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不倫裁判百選88被告との交際を望んでいたのであるから自らが既婚者であることが被告に認識されないよう少なくとも被告の面前においては同指輪をはずしていた?

0 はじめに

不倫裁判百選では、既婚であることを知らず、交際関係を継続してしまった事件を多く扱っています。

その多くが、過失ありとして慰謝料請求されてしまうことが多いですが、無過失と判断されている事例を紹介します。

1 事案の概要と当事者の主張

東京地方裁判所において平成25年7月10日に出された裁判例は、被告が、交際者が未婚であると信じたことにつき、過失がないと判断しています。過失がないと判断されるには、どんな事情が必要なのか?

東京地方裁判所において平成25年7月10日に出された裁判例は、既婚であると信じたことにつき、過失がなかったとする事例です。
(1)被告が,不貞当時,Cに配偶者がいることを知っていたか又は知らないことにつき過失があるか
(原告)
 下記各事実を総合すれば,被告が,不貞当時,Cに配偶者がいることを知っていたことは明らかである。
ア 被告は,Cと勤務先を同じくしていた。
イ Cは結婚指輪をはめていた。
ウ Cの年齢からすれば一般常識として既婚者であると容易に認識できた。
エ Cは,平成22年11月又は12月,被告を同行して,静岡県内のCの姉夫婦のもとを訪れた。この際,Cの姉は,Cに対し,同人が被告と同道していたことから,原告と離婚していないことをたしなめており,これを被告も聞いていた。
オ 被告がCから離婚していると聞いていたとしても,同人が婚姻届の提出を先延ばしにする態度から既婚者であることを察知し得たはずである。
カ 仮に,Cと被告との間の長男の出生までの間,Cが既婚者であることを認識していなかったとしても,同出生後,婚姻届を提出せずに認知だけしたことから、既婚者であると容易に気付くはずである。
(被告)
 否認ないし争う。 

2 裁判所の判断 

裁判所は、やはり間接事実、いろんな事実を積み上げて判断しています。

‥(前略)‥
2 争点(1)(被告が,不貞当時,Cに配偶者がいることを知っていたか又は知らないことにつき過失があるか)について
 上記認定事実によれば,〔1〕Cは,平成22年2月過ぎ頃,被告に交際を申し込み,同年4月頃には結婚の約束をし,同年8月頃からは同居を開始したこと,〔2〕Cは,被告との交際当初から,同人との間に長男が出生した後の通知書の送付がされた平成23年8月16日に至るまで,被告に対し,一貫して自己を独身者と詐称し続けていたこと,〔3〕被告は,少なくとも平成23年1月頃までの間はCが独身者であることを全く疑わなかったこと,〔4〕被告は,Cとの間の子を妊娠し,その出産が数か月後に迫った同月頃になって,なお入籍を引き延ばそうとするCの態度をみて,同人が離婚していないのではないかと疑うようになり,同人に回答を求めるなどしたこと,〔5〕しかし,Cは,同事実を否定し,マンションの件が落ち着き,義兄の承諾が得られれば即入籍する旨を被告に言ったこと,〔6〕被告は,Cが離婚していないか否かについて具体的根拠もなく,調査手段も思い付かない中で,同人の言葉に納得せざるを得なかったこと,〔7〕その後,通知書を受領した平成23年8月16日に至って,Cが原告と離婚していないことを知ったことの各事実が認められる。

以上によれば,被告において,Cとの交際開始から通知書を受領するまでの間,Cが婚姻届を先延ばしにする態度に出ていた以外は,同人が既婚者であり離婚していないことを疑うべき具体的事情を認識し又は認識し得べき状況にはなく,Cからは婚姻届を提出することは可能だが反対する親族が納得するまで待って欲しいと言われていた(以下「本件弁解」という。)のであるから,被告がCを独身と信じたことはやむを得ないものというべきである。
 被告は,「仮に,Cと被告との間の長男の出生までの間,Cが既婚者であることを認識していなかったとしても,同出生後,婚姻届を提出せずに認知だけしたことから,既婚者であると容易に気付くはずである。」と主張するところ,被告においても,長男の出産直前までに,婚姻届を提出しないCが本当に独身なのか疑う気持ちが強くなり,同出産後にも,婚姻届を提出せず子の認知のみをしたCの態度をみて,疑いを深めたことは上記認定のとおりであるが,Cとの同居,子の妊娠を経て,出産前後に至ったこの時期に,なおCにおいて本件弁解をしていたことなどを考慮すると,被告においてCが既婚者であると知り又は知り得る状況にあったとは認めるに足りず,その他本件全証拠によるもこれを認めるに足りない。

4 若干の検討

7つの事実を指摘しています。

結婚の約束をして同居をしたこと、一貫して欺かれていたこと、疑いを持たなかったこと、既婚かの回答を求めたこと、即入籍すると話をしていたこと、調査手段がない中で信じていたこと、代理人からの書面を見て既婚であることを知ったこと、があげられていますが、少なくとも3つめの、既婚かどうかの回答を求めた時点においては多少被告も疑義が生じていたように思われます。

問題とすべきは、これ以降の行動ではないかと思うのですが・・慎重に判断しなければ、軽率に信頼する行為もすべて無過失になりかねないようにも思えます。しかし、指輪を毎回外していたかどうかまではわからないのでは・・?

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