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71) ビタミンB1は糖化最終生成物(AGEs)を減らす

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術71

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。

【炭水化物は糖質と食物繊維に分けられる】

 炭水化物(carbohydrate)は単糖を構成成分とする有機化合物の総称で、代謝されてエネルギー源となる「糖質(saccharides)」と人の消化酵素で消化されない(したがって、エネルギー源にならない)「食物繊維(dietary fiber)」に分けられます。つまり、炭水化物は糖質と食物繊維から成ります。
 
炭水化物の多くは分子式がCmH2nOnで表され、これを書き直すとCm(H2O)nとなり、炭素に水が結合した物質のように見えるため炭水化物と呼ばれます。
 
炭水化物は単糖類、少糖類、多糖類に分けられます。単糖は炭水化物の最小単位で、それ以上分解すると糖の性質を失います。
 
少糖は単糖が2個〜10個程度が縮合したものでオリゴ糖とも言います。砂糖の主成分である蔗糖はグルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)が結合した二糖類です。
 
単糖が多数結合したものが多糖です。穀物に含まれる澱粉はグルコースが多数結合したものです。
 
栄養成分表示では、タンパク質・脂質・ミネラルのどれにも分類されないものが炭水化物になり、炭水化物から食物繊維を除いたものが糖質になります。糖質のうち、砂糖や乳糖などの二糖類とグルコースやフルクトースなどの単糖類は糖類と表示されています。
 
食物中の糖質は消化管でグルコースやフルクトースのような単糖まで分解されて吸収されます。グルコースは全身の細胞に運ばれて生体エネルギーであるATP(アデノシン3リン酸)の産生に利用されます。フルクトースは肝臓に運ばれてグルコースや中性脂肪に変換されて利用されます。



【グルコースはアルデヒド基を持つ】

 炭水化物は、水酸基(-OH)を多数持ち、さらに、アルデヒド基(-CHO)または、ケトン基(>C=O)のどちらかを持っています。アルデヒド基を持つ単糖をアルドース(ポリヒドロキシアルデヒド)といい、ケトン基を持つ単糖をケトース(ポリヒドロキシケトン)といいます。酸素原子と二重結合でつながっている炭素を末端に持つものがアルドースで、内部に持つものがケトースということになります。グルコース(ブドウ糖)はアルドース、フルクトース(果糖)はケトースになります(図)。
 
分子内に遊離性のアルデヒド基やケトン基を持っていると還元性を示すので、このような糖類を還元糖と言います。「還元」というのは、他の物質から酸素を奪い、自分は酸化される性質です。この還元糖の性質があるため、グルコースやフルクトースはタンパク質やアミノ酸と反応します。

図:糖質は水酸基(-OH)を多数持ち、アルデヒド基(-CHO)かケトン基(>C=O)を持つ。アルデヒド基を持つ単糖をアルドース、ケトン基を持つ単糖をケトースと呼ぶ。グルコースはアルドースで、フルクトースはケトースになる。グルコースもフルクトースも還元性をもち、タンパク質やアミノ酸と結合する。



【アルデヒド基はタンパク質と結合する】

 アルデヒド基はタンパク質の側鎖のアミノ基と反応して結合します。病理検査で組織を固定する時にホルマリン(ホルムアルデヒドの水溶液)やグルタールアルデヒドを使用します。これは、ホルムアルデヒドやグルタールアルデヒドのアルデヒド基が組織のタンパク質のアミノ基と反応してタンパク質を架橋して凝固させる作用を持つからです。「タンパク質の架橋」というのは、異なるタンパク質分子に橋を架けるようにして結合させることです。架橋されたタンパク質は正常の働きを行うことができなくなります。
 
アルデヒド基をもつグルコースも、細胞や組織の様々なタンパク質に結合して、働きを阻害します。つまり、グルコースはアルデヒド基を持つので、体に毒になる可能性を秘めているのです。
 
タンパク質のN未端あるいは分子内に含まれるリジン残基の遊離アミノ基はグルコースのアルデヒド基と非酵素的に結合します。この給合はいったん形成されると自然に解離することはありません。これを「タンパク質の糖化」といいます。
 
タンパク質の糖化は血糖値の高さに比例して起こるため、寿命の判明しているタンパク質の糖化度を測定すれば、過去のある一定期間の血糖の高さを推定することができます。この原理を利用したのが、糖尿病の検査に使われるヘモグロビンA1c(HbA1c)です。
 
赤血球の寿命は約120日なので、赤血球に含まれるヘモグロビンというタンパク質の糖化の度合いを測定すると、過去1〜2ヶ月間の血糖値の指標になると考えられています。
 
食後に血糖が上がると、体は膵臓からインスリンを分泌して血糖を下げます。このインスリンによる血糖調節機構が破綻し、アルデヒド基をもつグルコースの毒性によって細胞や組織のダメージが進む状態が糖尿病という病気です。



【糖化したタンパク質から糖化最終生成物(AGEs)ができる】

 料理で食材を加熱すると、グルコースやフルクトースのような還元糖とアミノ化合物(タンパク質やペプチドやアミノ酸)が反応して様々な物質ができます。これらの物質は料理の味や香りや色とも関係しています。
 
