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弁護士ばんぶうの不倫裁判百選

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弁護士 齋藤健博が、不倫判例を独自の理論で、わかりやすく解説しています。
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#結婚

不倫裁判百選99番外編ー不倫慰謝料を否定する見解の理由について考える

 不倫の慰謝料を交際相手に請求する見解は、強い批判にさらされています。  この見解の論者は、不貞行為が有責性の典型であることから,常にと言って差し支えないくらい有責行為としての不貞が持ち出される。本来離婚訴訟では,有責行為に焦点を合わせた醜い争いに勢力を費やすことにピリオドを打って,今後における両当事者の生活をいかに確保するかに積極的であるべきではないか。とも論じています。  私は、この見解の論拠をもって不倫の慰謝料請求を配偶者の不倫相手に請求すること否定することはできない

不倫裁判百選90調査費用全額が認められた事例

0 はじめに不倫裁判百選では調査費用についても、どの程度まで認められるのか、これもテーマとして多く扱ってきました。 全額認められる事例に特徴はあるのか?その多くがあまり検討をすることなく、慰謝料の1割にとどまるものばかりでした。 2 事案の概要と当事者の主張以下原告は、必要不可欠な主張であると調査の重要性を主張しますが、被告は、あまり調査費用額の相当性について積極的には争っていないことが理解できます。 (原告の主張) (1)被告とCは,遅くとも平成25年1月頃から親密な

不倫裁判百選89回数が少なくても悪質な交際なのか

0 はじめに悪質な交際、とは、裁判所はどのようなものを想定しているのか、不倫裁判百選ではその境界線を探ってきました。 裁判所が悪質と考える基準は、配偶者が異論を唱えても継続していることを一要素としている裁判例をご紹介いたします。 上記57番事例との違いは、結果を重視していないことです。 1 事案の概要と当事者の主張東京地方裁判所において平成27年3月27日に出された裁判例は、不貞回数が少ないと指摘しつつも悪質であると評価を下し、200万円の支払いを認容しています。 ‥

不倫裁判百選88被告との交際を望んでいたのであるから自らが既婚者であることが被告に認識されないよう少なくとも被告の面前においては同指輪をはずしていた?

0 はじめに不倫裁判百選では、既婚であることを知らず、交際関係を継続してしまった事件を多く扱っています。 その多くが、過失ありとして慰謝料請求されてしまうことが多いですが、無過失と判断されている事例を紹介します。 1 事案の概要と当事者の主張東京地方裁判所において平成25年7月10日に出された裁判例は、被告が、交際者が未婚であると信じたことにつき、過失がないと判断しています。過失がないと判断されるには、どんな事情が必要なのか? 東京地方裁判所において平成25年7月10日

不倫裁判百選82だーりん、結婚してくださいって言葉が実現するの待っているよ。

0 はじめに「だーりん『結婚してください』って言葉が実現するの待っているよ。」なるメールを見つけたら、不貞行為の立証ができるか? このメールを重視し、請求を認めた裁判例をご紹介します。メールの記載を重視しないようにも思われる裁判所は、どんな基準で不貞行為を認めている?のか。 1 事案の概要東京地方裁判所において平成26年9月18日に出された裁判例は、不貞関係の存在を認め220万円の支払いを命じています。 被告は、交際相手であるAから独身であると聞かされていたのだから、な

不倫裁判百選77不倫相手は未成年?

0 はじめに慰謝料請求をするには、実は、不貞行為があった事実だけでは足りません。 不貞行為をしている認識=交際者に配偶者がいる認識=故意、もしくは、認識できなかったことに対する注意義務違反=過失、が要求されます。 どちらかを充足さない場合、請求は認められないルールなのです。 1 事案の概要東京地方裁判所において平成29年10月12日に出された裁判例は、被告が19歳である事例で、交際当初既婚であることを全く認識できず、また、認識できないことに対して過失がない判断をしていま

