居しなければならなかったそうです)別居中も夫婦のどちらかが生活ができないような状況であれば、経済的余裕のある方が経済支援を行う義務があります。(大抵は夫が妻に対して経済的支援を行うことが多いので、男の人の方が余計嫌がったりする)とにかく弁護士費用やら別居費用やらお金がかかります。この結婚制度が嫌で、パートナーのまま居続ける人たちもイタリアはたくさんいます。(自分たちが将来どう転ぶかわからないからという理由もありますが、この制度に異議を唱えたいというポリシーを表するために結婚しない人もいます)

 この映画は「イタリア式」と題していますが、日本でもいまだにしぶとく残る家父長制度に「ああ結婚って・・・」と思う人は少なからずいると思います。日本公開当時1965年ではもっともっと共感した人はいたのではないでしょうか。このフィルメーナのように、ここまでメイドと妻の境界線が無いのは極端だと思いつつも、心情としては日本の奥様方も変わらなかったと思います。

 エドアルド・フィリッポの社会風刺的喜劇が私は個人的に好きで、この映画も回想シーンはありますが、それ以外はすべてドメニコ家の中で展開するドタバタイタリアンコメディです。確かに戯曲的な良さを残したまま撮られています。

 ソフィア・ローレンも麗しい10代から、恐ろしい魔女のような40代まで演じ分けており、迫力があります。彼女そのものなんじゃないかと思わせる、ぴったりな役柄です。自分の卑しさを自覚しながらも、逞しく生きた(そしてなかなかの策略家の)フィルメーナが最後にやっと落とす涙には、きっとちょっと涙腺が緩んでしまいます。

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 この映画ではPasticceriaを経営するドメニコさん家が舞台なので、ところどころPastinaを食べるシーンが出てきます。Pastinaってよくイタリア に売っている小さなケーキ類の総称なんですけど(ニュアンスが難しい)この映画ではおそらくBignè(ビニエというシュークリームみたいなもの)を良く食べています。(ナポリでもビニエと呼称するかどうかちょっと自信ないです)

 昨日、友人の牧場からGelatoが届いたので(コロナの影響で余剰在庫になってしまった牛乳をGelatoに加工したもの)、ビニエを作ってアイスを挟んでみました。ビニエの作り方は意外に簡単です。形にこだわらないで絞り器などを使わなかったので簡単にできました。この猛暑の毎日のお供にぴったりです。

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イタリアの皆さんは自粛中でも家のTerazzaで水着になって日光浴などをしていて、どんなときでも夏の楽しみ方を知っていて感心します。羨ましいかぎりです。できるだけ私も工夫して夏を楽しみたいものです。

◉Ricetta

Bignè con gelato(ジェラートを挟んだビニエ)

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<Ingredienti>

・卵4個

・水 250ml

・薄力粉(Farina00) 150g

・バター 45g

・塩少々

1. 水を入れた小さな鍋を火にかけて、バターを溶かし、小麦粉を混ぜる。

2. ひとつにまとまったら、溶き卵を混ぜて塩少々加える。

3. オーブン板のクッキングシートの上に、掌サイズで丸く生地を置く。(絞り器で綺麗にやってもよい)

4. 200度のオーブンで20−25分焼くと、膨らんでいきます。

5. 焼けたら、オーブンを少し開けっぱなしにして乾かす。冷めたら、ジェラートを挟んでできあがり!(私はジェラートにココアパウダーを混ぜました)

Buon appetito!



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