この反応はアミノカルボニル反応、あるいは発見者の名前をとってメイラード(Maillard)反応と呼ばれています。このメイラード反応は非酵素的な反応で、加熱によって短時間で進行しますが、常温でも長い時間をかけて進行します。
 
生体内でグルコースやフルクトースなどの還元糖がタンパク質に結合する糖化反応も生体内で起こるメイラード反応です。
 
体内で生成した糖化タンパク質はその後分解して様々な低分子物質が生成します。これらの物質を糖化最終生成物(advanced glycation endproducts;AGEs)と言います。AGEsというのは糖化反応による生成物の総称で、多数の種類が知られています。このAGEsという物質が、さらにタンパク質を変性させ、炎症や酸化ストレスを高めて老化を促進します。
 
すなわち、AGEsはタンパク質を架橋して変性させ、正常な働きを阻害します。アルブミンなどの血清中のタンパク質にAGEsが結合します。マクロファージなどの炎症細胞や血管内皮細胞にはAGEsで修飾されたタンパク質が結合する複数の種類の受容体があり、これらの受容体にAGEs修飾タンパク質が結合すると細胞内のシグナル伝達系が活性化されて、増殖因子や炎症性サイトカインの産生が促進され、活性酸素の発生も増えてきます(図)。

図:食事中の糖質から体内に摂取された還元糖(グルコースやフルクトース)はタンパク質のアミノ基と結合してタンパク質を糖化させてタンパク質の働きを妨げる。糖化したタンパク質は分解して様々な物質が生成し、これを糖化最終生成物(Advanced Glycation Endproducts: AGEs)という。AGEsはタンパク質を架橋して変性させる。AGEsが結合したタンパク質が細胞のAGE受容体に結合すると細胞内のシグナル伝達系を介して、増殖因子や炎症性サイトカインの産生が亢進し、活性酸素の産生も増える。これらは、細胞や組織の働きを低下させ、老化を促進する。



【糖化したタンパク質やAGEsが老化を促進する】

 消化管粘膜上皮や血液細胞のように再生によって絶えず入れ替わっている細胞であれば、タンパク質の糖化やAGEsによってタンパク質の架橋や変性が起こっても、新しい細胞に交代することで若い状態を維持できます。
 
一方、寿命の長い細胞やタンパク質は架橋・変性が蓄積するので、機能障害が次第に顕著になります。例えば、神経細胞は増殖や再生をしないで一生使われるので、加齢とともにタンパク質の架橋や変性が蓄積して機能が低下していきます。皮膚のコラーゲンが架橋・変性すると肌の張りや弾力性が低下します。
 
血管のコラーゲンやエラスチンも寿命が長いので、これらのタンパク質の架橋・変性が蓄積すると体中の血管が徐々に破壊されて多くの臓器の働きが低下します。「人は血管とともに老化する」と言われています。血管が老化して固くなると、臓器や組織を養う血液循環が悪くなり働きが低下するからです。健康を維持するためには血管を柔らかい状態に維持することが必須であり、そのためには血管のタンパク質の糖化やAGEs蓄積を防ぐことが大切なのです。
 
白内障もタンパク質の糖化が原因です。眼のレンズに相当する水晶体を満たすクリスタリンというタンパク質は一度作られると補充や交換ができません。クリスタリンの糖化による変性が進行すると固くなり透明度が低下して視力に障害がでるのが白内障です。
 
このように、神経や血管や皮膚や水晶体などのタンパク質に糖化が進むことによって、様々な老化現象が起こっています。



【糖質の摂取量が多いほど老化が促進される】

 糖質を多く摂取すると血糖が上昇し、タンパク質の糖化やAGEsの産生が増えます。健常者でも、皮膚コラーゲン中のAGEs蓄積量は加齢とともに増加し、糖尿病患者で同年齢の健常者よりもAGEsの量が多いことが報告されています。
 
糖化によるAGEsの生成・蓄積は、糖尿病における様々な組織の機能低下だけでなく、動脈硬化や認知症や骨粗鬆症や皮膚の弾力低下など、加齢に伴う多くの老化現象の根本的な原因となっています。AGEsは老化促進物質であり、様々な病気を引き起こす元凶と言えます。
 
つまり、糖質自体に老化を促進する作用があり、タンパク質の糖化やAGEsの産生を減らすこと、すなわち糖質摂取を減らすことで老化を遅らせることができると言えます。
 
空腹時の血液中のグルコースの濃度(血糖値)は100cc(1デシリットル)当たり80〜100mg程度です。体重60kgの人で血液は5リットル程度ですので、体内の血液中のグルコースの総量は5g程度です。これが、血液で全ての細胞に渡されてエネルギー産生に使用されます。5gというのは20キロカロリーですので、体のエネルギーを10分程度維持できる量です。
 