不倫裁判百選67不貞行為1回110万円

0 はじめに不貞行為1回が110万円の支払いに結びついたら、高いと感じるか、安いと感じるのか。 本件では、他にも周辺事情を認定しつつ、宿泊を伴う明確な不貞行為は一回であると指摘したうえで110万円の支払いを命じています。 1 事案の概要東京地方裁判所において平成30年 1月31日に出された裁判例は、1回の不貞行為を認定したうえで、110万円の支払いを命じています。 おなじみ?上司と部下の関係にあります。 (1) 原告及び訴外A(以下「A」という。)は,昭和54年2月

不倫裁判百選66当初,独身であると偽りその後も既婚者であることを知らせなかった

0 はじめに裁判所に、何ら実りの得られない不毛な関係というべきとまで指摘された裁判例をご紹介いたします。 婚姻に至ることがすべてではないはずですが、どんなきっかけで、不毛な関係を継続したとまで判断されたのか? 1 事案の概要東京地方裁判所において平成22年1月14日に出された裁判例は、既婚を秘匿し続ける不法行為の成立を認めています。 (1) 原告は,昭和○年○月生の独身女性である。被告は,昭和○年○月生で,昭和55年に婚姻届出した妻との間に男子(昭和○年生)のある既婚男

不倫判例百選64内縁のゴール?内縁解消でも損害賠償はできる

0 はじめに内縁のゴールは、婚姻がすべてではないはずだと持論を展開しました。 内縁のゴールは、破綻なのか。それとも婚姻以外の幸せなのか?婚姻によらなくても、幸せはあるだろうし、破綻もあるでしょう。 1 事案の概要東京地方裁判所において平成25年6月13日に出された裁判例は、破綻の責任は原告にあることを認め、結論としては、被告に200万円の賠償義務を認めています。 (1) 原告と被告との交際開始当時の状況  ア 原告は,昭和44年○月○日生の女性であり,被告は,昭和41年

不倫判例百選63【番外編】婚姻の特権?

0 はじめに婚姻とは、法律学の世界では、婚姻とは、相手方と夫婦関係を設定する契約であると考えられています。 契りを交わして、公に届出をして、夫婦関係は成立します。契り、の中には、不貞行為をしない、などと明確に合意することはまずないでしょう。当然の前提になっている?のか、法律が定めているからなのか?浮気をすること自体がよくないから、婚姻をすると当然それが再確認されるのか? 1 法律学によるある説明から考える法律学におけるもっとも古典的なある考え方は以下のように要約できます。

不倫判例百選62不貞相手は不貞相手に対してどんな義務を負っているのか?

0 はじめに不倫をすると、どんな義務を負担するのかについて、不倫判例百選は主に被害者を不倫当事者外の配偶者、を念頭に慰謝料請求の事例を多く扱ってきました。 この図式を離れて、不倫の渦中にある当事者どおしは義務を負うのか?裁判所は、被告は、原告と継続的に性交渉を持ったことにより原告を妊娠させるに至ったことから、条理上、原告に対してその妊娠、出産に伴う苦痛の軽減に努めるべき義務を負うと判断しています。 条理とは、法源、法律に明確に書いていなくても義務がある、と考える根拠です。

不倫判例百選61婚姻の破綻は「もっぱら」被告だけが原因?

0 はじめに裁判所に、婚姻の破綻は「専ら」被告に原因があると明言された事例があります。こんな事態はありえるのか?と思うかもしれません。 不貞行為が原因だと主張していくと、若干危険だと思わせられる事例です。 1 事実関係の整理東京地方裁判所において平成24年3月22日に出された裁判例は、慰謝料請求の一部を認容している判断をしていますが、結果、その費目【内訳】は、不貞ではありませんでした。 しかし、不貞事例なのです。 前提事実 (1) 原告と被告は,平成22年6月15日,

不倫判例百選60内縁はどんな場合に成立するのか?

0 はじめに内縁関係に関しては、不倫判例百選も何度か扱ってきました。 不貞行為概念になる、ならないは、結婚しているかどうかにかかわります。 しかし、単なる婚姻届を出しているかどうかだけで割り切れないのが家族問題でしょう。裁判の現場でも、当然、そうであることは何度か扱ってきたとおりです。 では、内縁関係は具体的にどんな場合に成立するのか。私たちは内縁関係にある、なんて約束することは稀でしょうから、検討する価値があるはずです。 1 事実関係の整理と当事者の主張東京地方裁判