食事で糖質を摂取すると血糖値が上昇しますが、インスリンが直ぐに分泌されて、グルコースを肝臓や筋肉でグリコーゲンに変換したり、余ったグルコースは中性脂肪に変換して脂肪組織に貯蔵し、血中のグルコースを高い状態にしないように厳密に制御されています。これは、グルコースが基本的には生体に毒になるから、必要最低限に血糖を維持する必要があるのです。
 
つまり、糖質はエネルギー源として有用ですが、基本的には生体にとって毒作用もあるという二面性を持っている物質なのです(図)。

図:グルコースはアルデヒド基(-CHO)を持ち、フルクトースはケトン基(>C=O)を持つ。アルデヒド基を持つ単糖をアルドースといい、ケトン基を持つ単糖をケトースと言う。グルコース(ブドウ糖)はアルドース、フルクトース(果糖)はケトースになる。分子内に遊離性のアルデヒド基やケトン基を持っていると還元性を示すので、このような糖類を還元糖と言う。還元糖はタンパク質やアミノ酸と反応してタンパク質の糖化を引き起こし、糖化したタンパク質は分解して糖化最終生成物(AGEs)となる。糖化したタンパク質やAGEsはタンパク質の機能低下や炎症反応や酸化ストレスを高める作用があり、老化を促進し、動脈硬化やアルツハイマー病や糖尿病合併症など様々な疾患の進行を促進する。



【ビタミンB1は糖質の代謝に必要】

 ビタミンB1 (チアミン)  は、1910年に鈴木梅太郎によって米糠から発見された水溶性のビタミンです。天然にはチアミン1リン酸、チアミン2リン酸 、チアミン3リン酸の3種類のリン酸エステルが存在します。これら3種類のビタミンB1のリン酸エステル体は、摂取するとビタミンB1となって吸収され、生体内で再びリン酸化されます。

体内では主にチアミン2リン酸の形で存在し、糖質および分岐鎖アミノ酸代謝における酵素 (トランスケトラーゼ、ピルビン酸脱水素酵素、α-ケトグルタル酸脱水素酵素) の補酵素として働きます。

図:チアミン(thiamine)は、ビタミンB1とも呼ばれる。チアミンは体内でリン酸化されてチアミン二リン酸(thiamine diphosphate)になり、補酵素として働く。チアミン二リン酸はチアミンピロリン酸(Thiamine pyrophosphate)とも呼ばれる。


 チアミン二リン酸は、トランスケトラーゼ、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ、分岐鎖α-ケト酸デヒドロゲナーゼE1などの酵素の活性に必要な補因子です。グルコース、脂肪酸、タンパク質の代謝、およびアデノシン三リン酸(ATP)の生成において重要な働きを担っています。

これらの酵素が適切に機能しない場合、エネルギー代謝が損なわれ、酸化ストレスが増加します。同時に、化学反応の経路を変更すると、望ましくない化合物が蓄積します。たとえば、ピルビン酸デヒドロゲナーゼが損なわれると、乳酸が生成されます。

トランスケトラーゼ活性が低下すると糖化最終生成物(AGEs)が増えます。トランスケトラーゼはAGEsの元となる物質をペントースリン酸経路に回し、体組織のAGEs化を軽減させます。つまり、ビタミンB1は糖化最終生成物(AGEs)の生成を減らす効果があります。
 
チアミンは半減期が約10日の水溶性ビタミンであるため、人体に大量に貯蔵されることはありません。その体内含有量は約25〜30mgです。摂取量が不十分な状態では、2〜3週間で欠乏症が発症する可能性があります。

ビタミンB1の1日所要量は摂取エネルギー1000k㎈あたり0.4㎎とされています。ビタミンB1欠乏で発症する脚気は、以前はビタミンB1の欠如した精白米を常食することによって、軍隊や学生で多くみられましたが、最近はインスタント食品の普及により、極度の偏食をする人にも稀にみられます。



【チアミンの生物学的利用能を高めたベンフォチアミン】

 水溶性チアミンの生物学的利用能は限られています。この制限を克服するために、チアミンの脂溶性誘導体が開発されました。最初の親油性チアミン類似体は、1950年代にニンニク抽出物から分離されました。それは、アリチアミンとして知られている二硫化アリル誘導体でした。それは腸でより容易に吸収され、チアミンよりも安定しており、チアミナーゼによって分解されません。

次に、アリチアミンの分子構造に基づいて、様々な合成誘導体が合成されました。これらの脂溶性誘導体は、受動拡散を介して膜を介して容易に拡散し、よりよく吸収されます。 

ベンフォチアミン(Benfotiamine)は合成チアミン(ビタミンB1)誘導体の一つです。ベンフォチアミンはサプリメントとしても、医療用(処方薬)としても販売されています。

さらに、ビタミンB6やアルファリポ酸もグルコース代謝を促進して糖化最終生成物を減らす効果があります。
 
糖質の摂取を減らし、ビタミンB1(ベンフォチアミン)とビタミンB6とR体アルファリポ酸をサプリメントで摂取して糖質代謝を良くすると糖化最終生成物を減らし、老化の予防に有効です。

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術 記事まとめ


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